不登校でゲーム三昧になった子どもに、親はどう向き合う? 【不登校の苦しみから抜け出す処方箋】

「不登校という概念をこの世からなくしたい」との想いから、企業や保育園・幼稚園にて不登校を理解するための講演などを行っている蓑田雅之さん。これまでの多くの保護者の方と接してきた経験をもとに、不登校の苦しみから親子で脱するための処方箋をお届けします。今回は、不登校の子どもがゲーム三昧になってしまったときの、親の向き合い方について考えます。

不登校の子どもは、なぜゲームにはまってしまうのか?

子どもが不登校になると、親はいろいろ心配になりますよね。なかでも多いのが、ゲームについての心配ではないでしょうか。まず、不登校になった子はなぜゲームにはまるのか? 理由はいくつかあると思いますが、子どもの身になって考えると分かりやすいかもしれません。

学校に行かずに家に居る子どもは、暇を持て余しています。やることがなく、退屈している。かといって、勉強したり外出したりする元気はまだありません。となると、自然に身近にあるスマホやPCなどのデジタル機器に手が伸びて、ゲームで時間をつぶすようになります。

そして、ゲームというものは基本的に、子どもが楽しめるようにできています。いくらやっても飽きることがない。それでつい画面に向かう時間が長くなり、はまってしまうのです。学校に行かない子がゲームにはまるのは、ごくごく自然な流れなのですね。

ゲームは必ずしも悪いことばかりとは限らない

親世代の人間にとってはあまりいい印象のないゲームですが、実はよい面もたくさん持っています。特に不登校で落ち込んでいる時期の子には、ゲームが「救い」になっていることも珍しくありません。実際に「自分はゲームに救われた」と発言している不登校経験者は大勢います。

また、人付き合いが苦手だった子がオンラインゲームを通して話せるようになったとか、ゲームで知り合った友人に会うために閉じこもっていた子が外に出たという話も耳にします。

そして、ゲームは小さな成功体験をたくさん与えてくれます。ゲームを通して自信を付けた、自己肯定感が高まったという話もよく聞きます。

アナログ時代に育った親世代と、生まれたときからデジタル機器に囲まれて育った子どもとでは、そもそもゲームに対する感覚が違います。「ゲーム=悪」と決めつけずに、どうすればゲームと上手に付きあえるかを考えていくべきかもしれません。

ゲームは脳に悪い? 依存症になる心配は?

とはいえ、やはり心配になるのが親心というもの。夜通しでゲームをやっている子を見て、脳に悪影響があるのではないか、ゲーム依存症になったらどうしようと悩む人は少なくありません。

「ゲームが脳に悪い」という説が流れたのは2000年代のことで、「ゲーム脳の恐怖」という一冊の本がきっかけになりました。子どもがゲームをやりすぎると脳の前頭葉に異常をきたし、キレやすい人間になるという話が流布したのです。

「ゲーム脳」というインパクトの強い言葉は、世の親にゲームに対する恐怖心を植え付けました。ところがこの「ゲーム脳」なるもの、現在は根拠が薄弱とされ、否定している専門家も多数います。

稀ではありますが、確かにゲーム依存症になるケースもあります。ただ、それはゲームをやることだけで発症するのではなく、子どもを取り巻く環境や精神状態の方にむしろ要因があるとされています。

お酒と同じですね。酒好きだからといって、必ずしもアルコール依存症にはなりません。酒を飲まなくてはいられない環境や精神状態が、人をアルコール依存に駆り立てていくのです。

ゲームより好きなことが見つかれば、自然に熱は冷める

ちなみに筆者の息子も、ご多分に洩れずにゲーム三昧になった時期がありました。先生も授業もないサドベリースクールという自由な学校に通っていたときのことです。

わが家は一切制限をかけなかったので、学校でも家でも朝から晩まで、息子は一日中ゲーム機に向かってカチャカチャやっていました。でも、納得ゆくまでやり尽くしたからか、あるいはゲームより興味のあることが見つかったからか、3年ほどでゲーム熱は冷め、その後はほとんどやらなくなりました。

フリースクールなどに通う多くの子が、一時期、例外なくゲームにはまります。逆にゲームにはまらない子を見つける方が難しいくらいです。勉強もろくにせず、ゲームばかりやっている子を見て心配になる保護者は多いのですが、少なくとも私の関わった不登校児の子には、ゲーム依存症になった子は一人もいません。「案ずるより産むが易し」ということわざがありますが、これはゲームにも当てはまることだと思います。

頭ごなしに制限したり、取り上げたりすると、かえって逆効果になることも

ときどき「ゲームはよくないから」といって、強制的に制限したり、スマホやタブレットを取り上げたりする人がいます。それで一時的にはゲーム時間を減らせるかもしれませんが、でも、根本的な解決にはなりません。

むしろ制限されることで親を恨んだり、反抗的な態度に出たり、あるいは親の目を盗んでゲームをやるようになったりと、マイナス面に作用することの方が多いようです。

私個人としては、ゲームは子どもの心の居場所になっている可能性もあるので、無理に制限しない方がいいと思っています。でも、親としてどうしても心配で、制限をかけたいという場合でも、頭ごなしに禁止するのはよくないと思います。

なぜなら、それによって親子関係が悪化してしまうことがあるからです。ゲームうんぬんより、むしろ親子の心が離れてしまうことの方がよほど心配に思えます。

ゲームを通して子どもとコミュニケーションを取る

これは一つの提案ですが、ゲームを困り事とは捉えずに、子どもとコミュニケーションを取るチャンスと考えてみてはいかがでしょうか。

頭から制限や禁止することを考えず、まずは子どもがやっているゲームに興味を示すのです。「夢中になれるってすごいね!」「どこがそんなに面白いの?」「ちょっと私もやってみていい?」

自分の好きなゲームに親が興味を持つのは、子どもにとってもうれしいこと。子どもと一緒にゲームを楽しみ、教えてもらうことで、親子の会話が弾んだという話はよく聞きます。

また、親としてゲームについての心配を子どもに打ち明けるのも一つの手でしょう。「ゲームは目に悪いって聞くよ」「やりすぎると体によくないんじゃない」「昼夜逆転することが心配なんだけど」と、正直に心のうちにある心配事を打ち明けるのです。

「ゲーム=悪」と決めつけず、親が心を開いて話せば、子どもはきっと応えてくれます。そのうえで「どうやったらゲーム時間を減らせるかな」と相談すると、スムーズにいくことが多いようです。

それでも心配なときは、専門家に相談することも

とはいえ、極めて稀ではありますが、なかには深刻なゲーム依存に陥っているケースもあるでしょう。

ゲーム時間を制限しようとすると暴れる、暴言を吐く、巨額の課金を請求されたなど、自分たちで解決することが難しいと感じた場合は、ぜひ専門家を頼ってください。お住まいの自治体にある精神保健福祉センターや、児童精神科、小児科などで相談に乗ってくれます。

ゲームは親世代にとって未知のものだけに、難しさも伴います。まずはゲームをしたいという子どもの気持ちを受け止めて、そのうえで子どもと相談しながら、お互い納得のいく形でルールなどを決めていくと良いと思います。

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この記事を書いたのは…?

蓑田雅之 コピーライター

一般社団法人 楽習楽歴 代表理事長。子どもをサドベリースクールに通わせた経験から学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。「不登校という概念をこの世からなくしたい」という思いから、「おはなしワクチン」の活動を開始。企業や保育園・幼稚園にて、講演を行っている。著書に『もう不登校で悩まない! おはなしワクチン』『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』(びーんずネット)がある 。

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