
「潮時」は「ものごとの終わり」の意だと思っている人が5割だが…

「今が潮時だ」などというときの「潮時」ですが、みなさんは以下に示したどちらの意味で使っていますか?
- (1)ちょうどいい時期
- (2)ものごとの終わり
正解、不正解ということではなく、本来の意味は(1)です。
ただ、(2)だと思っていた人も結構いたかもしれませんね。でも、安心してください、先ごろ発表された文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」でも、46.7パーセントの人が、(2)の意味で使うと答えているのです。(1)はどうかというと、41.9パーセントです。そして、(1)(2)両方の意味だと答えた人は10.2パーセントいます。
文化庁は平成24年(2012年)度にも同じ語の調査をしていて、このときは本来の意味である(1)で使うという人が60.0パーセント、従来なかった(2)で使うという人が36.1パーセントという結果でした。つまり、10数年の間に(1)(2)が逆転してしまったのです。
なぜそのようなことになってしまったのでしょうか?
もともとは、潮が満ちる、引くを言う語

「潮時」は、使われた漢字からもお分かりのように、もともとは潮が満ちるときや、引くときを言う語です。「ソーラン節」の中に、
沖の鷗に 潮(しお)どき問えば わたしゃ立つ鳥 波に聞け チョイ
と出てくる、あの「潮時」です。
これが転じて、ものごとを行ったりやめたりするのに適当な時期といった意味になりました。「潮時をみて先生に相談する」などと使います。つまり「潮時」とは、ある流れの中で次第に何かを行うのにちょうど良い時期になるといった意味なのです。
ただ、「そろそろ引退の潮時かもしれない」「二人の関係を清算する潮時かもしれない」のように、ものごとをやめるのに適当な時期という意味で使われることもあったので、この意味から(2)の「ものごとの終わり」という意味に変化したようです。
ただ「ここらあたりが潮時と会社を辞める」は「ものごとの終わり」の意味のようですが、「ちょうどいい時期」という意味とも取れますので、意味の境界はかなり曖昧なようです。そのようなこともあって、(1)(2)両方の意味だと答えた人が10.2パーセントいたのかもしれません。
(2)ものごとの終わり、の意味は新しい意味ですが、そのような意味に変化したのは不思議でも何でもないことのようです。
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記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。