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妊娠経過は順調で、妊娠41週で出産。元気な産声も
――あちょくんを授かったときのことを教えてください。
すずきさん 息子を授かったのは、私が27歳、夫が22歳のときです。妊娠が分かったときは、とてもうれしかったです。経過は順調で、妊婦健診でも気になることは何も言われませんでした。
――初産ですが、出産は大変でしたか?
すずきさん 妊娠41週になり陣痛が来ました。私は無痛分娩を希望していて、対応できる産院に通っていたのですが、土曜日の夜に陣痛があったんです。その産院は、土曜日の夜は無痛分娩に対応できる医師がいないので、結局、自然分娩で出産することに…!
無痛分娩で出産するつもりだったのでかなり焦りましたが、夫も立ち会ってくれて、9時間以上頑張って元気な男の子が誕生しました。産声も聞こえました。出生体重は3578g、身長は52cmでした。
首がすわらず、生後6~7か月児健診で紹介状をもらう
――あちょくんの発育・発達で、最初はどのようなことが気になりましたか。
すずきさん 息子が生まれたのは2020年3月です。息子が誕生してから、新型コロナの流行で集団健診などが中止になりました。
そのため生後3~4か月児健診は近所の小児科で受けたのですが、医師から「首すわりが遅い」と言われました。
ただ、私にとって初めての子どもだし、当時はコロナ禍で子育て支援センターなどにも行けず、ほかの赤ちゃんと比べる機会がなかったので、そのときはピンとこなかったんです。
でも、その後も首がすわらなくて…。「やっぱりうちの子は発達が遅いのかも…」と感じました。
生後6~7か月児健診で、医師から「まだ首がすわらないから、念のため大きな病院で診てもらってください」と言われて、紹介状をもらいました。
遺伝子検査を受けて、「福山型先天性筋ジストロフィー」と判明
――大きな病院では、どのような検査を受けたのでしょうか。
すずきさん 大学病院で遺伝子検査を受けました。結果が出たのは2~3か月後で、「福山型先天性筋ジストロフィー」と診断されました。医師からは「筋力の低下によって、歩くことは難しい」など、1時間ほど説明されました。
病名を知ったときは、もちろんショックでした。でも、息子は穏やかで、よく笑う子で、本当にかわいかったんです。それによく寝てくれる子で、育てにくいと感じたこともありませんでした。

「診断されても、明日から何か急に変わるわけではない」と自分に言い聞かせていましたね。夫も普段通りに息子に接していました。いつもと変わらない、穏やかな日常に支えられた感じです。振り返ると、夫も様々な葛藤はあったと思いますが、それを表に出さずにいてくれて、本当に強い人だなと思います。
――必要な情報は、どのようにして集めたのでしょうか。
すずきさん 夫がインスタで「息子が、福山型先天性筋ジストロフィーで…」と記したら、同じ病気の子どもをもつママから「ふくやまっこ家族の会」のLINEグループに誘われました。「家族だけで不安を抱え込まないように…」という心遣いから、声をかけてくれたようです。
その家族の会の方々がすごく頑張られていて、家族向けのウェブサイトを運営されているんです。そのサイトで疾患についてやさしく解説してくれていたり、ほかのご家族の様子を知れたりしたことで、病院で説明を聞いたときの不安はかなり解消されました。とてもありがたかったです。
4歳で横紋筋融解症になり、経鼻経管栄養に
――あちょくんは4歳のとき感染症になり、鼻から管を通して栄養をとる経鼻経管栄養になったとのことですが…。
すずきさん 4歳のときに筋細胞が大きなダメージを受けて壊れる「横紋筋融解症」と診断されて、さらに筋力が低下してしまって…。誤嚥による窒息を防ぐために、経鼻経管栄養になりました。

――現在は、リハビリテーションなどを含め病院に通われているのでしょうか?
すずきさん そうですね、小児科、歯科、整形外科を中心に。小児科でもかかりつけの訪問の診療や、大学病院の受診、あとは療育センターの受診もありますね。循環器科にみていただいたりなど、適宜検査もあります。
リハビリは、こちらから行くものと、来ていただくものとがあります。
――それは通うだけでも大変ですね…。親子のコミュニケーションは、どのようにしてとっていますか。
すずきさん 言葉の理解はできるので、「このおもちゃと、こっちのおもちゃどっちがいい?」と見せながら聞くと、ほしいほうのおもちゃを触ります。息子とのコミュニケーションは、2択で選んでもらうことが多いです。
――すずきさんは共働きですが、パパとの育児・家事分担はどのようにしていますか。
すずきさん うちは“手が空いているほうが育児も家事もする!”というスタイルです。下の子がパパから離れないときは、私が息子のお世話をするし、その逆もあります。
夫は、息子が産まれたときも、下の子が産まれたときも1年間育休をとったので、育休中に今のスタイルが確立しました。
2026年4月から特別支援学校へ
――最近のあちょくんの様子はどうですか?
すずきさん 息子は6歳になり、2026年4月から特別支援学校に入学しました。息子は筋力の低下によって歩くことができず、発語もありませんが、少しだけ手をつかないで座れるようになりました! 一生できないかもしれないと思っていたので、本当にうれしかったです。

今も温厚な性格でよく笑い、子ども向けの音楽を聴いたり、テーマパークに行ったりするのが大好き。自分で歩くのが難しいので、乗り物に乗ると動いたり景色が変わったりするのが楽しいようです。
――食べ物の好き嫌いなどはありますか?
すずきさん やっぱり、野菜は嫌いです(笑)。お肉やラーメン、それからヨーグルトも好きです。
ラーメンは刻んでとろみをつけてあげて、食べさせています。お肉はムース食(滑らかなペースト状にした食べ物をゼラチンやゲル化剤などで成形したもの)をあげていますが、ステーキなんかも食べられるんですよ。ちゃんとステーキの網状の模様がついていて。ムース食でサバや鶏の照り焼きなども食べられます。

療育などを探すとき、ネットで手軽に検索できない現実に直面
――すずきさんは、株式会社NEWSTA 代表取締役CEOを務めていますが、障がいをもつ子どもと家族に寄り添ったサイトやアプリ「ファミケア」を立ちあげた背景を教えてください。
すずきさん 私は20歳からIT関係の仕事をしていて、25歳で起業しました。「ファミケア」を立ちあげようと思ったのは、息子の病気がきっかけです。
障がいがある子どものサポートについて役所に相談に行くと、事業所の一覧表を渡されるのですが、ホームページがない事業所もあります。ホームページがあっても情報が十分でないので、電話で確認が必要です。電話をして、息子のことを説明して、空き状況などを聞くと「空きがない」と断られることも多々あり、とにかくマッチングに時間がかかりました。これは社会課題だと感じました。
私たちは、当たり前のようにインターネットで検索して行きたいレストランを予約したり、ほしい服を買ったりできるのに、息子の育児に必要なものやサービスは、情報にすら出合えないんです。なぜこんなに世界が違うんだろう…と思い、「ファミケア」を立ちあげました。


すずきさん 「ファミケア」は、“疾患児・障がい児家族の毎日を楽しく”をキャッチフレーズに、「お金・制度」「保育園・就学・就労」「疾患・医療的ケア」「病院・療育」など様々なテーマで情報提供を行っています。
全ての人が、知りたい情報にすぐたどり着けるように
――「ファミケア」では、グッズ情報も紹介していますね。
すずきさん グッズ選びも疾患児・障がい児家族が悩むことのひとつです。息子は6歳になった今でも食事用エプロンが必要なのですが、ベビーやキッズ用だとサイズが小さくて…。インターネットで、大きめのエプロンを探そうとすると介護用の食事エプロンしか見当たりません。息子に合う、食事エプロンを探すのすら大変なんです。
――みなさんは口コミで、グッズ情報などを集めているのでしょうか。
すずきさん 基本的には口コミです。でも口コミって、同じような境遇の友達がいないと成り立ちませんよね。だから、ママ・パパたちがすごく努力してコミュニティを探して入っていく。頑張った人しか情報が得られないというのは、不平等で不親切だと感じました。
それに、様々な事情でコミュニティに入らないママ・パパもいて、情報が届きにくいケースもあります。「ファミケア」が発信する情報が、そうした方々の支えになれたら…とも思っています。
息子がいたから新しい世界の扉が開けた
――「ファミケア」は、すずきさんのキャリアが生かされていますよね。
すずきさん 息子を通して分かったことは、この世界は温かくて、頑張っている人たちが本当にたくさんいるということ。でも不便なことや大変なことも多いです。
私のこれまでのキャリアを生かしながら、「不便なことや大変なことを早く解決して、未来を明るくしたい!」と思いました。息子に背中を押されているようでした。
「ファミケア」は、 全国1万5000家族(2026年2月現在)とつながっています。様々なイベントにも参加しているのですが、来場したママ・パパから直接「いつもファミケアを見ています!」「いろいろな情報があって助かっています!」と言ってもらえるのがうれしいですね。
息子がいたから新しい世界の扉を開けたのだと思っています。

医療の進歩に期待しつつ、息子と今できることはしておきたい
――福山型先天性筋ジストロフィーの平均寿命は10歳代後半から20歳代前半とも言われていますが…。
すずきさん 平均寿命のことを医師から言われたときは、受け止めるまでにかなり時間がかかりました。本当にショックでした。
でも医師からの「医学は進歩しています。平均寿命は10歳代後半から20歳代前半というのは、これまでのこと。この先の医療環境はまた違いますよ」という言葉に、希望を抱きました。
平均寿命のことはいつも頭の片隅にあり、息子と今、できることはしておきたい! という思いで、毎日を過ごしています。事業に対しても使命感がありますし、プライベートでも楽しいことをたくさんやっていきたい。そして1日でも早く、新薬が開発されることを願っています。
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筋ジストロフィーの治療研究は進んでおり、愛媛大学大学院医学系研究科の金川基教授と東京大学、神戸大学のグループが、新しい手法を用いて世界で初めて、糖鎖異常型とよばれる筋ジストロフィーを人工的に発症させたモデルマウスの治療に成功。2022年4月14日(日本時間)、学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に掲載され、新薬への開発に期待が寄せられています。
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この記事を書いたのは
子育てや子どもの病気、事故を中心に取材・執筆を行う。情報発信によって、病気の予防・早期発見、事故予防につながる記事作りを心がけています。2 人の子どもがいます。
