
改正戸籍法ですべての国民に対して読み仮名が通知されます
改正戸籍法が5月26日に施行されます。この改正により、すべての国民に対して戸籍に記載される読み仮名が通知されます。この読み仮名は住民基本台帳によるものですので、新たな手続きは原則不要です。ただ、誤記がある場合はそれがそのまま戸籍に記載されてしまいますので必ず確認してください。
今回、戸籍に読み仮名を記載するのは、個人を特定しやすくするためだけでなく、行政手続きのデジタル化にもつなげようというねらいがあるようです。
キラキラネームにも影響?漢字との関連性が見られなければ認められない読み方に
これに先立ち、法務省はいわゆる「キラキラネーム」についても、漢字の読み方としてどこまで認めるかという判断基準を各自治体に通達しています。
それによりますと、氏名の読み仮名は、
「氏名として用いられる文字の読み方として一般に認められているものでなければならない」
というのです。
具体的にどういうことかといいますと、「太郎」を「ジョージ」と読ませたり、「健」を「ケンイチロウ」「ケンサマ」と読ませたりするなど、漢字との関連性がまったく見られないものは認められません。また、「高」を「ヒクシ」と反対の意味で読ませたり、「太郎」を「ジロウ」と誤解されるような読み方をしたりすることも認められません。
これらの例はかなり極端なものだと思いますが、個別の例ですと、自治体によって判断が分かれそうな気もします。
最近の「キラキラネーム」といわれているものは、たとえば「心」をコ、ココと読ませたり、「愛」をアと読ませたりする、漢字の読みの一部を使ったものがけっこうあります。これらの読みは漢字との関連性が保たれているわけですから、今後も認められるでしょう。
漢字本来の読みとは異なる読み方を名前につけることは江戸時代から

日本では漢字本来の読みとは異なる読み方を人名に付けることは、古くから行われてきました。その読み方は漢字の意味から類推して生まれた場合もあるし、読み方の一部が省略された場合もあり、さまざまです。
たとえば源頼朝のように「朝」をトモと読むのも、「朝」にはトモという読みはありませんので、人名で使う特殊な読み方ということになります。ただ、平安時代の『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』という国語辞典では、「朝」を仲間の意味の「ともがら」と読ませていますので、まったく関連のない読みともいえません。
このような古くから人名に使われる読みは、多くの漢和辞典に載っています。たとえば『新選漢和辞典 第8版』(小学館)には、「朝」に「さ・かた・つと・とき・とも・のり・はじめ」といった読みが示されています。
このように名前に凝った読みを付けることはけっこう古くから行われていたようです。江戸時代の国学者本居宣長(もとおりのりなが)は随筆『玉勝間(たまかつま)』(十四の巻)の中で次のようなことを書いて嘆いています。
「近ごろの名前は変な漢字を使い、変な読み方をしていて、どうしても読めない名前を多く見かける」
名前の読み方の難しい門下生が大勢いたのでしょう。
現在人名で使用できる漢字には制限がありますが、戸籍法が改正されても読み方に極端な制限が設けられるわけではありませんので、お子さんの名前にはいい漢字と、それにふさわしい読みをつけてほしいと思います。
記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。