人名漢字とはどんなもの?
子どもの名前を付けるときには、人名漢字をはじめとするさまざまなルールを押さえておく必要があります。人名漢字の内容や、選ばれた基準、人の名前に使える文字・使えない文字を見ていきます。
人名漢字は人の名前に使える漢字
人の名前に使える漢字には制限があり、その範囲は戸籍法第50条および戸籍法施行規則第60条で定められています。
具体的には、常用漢字2,136字と人名漢字863字です(2025年8月現在)。常用漢字は、社会生活で使う漢字の目安として国が決めたものです。
また、常用漢字に入らないものの、人の名前によく使われる漢字が人名漢字に選ばれています(戸籍法施行規則第60条の別表第2)。
法務省や文化庁の公式サイトでは、名付けに使える常用漢字と人名漢字を確認できます。
出典:
戸籍法施行規則第60条 | e-Gov 法令検索
子の名に使える漢字|法務省
人名漢字が選ばれた基準
人名漢字は、戸籍法第50条の「子の名には、常用平易な文字を用いなければならない」を原則にして選ばれています。
2004年に行われた人名漢字の改訂では、法務省の法制審議会人名用漢字部会が審議しました。「常用」の基準は本・雑誌などで使われる回数が多いかどうかで、「平易」の基準はJIS漢字規格です。
このとき、人の名前にふさわしいかどうかは客観的に決められないとして基準にしなかったため、「糞(くそ)」「癌(がん)」「痔(じ)」「屍(しかばね)」「呪(のろい)」などの漢字も候補に含まれました。
しかし、国民やマスコミからの批判を受けて、人名に不適切とされたこれらの漢字は人名漢字から削除されています。
人の名前に使える文字・使えない文字
人の名前を考えるときには、漢字以外の文字についても使えるもの・使えないもののルールに注意する必要があります。使える文字は次の通りです。
●常用漢字「人・家・北」など
●人名漢字「彦・怜・也」など
●平仮名
●片仮名
●漢数字
●長音符号「ー」
●繰り返し記号「々・ゝ・ゞ」
一方、以下のように使えない文字もあります。
●アルファベット
●算用数字・ローマ数字
●常用漢字と人名漢字以外の漢字
たとえ使える範囲でも、悪 ・苦・殺などのネガティブな漢字は避けた方がよいでしょう。
人名漢字が作られた理由と常用漢字との関係

そもそも、人の名前に使える漢字がなぜ制限されているのか、不思議に思う人もいるかもしれません。また、人名漢字と関わりの深い当用漢字や常用漢字とは何でしょうか? 人名漢字ができた理由や、当用漢字・常用漢字について説明します。
人名漢字の成り立ち
人名漢字はどのように生まれたのか見ていきます。1946年、内閣告示によって社会生活で使える漢字の範囲が「当用漢字(1850字)」に限定されました。
このときは人名・地名などの固有名詞を除外したものの、翌年に施行された改正戸籍法は名付けに使える漢字を当用漢字に限定します。
しかし、もともと人名によく使われていた漢字(也・弘・彦など)が除外されていたため不都合が起きます。そこで1951年に、それらの漢字を特別に「人名漢字」として名付けに使えるようにしたのが始まりです。
当用漢字・常用漢字とは?
日本では明治時代から、漢字の種類の多さや難しさを軽減するために、使用を廃止または制限しようという考え方がありました。
当用漢字は、戦後の占領政策の中でGHQの漢字廃止・制限の要求を受けて作られた「使ってよい漢字リスト」です。GHQは将来的に漢字を廃止する方針を持っていたため、当用漢字以外の漢字は基本的に使えなくなる厳しい規制でした。
その後、GHQの漢字廃止政策は立ち消えとなり、当用漢字は現在の「常用漢字」に代わります。常用漢字は社会生活で使う漢字の目安で、漢字による情報伝達をスムーズにする狙いで作られました。
出典:
常用漢字表について(答申) – 国語施策・日本語教育|文化庁
当用漢字表 – 国語施策・日本語教育|文化庁
人名漢字を使って名付けるときの注意点

子どもの名前を考えるときには、どんな名前を付けようかワクワクしたり悩んだりするでしょう。どんな名前にするかは自由ですが、子どもの将来のために気を付けたいポイントを紹介します。
読みやすい名前にする
子どもに名前を付けるときに注意したいことの一つは、名前の読みやすさです。もともと、人名漢字の読み方には規定がなく自由でした。ただし、読みにくい名前は、公式文書の手続きや子どもの生活で混乱が起きやすくなります。
現在は、2025年5月26日に施行された戸籍法改正によって「氏名として用いられる文字の読み方は一般に認められているもの」に制限されています。
例えば、「冬」に対して「なつ」など、漢字の意味と反対の読みは付けられません。漢字とほとんど関係のないものや、別人と間違えやすい読みも除外されます。この新しいルールによって、いわゆるキラキラネームは付けにくくなります。
組み合わせによっては別の意味になる
漢字の組み合わせの中には、もともとの漢字の意味ではないものの、慣用的に使われる漢字表記があります。
中にはネガティブな意味になるものや、人の名前にふさわしいとはいえないものもあるので気を付けなければなりません。組み合わせによって別の意味になる漢字の組み合わせは、例えば次のような例があります。
●里子:養子に遣る子ども
●空音:うそ
●初花:初潮
●海月:くらげ
●風樹:親に孝行できないこと
あまり神経質になるときりがないものの、子どもが嫌な思いをしないように名前を考えるときには慣用句にも注意しましょう。
人名漢字は名付けに使える特別な漢字
人名漢字は、常用漢字以外の名付けに使える漢字です。常用漢字には入っていなくても人の名前によく使われる漢字が選ばれています。
子どもの名前を付けるときには、人名漢字をはじめとした制限や気を付けたいルールがあります。工夫を凝らしたり縁起を考えたりしているうちに、どのような名前がよいのか分からなくなるかもしれません。
いちばん大切なのは、その名前が付けられた子どもにとってうれしいものであり使いやすいことでしょう。
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構成・文/HugKum編集部