「親は答えを与えすぎなくていい」“昆虫が好き”を仕事にした東大大学院卒・昆虫ハンター牧田習さんに教わる、子どもの“好き”を伸ばすヒントとは?

東京大学大学院を修了し、現在は昆虫ハンターとして活躍する牧田習さん。インタビュー【前編】では、昆虫への情熱が人生を切り開いていくまでの道のりを伺いました。

では、子どもの「好き」は、どのように育まれていくのでしょうか。【後編】では、様々な体験の大切さや、親がどこまでサポートすべきか、「好き」がまだ見付かっていない子への向き合い方まで、子育て中の保護者に向けたヒントをお届けします。

インタビュー前編はこちらから

【東大大学院卒・昆虫ハンター牧田習さん】「みんなの輪に入れなくても、昆虫が最高の相棒だった」幼少期の“好き”を突き詰めて人生を切り開くまで
3歳で出合ったミヤマクワガタが、全ての始まり ――牧田さんが昆虫に興味を持ったきっかけを教えてください。牧田 習さん(以下、牧田さん...

いろいろな体験が「好き」の入り口になる

――幼稚園の頃から昆虫に夢中だったとのことですが、例えばほかの習い事などに興味が移ることはなかったのですか?

牧田習さん(以下、牧田さん):家族旅行で沖縄に行ったときに三線に興味を持ち、先生とのご縁もあって、三線だけは小学生の頃かなり頑張っていました。ほかにも野球や水泳、テニスなど、一通りやらせてもらったんです。

でも、正直どれもあまり楽しくなかったんですよね(苦笑)。誰かと一緒に何かをするのがあまり得意じゃないので、チームスポーツのように、みんなで息を合わせて頑張ることが本当に苦手だったんです。一人で黙々とやることのほうが、自分には合っていたのだと思います。

沖縄で三線を演奏する牧田さん

――様々な経験をする中で、昆虫採集や研究にのめり込んでいったんですね。

牧田さん:そうですね。昆虫って、とにかく種類がものすごく多いんです。見れば見るほど、「こんな虫もいるんだ」「こっちはまた全然違うな」と、新しい発見がある。そういう終わりのない面白さに、どんどん引き込まれていったんだと思います。

三線はやりきった感覚。自然と「好き」が絞り込まれた

――三線の道をもっと究めようとは思わなかったですか?

牧田さん:三線は、コンクールにも出るくらい一生懸命やっていました。でも実は三線の先生はチョウが好きで育てている方で、その影響もあって、沖縄に行くとチョウをとったりしていて(笑)。でも小学生の頃は、まだ三線も虫採りもどちらも本気。自分で言うのもなんですが…三線は当時の小学生の中ではかなり上手なほうだったと思います。

大阪の三線教室にて

――親目線だと、上手だったなら、なおさらやめてしまうのはもったいないような…(笑)。

牧田さん:それが、三線はやりきったという思いになってしまったんですよね。気づいたら、気持ちは完全に昆虫のほうに向いていました。

――経験したからこそ、本当に好きなものが残っていったのですね。

牧田さん:そうだと思います。親にはすごく感謝していて、虫にたどり着くまでに、様々なものに触れる機会をつくってくれました

子どもって、何に夢中になるか分からないじゃないですか。スポーツかもしれないし、音楽かもしれないし、まったく別のことかもしれない。

だからこそ、まずはたくさんのことに触れてみることが大事なんだと思います。その中で、「これだ」と思えるものに出合えたとき、子どもは自然と自分から突き進んでいくのかもしれませんね。

それに、三線は完全にやめたわけではなく、特技のひとつとして今もやる機会はあります。昨年は演奏会もやらせていただいたんですよ。

「好き」を極めるために、苦手なことにも挑戦した

――中学時代は、昆虫一筋で活動されていたんですか?

牧田さん:そうですね、中学1年生の頃から、地元の兵庫県宝塚市の隣町・三田市にある博物館の昆虫サークルに通うようになりました。近所には1歳年上でカミキリムシにものすごく詳しい先輩もいて、週末には近畿地方のあちこちへ採集に出かけるようにもなりました。

春休みや夏休みには、一人で沖縄の八重山諸島へも出かけ、自転車や徒歩で島を巡りながら、朝から晩まで虫を追いかけていましたね。

――「人と関わるのは苦手」とおっしゃっていましたが、昆虫を通して仲間もできたのですね。

牧田さん:そうなんです。小学生の頃は、本気で「人と関わらずに生きていきたい」と思っていたくらいだったんですけど(笑)、中学生になると、「誰かと一緒に虫採りをするのも楽しいな」と思えるようになりました。

一人で見付けてももちろんうれしいんですが、「見て見て!」って、その場で喜びを共有できるのがすごく楽しくて。自分だけが採れたら、それはそれでちょっと誇らしかったりもして(笑)。

――高校生ではどんな活動をされていたんですか?

牧田さん:高校生になると、学会にも顔を出すようになりました。といっても、昆虫の学会って、研究者だけの堅い場というより、虫好きの人たちが集まって情報交換をするような雰囲気なんです。

そこに行くと、自分がまだ見たことのない虫の話を聞けたり、「君が採ったその虫、実はすごく珍しいよ」と教えてもらえたりする。そうやって、新しい世界を知るたびに、「もっと知りたい」という気持ちがどんどん強くなっていきました。

高校時代の牧田さん

――積極的に行動し、様々なことを吸収しようとする姿勢がすごいです

牧田さん:昆虫のことに関してはですね(笑)。僕、小さい頃からできないことからは全部逃げるような子どもで、体育の授業など運動もそのひとつでした。

中学3年生の修学旅行に、どうしても虫網を持っていきたくて、先生に相談したことがあるんです。そうしたら「シャトルランを〇回以上できたら持っていってもいい。できないことから逃げちゃいけない」と言われて。

そのときは虫網のために必死で走ることしか頭にはありませんでしたが、それ以来、苦手なことにもきちんと向き合わなければだめだと思うようになりました。

――勉強についてはどうでしたか?

牧田さん:放っておかれたら僕はずっと虫を採っていましたので、親にも先生にも「勉強しなさい」と、ことあるごとに言われていました(苦笑)。

当時は渋々やっていた部分もあったと思いますが、勉強って、必ずしもテストのためだけじゃないんですよね。僕の場合、中学生の頃から英語で書いてある海外の昆虫の専門書も読んでいましたし、海外で虫採りをするときには、現地の方と話すために英語が必要でした。

好きなことを追いかけていくと、「これが知りたい」「あの人と話したい」という場面が必ず出てきます。そのときに、勉強してきたことがちゃんと自分を助けてくれる。あのとき、大人が口うるさく言ってくれたことに今は感謝しています。

親は、答えを与えすぎなくていい

――好きなことを見付けたあと、親はどのように関わるのがよいのでしょうか?

牧田さん:虫採りで言えば、最近は、お子さんが「この虫を採りたい」と言うと、親御さんがすぐに調べて、「この日にこの池に行けば採れるよ」などと教えてあげることも多い印象です。でも僕は、そこはあまり親がやりすぎないほうがいいと感じています。

――どうしてでしょうか?

牧田さん:虫採りのいちばんの醍醐味って、実は虫が採れることそのものじゃないと思うんです。

「どこにいるんだろう」「どんな時間帯に出てくるんだろう」と考えて、自分で調べて、実際に行ってみる。汗をかいて歩き回って、それでも空振りに終わることもある。でも、その「採れなかった日」も含めて、自分で考えながらやっていく過程こそが宝物

僕がいちばん好きなゲンゴロウという虫は、捕まえるまでに10年かかりました。でも、だからこそ、ようやく見付けたときの感動は今でも忘れられません。もし最初から「ここに行けば採れますよ」と教えてもらっていたら、その一匹には何の物語も生まれなかったはずです。

ゲンゴロウ

――結果ではなく、そこにたどり着くまでの時間にこそ意味があるんですね。

牧田さん:今の時代は、何でもかんでも子どもの頃から「成功していること」が求められすぎている気がするんです。自由研究でも、何かすごいものを作らなきゃいけないとか、世の中にウケるものを形にしなきゃいけないとか。

虫採りは、頭で考えて、手足を動かして、時には天気や運にも左右される。僕はよく、「人生の縮図みたいだな」と感じるんです。

だから、子どもが夢中になったときも、すぐに正解を与えるのではなく、「どうしたらできるかな?」と一緒に考えながら見守ってあげる。虫採りに限らず、そうやって試行錯誤することこそが、子どもの力になっていくんじゃないでしょうか。

――自分で考えて見付けることができたら、うれしさも倍増しますよね。

牧田さん:そういうものにこそ価値があると思うんです。でも今は、インターネットでバズるとか、みんなから「すごい」と褒めてもらえるとか、価値観が少し単一化している気がしていて。

もちろん、それが悪いわけではないんですけど、誰がどう思おうと、自分が本当に面白いと思えるものに夢中になれるほうが、ずっと豊かなことなんじゃないかなと思います。

昆虫ハンターとして訪れた2024年のマレーシアで、野生のコーカサスオオカブトと

「好き」は、すぐに見付からなくてもいい

――子どもが本当に好きなのか、今だけ一時的に好きなのか、親はどう判断すればいいのでしょうか?

牧田さん:好きなことって、炎みたいなもの。最初はパッと大きく燃え上がっても、途中で消えてしまうこともあるし、逆に小さな火が少しずつ大きくなっていくこともある。どちらになるかは、やってみないと分かりません。

僕だって、もし小学生の頃に、虫に対して嫌なイメージを持つようなできごとがあれば、そこで終わっていたかもしれません。

だから、子どもが何か夢中になっていることがあれば、「今はこれがすごく好きなんだね」と、しばらく付き合ってあげたらいいと思いますし、途中で「もういいや」となったら、それはそれでいいんだと思います。

――まだ夢中になれるものが見付かっていないお子さんもいますよね。

牧田さん: いろいろなことを体験するうちに出合うかもしれないし、すぐには出合わないかもしれない。逆に、何かを見付けたことで、「続けなければいけない」と感じてしまうこともあるかもしれません。

そもそも、“絶対に何かを見付けなければいけない”なんてこともないですしね。

「好き」を見付けることに必死になるよりも、自分の頭で考えながら、自分らしい人生をゆっくり見付けていく。そのほうが、ずっと大切なんじゃないかなと思うんです。

全国各地で講演活動も行う牧田さん

前編では、昆虫への情熱が人生を切り開いていくまでの道のりを伺いました

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お話を伺ったのは

牧田習 昆虫ハンター

1996年兵庫県宝塚市生まれ。3歳のときに祖父が持ってきてくれたミヤマクワガタをきっかけに昆虫の魅力に目覚め、昆虫博士を志す。北海道大学理学部を卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程を修了。昆虫採集のために14か国を訪れ、9種の新種を発見。現在は「昆虫ハンター」として、テレビ出演をはじめ、書籍の出版、イベントや講演会など幅広く活躍している。NHK「ダーウィンが来た!」、日本テレビ「アナザースカイ」などに出演。著書に『昆虫博士・牧田習の虫とり完全攻略本』(小学館)など。

この記事を書いたのは

篠原亜由美 ライター

法学部卒業後、通信教育などを手がける教育業界の企業に勤務し、その後ライターとして、女性誌や複数のWeb媒体で、暮らしや子育てを中心としたライフスタイル分野で取材・執筆を行っている。2児の母で、子どもはすでに成人しており、中学受験や大学受験を経験。実体験をもとに、同世代の女性に寄り添えるような記事を心がけている。

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