まずは「学校を知ること」から
――小学校受験を考えるとき、まず取り組むべきことは何でしょうか?
横山美菜子さん(以下、横山さん):最初のステップは「学校をよく知ること」です。求められる学習内容や生活習慣、学校側が子どもにどのような行動を期待しているのかを理解しておくと、準備を効率的に進められます。
また、合格がゴールではなく、入学後の学校生活を見据えることも大切です。「こんなはずじゃなかった…」と後悔しないためにも、授業風景を見たり、在校生や先生の雰囲気を感じ取ったりして、お子さんに合った学校を選ぶことが欠かせません。
そして、夫婦で協力して受験を乗り越えるためにも、ママだけでなくパパもぜひ学校見学に行ってほしいと思います。たとえ普段あまり協力的でないパパでも、実際に学校に行くことで、「わが子に合うかどうか」を自分ごととして考えるきっかけになるはずです。
短時間でも「毎日の積み重ね」が力に
――忙しい共働き家庭だと、勉強時間の確保が大変ですよね。
横山さん:そうですね。ただ、1日15分でも30分でも机に向かい、学習を積み重ねていくことが大切です。
そして、短時間でも充実したものにするためには、まず子どもが集中できる環境を整えてみてください。
机の上をすっきりさせ、余計なものが目に入らないようにするだけでも、子どもの集中力はぐっと高まります。机に座ったらすぐに学習を始められる状態にしておくのがおすすめです。

短時間でも継続できる仕組みをつくることが大切 [画像提供:横山美菜子さん]
また、いちばん近くで見守る親御さんが「できなかったこと」ではなく「今日できるようになったこと」に目を向けてあげてください。そうすることで、子どもは達成感を積み重ねながら、前向きに取り組めるようになっていきます。
小学校受験に挑戦するご家庭の多くは、年中の秋ごろ――受験のちょうど1年前がスタート時期です。そこからでも、毎日少しずつ習慣を積み重ねていけば、着実に力を育んでいけるのです。
◆ここまでの[まとめ]
・まずは受験する学校をよく知ることが大事。
受験する学校で求められているものは? 入学後の子どもの生活をイメージできる? ぜひ夫婦で学校見学を。
・1日30分×毎日の積み重ねが力に。「1年間」の蓄積をめざして。
戦略的に進める「共働き家庭の強み」
不利じゃない! 共働き家庭の“武器”とは
――「共働き」は仕事との両立でいそがしく、デメリットではと感じる家庭も多いのではないでしょうか。小学校受験に向けて、どんな工夫が必要ですか?
横山さん:毎日あわただしく、時間に制約があるとは思いますが、共働き家庭だからこその「武器」があると思います。仕事で培った逆算思考や効率性を、そのまま受験準備にいかせるご家庭も多いですよ。
たとえば、「ゴールから逆算して学習スケジュールを立てる」「夫婦で役割分担して情報収集をする」といった工夫は、共働き家庭だからこそスムーズに実行できることも多く、受験成功の大切な土台になります。
また、ムダをそぎ落とすことで、余計なうわさや、周りとの比較に振り回されにくい面もあります。今必要なことを冷静に見極めながら、焦りすぎずに準備を進めていってほしいと思います。
“家庭はチーム”が合格への近道

――受験準備では「母親主体」になりがちなイメージがあります。
横山さん:最近はお父さんも頑張っていますよ。私のYouTubeチャンネルでも、視聴者の半分近くが男性です。特に共働きのご家庭では、お父さんも積極的に情報収集や戦略を考えている印象があります。
ただ、受験支援をしていると、ご夫婦の意見がぶつかり合い、家庭の雰囲気が険悪になってしまうケースも多く目にします。ケンカが続いたまま受験に臨むと、子どもにも大きなストレスがかかったり、結果に影響したりすることもあります。
だからこそ、日頃から話し合いを重ね、場合によっては第三者のサポートを取り入れるなどして、お互いに理解し合いながら進めていくことが大切です。子どもにとって安心できる家庭の雰囲気こそ、受験を乗り越える力につながると思います。
活用できるツールは、迷わず頼って
――日々忙しい中で、すべてを両立するのは大変ですよね。
横山さん:精神的にも体力的にも、小学校受験は想像以上にハードです。だからこそ「完璧を目指さない」ことが大切。家事や仕事、受験準備のすべてを自分ひとりで背負おうとせず、手を抜けるところは抜いて、外部サービスもうまく取り入れてください。
たとえば自治体のファミリーサポート事業では、習いごとの送迎に対応してくれるところもありますし、受験期は家事代行サービスを利用するのも有効です。祖父母に頼れるご家庭はお願いするのもひとつの方法ですが、それが難しい場合でもサポートの選択肢はいくつもあります。
「受験期だからこそ、人の手を借りる」――そんな柔軟な姿勢が、家庭全体を守り、親子の余裕にもつながっていくのだと思います。
◆ここまでの[まとめ]
・共働き家庭だからこそ「逆算思考」や「効率性」の強みを活かして受験戦略を練ろう。
・限られた時間を有効に使うために、スケジュール管理や夫婦での役割分担がカギ。
・体力的にも精神的にも忙しい毎日は、うまく外部サービスも活用して乗り越えよう。
新しい学習サポート「マジタク」の誕生

――横山さんは、ご自身の経験をもとに「マジタク」を開発されたそうですね。
横山さん:はい。私自身、子どもの受験期にリクルートでのフルタイム勤務との両立が本当に大変で…。苦労した経験をSNSに投稿したところ、「小学校受験に興味はあるけど、共働きの自分にできるのか不安」という反響が多く寄せられました。「悩んでいる人がこんなにいるんだ」という発見もあり、小学校受験における課題を強く意識するようになったことが事業のきっかけです。
当初はインスタグラムなどでの情報発信や、セミナーを行っていましたが、それだけでは根本的な課題解決にならないと感じていました。そこで「デジタルの力で、家庭の学習課題を解決できる仕組みを作ろう」と、エンジニアとタッグを組み、マジタクの開発に取り組み始めたんです。
――具体的にはどのようなサービスなのでしょうか?
横山さん:AIがその子にピッタリの問題を選び、設定時刻に自宅のプリンターから自動で印刷されるサービスです。親が教材を探したり、印刷したりする手間が省けるのが特徴です。最初はアプリだけの構想も考えていたのですが、小さい子にはやはり「紙に書く学び」も大切。そこで、デジタルの便利さとアナログのよさを組み合わせました。

実際に利用したご家庭からは、「子どもがぼんじり先生(キャラクター)からの挑戦状を楽しみにしている」「プリントが自動で出てくるので、準備の手間が省け、子どもと向き合う余裕ができた」といった声が寄せられています。
毎日のプリント準備は本当に大変です。マジタクにはトライアル期間も用意されているので、共働きで忙しいご家庭ほど、ぜひ活用してみてほしいサービスです。
「合格」だけでなく「プロセスを楽しむ」
――共働き家庭が小学校受験に挑むうえで、大切にしてほしい考え方はありますか?
横山さん:「小学校受験は、合格だけがゴールではない」と強く伝えたいです。まずは、受験をするかどうかも含め、それぞれのご家庭にとって幸せにつながる教育を選ぶことが重要です。
小学校受験を経験したご家庭の中には、残念ながら「やらなければよかった」とおっしゃる親御さんもいて、とても心苦しく感じてきました。だからこそ私は、「合格だけがすべてではなく、受験のプロセス自体が素敵な経験になる」という視点を大切にしてほしいのです。
今は私立・国立小学校だけでなく、公立小学校と民間学童を組み合わせるなど、多様な教育の選択肢があります。さまざまな手段を視野に入れつつ、たとえ合格がかなわなかった場合でも、親子で一緒に学んだ時間はかけがえのないもの。その経験自体が豊かな学びとなり、心に残る思い出になります。だからこそ、ぜひ「プロセスを楽しむこと」も大切にしていってもらえたらと心から願っています。
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お話を伺ったのは
株式会社MagicAl Pass取締役。横浜国立大学附属鎌倉小・中学校、法政大学国際文化学部卒業後、株式会社リクルートで14年間勤務。その後、共働き家庭向けの小学校受験支援サービス「マジタク」を提供する株式会社MagicAl Passを起業。これまでに小学校100校を訪問し、共働き家庭1,000組以上の受験をサポートしてきた実績を持つ。日経xwoman、ダイヤモンドオンライン、AERAkidsなどで連載を執筆するほか、NewsPicksやテレビ東京「円卓コンフィデンシャル」などのメディアにも出演。共働き世帯の小学校受験支援者として多方面で活躍中。
構成・文/牧野 未衣菜