子どもの歯が抜けて永久歯に生え変わるころになると、気になってくるのが子どもの歯並びです。「子どものうちに矯正しておいた方がいい」という話もよく聞きますが、長くかかりそうだし、費用も高そう…と不安に思うパパママも多いのではないでしょうか。
そこで今回は、日々たくさんの患者さんの歯科矯正に携わっている歯科医の井原香織先生にお話を伺いました。子どもの歯科矯正について、治療が必要な例やタイミング、期間や費用などについて、パパママの質問にQ&A形式で答えていただきました。
目次
Q. 歯の矯正はなぜ必要ですか?
私も夫も歯を矯正した経験がありませんが、とくに困ることはありません。そもそもなぜ歯の矯正は必要なんですか。(東京都 5歳男児と10歳女児のママ)
歯を長持ちさせる
まずひとつには、歯を長持ちさせるためです。正しく歯が並ぶことによって、歯磨きがしやすくなり、虫歯や歯周病へのリスクが減らせるというメリットがあります。
またかみ合わせが良くなると、かむ力を歯全体でバランスよく受け止めることができるようになります。かみ合わせが悪いと、かみづらい食べ物が出てきます。かみにくい食べ物をかみやすい歯だけでかんでいると、特定の歯ばかりが酷使されてしまいます。結果として、その歯ばかりに負担がかかり、歯は長持ちしません。
正しい発音ができる
ふたつめは、正しい発音ができるようになることです。かみ合わせが良くないと、サ行やラ行、英単語など、きちんとした発音がしづらい言葉があります。うまく話せないと自信をなくしてしまうことにも繋がってしまいますよね。
口呼吸や歯周病の予防になる
前歯が邪魔をして口が常に開いている患者さんは、口呼吸や歯周病になりやすい傾向にあります。歯並びの中でも、とくに前歯の位置を治すことで、唇が閉じ易くなり、正しい呼吸ができるようになります。正しい呼吸をすることは、歯周病の予防にも繋がっていきます。
本人の自信になる
歯並びが整った口元や笑顔は、周りの方にとっても好印象です。また口元が気になって思いっきり笑えない、正しい発音ができない、という自分自身のネガティブな気持ちを改善できれば、本人の自信や満足につながると思います。
Q. 子どものうちに矯正するメリットは?
子どもが矯正を嫌がりそうです。すべて永久歯に生え変わる前の子どものうちに矯正するのに、メリットがありますか。
(東京都 8歳男児のママ)
成長期の子どもにはいろいろな可能性がある
骨格も歯も成長期の子どもには、いろいろな可能性があるということだと思います。個人差があるので、一概には言えませんが、子どものうちに矯正をするメリットは主に3つあります。
シンプルな器具で改善できる場合もある
すべてに当てはまる訳ではありませんが、子どものうちであれば、比較的シンプルな器具やお家の中だけで使う器具で改善できる症状もあります。
顎の成長のバランスをみて治療ができる
顎の成長にも個人差がありますが、骨格変化が著しい成長期の子どもは、上顎と下顎の成長のバランスを整えることで、かみ合わせを改善することもできます。顎の成長のバランスが整うと、顔の中の口元のバランスも整ってきます。
永久歯を見越して先手を打てる
これから生えてくる永久歯を見越して、できるだけ歯並びやかみ合わせが悪くならないように先手を打つことができるのもメリットのひとつです。永久歯が生えそろった後に行う治療が容易になったり、永久歯の抜歯が減らせたりします。多くはありませんが、永久歯が生えそろった後の治療が不要になる方もいます。
Q. 我が子に矯正が必要かどうか見極めるポイントは?
自分の子どもの歯並びを見ても、矯正が必要かどうかわかりません。見極めるポイントはどこですか?
(神奈川県 4歳と7歳の姉妹のママ)
必ず歯科医のチェックで判断しましょう
ご両親のみでの判断はかなり難しいとは思います。お口の中だけを見ると何も問題がなくても、レントゲンを撮ってみたら、「これから生える予定の永久歯の位置や向きが悪かった」「生まれつき歯の数が足りなかった」「余分な歯が埋まっていた」といったことはよくあるからです。何も問題がないと思っても、一度は歯科医院でのチェックを受けられることをおすすめします。
ただ、以下のような状態の場合は必要な可能性が高いでしょう。
こんな場合は要注意!
◆乳歯、永久歯を問わず、前歯のかみ合わせが反対(下の歯の方が前)になっている歯が1本でもある。
◆乳歯、永久歯を問わず、横の歯、奥歯で下の歯の方が上の歯よりも外側に出ている歯がある。
◆永久歯が、まだ前歯2,3本しか生えてきていないのにすでにでこぼこ。
◆抜けた乳歯の数と生えてきた永久歯の数が違う。(例:乳歯が3本抜けたのに、永久歯が2本しか生えてこない。)
◆上下の前歯がかみ合っていない。(例:上下に開いている。)
◆奥歯でかんだ時に、上の前歯がかぶさりすぎていて、下の前歯があまり見えない。
Q. 矯正が必要になるタイミングは?
お友達で矯正を始めた子が何人かいます。必要になるタイミングというのがあれば知りたいです。(埼玉県 10歳女児のママ)
一般的には永久歯が生えてくる時期
かみ合わせが反対の方以外は、永久歯が生えてくる時期に開始になることが多いです。
一般的には上下の前歯がそれぞれ2,3本ずつ生えてきた頃に一度、歯科医にチェックしてもらい、時期を決定します。隙間の足りない度合いやかみ合わせのずれ具合にももちろんよりますが、子どもの場合は「器具を指示通りきちんと使えるかどうか」「歯磨きが上手にできるか」などの個人差が大きいので、保護者の方に協力していただける状況かどうかも時期を決める上でのポイントのひとつになります。
前歯のかみ合わせが反対ならできるだけ早く
かみ合わせた時に、上の歯より下の歯が出ている場合は、できるだけ早く治療をします。症状が重い場合は、まだ1本も永久歯に生え変わっていなくても、治療を開始する場合があります。
Q.期間はどのくらいかかりますか?
歯の矯正は長くかかると聞きますが、実際には子どもの矯正期間はどのくらいですか。(東京都 6歳女児のママ)
治療の期間は1年〜成人まで個人差があります
治療の内容によってかなり異なるため、一般的な長さを答えるのは難しいです。治療の例によって、目安の期間は以下のようになります(個人差あり)。
【ケース1】乳歯と永久歯の両方がある時期の治療で、取り外しの器具でかみ合わせの治療を行う場合は、2〜3年くらいになります。
【ケース2】かみ合わせや永久歯の生える隙間には問題がなく、前歯の生えてきた位置や向きが多少悪かっただけという場合。いわゆる針金の矯正器具(歯の表側に固定してあるもの)で歯並びのみ治す場合は1年以内で終わることもあります。
【ケース3】骨格に問題がある、かみ合わせが反対の方の場合は成長期が終了するまで(20歳前後)までは治療や経過観察を続けなければいけません。
【ケース4】全て永久歯に生え変わってから治療を始める場合には、上下の歯全部を動かす治療の場合、2,3年の治療とその後の歯が動かないようにする器具を使用しながらの経過観察があります。
Q.痛みはありますか?
子どもの歯並びが悪く矯正を考えていますが、どのくらい痛みはあるのでしょうか。痛みで勉強やスポーツができないことはありますか。(東京都 8歳男児のママ)
痛みは器具によって異なります
痛みの程度も個人差がありますが、主に使う器具によって異なります。
◆取り外しのマウスピース型の器具の場合
きついとか歯が押されるといった違和感はありますが、あまり痛みはないようです。
◆針金の矯正装置(歯の表面に固定されている器具)を使う場合
慣れるまでは頬や唇の裏に当たる違和感や咬むと痛いという症状が数日出ます。
Q.費用はいくらかかりますか?
1歳の双子の娘2人をいずれ矯正させたいと思っています。いざ開始というときに困らないために、だいたいの費用を教えてください。(東京都 1歳の双子のママ)
治療内容や器具の種類によって、費用の幅も異なります
一般的にかかってくる矯正治療のみ(クリーニングや抜歯は含まず)の費用の内訳は、基本の治療費(相談料、検査・診断料、装置代)と、通院ごとにかかる診察料といったものがあります。
各クリニックごとに費用の名称は異なっているので、相談の前にホームページや電話などで必ず確認することをおすすめします。
費用の目安
・相談料:無料~5,000円程度
・検査診断料:30,000~50,000円程度
・基本治療費(装置代)の代表的な例
【全て乳歯】
まだ1本も永久歯が生えていない時期の子どもの反対咬合の治療:5~10万円程度
【乳歯と永久歯が混ざっている時期】
マウスピース型の器具で行うかみ合わせや隙間作りの治療:30~50万円程度
【治療開始時に全て永久歯になっている場合】
歯並び全体を治す治療:歯の表側の表面につけるタイプは60~90万円程度
裏側矯正や透明なマウスピース矯正(インビザライン等)のオーダーメイド器具を使う場合:表側につける場合の金額+30~40万円程度
乳歯と永久歯が混ざっている時期にマウスピース等で治療を行なった後、永久歯が生えそろったら永久歯全部の治療を行う場合には割引措置があるクリニックが多いです。その他に、治療中、診察料が1回あたり3000~5000円程度かかります。
迷ったら早めに歯科医に相談しよう
井原先生には、子どもの矯正にまつわるパパママの疑問にお答えいただきました。歯並びやかみ合わせの治療は、治療内容や方法、期間も、個人差が大きいことがわかりました。また早いうちに歯科医のチェックを受けたり、治療をすることのメリットもわかりました。
迷ったときは、かかりつけの歯医者さんに相談したり、矯正を行なっている歯科医院に相談するのが安心です。長いお付き合いになることもあるので、疑問にきちんと答えてくれる信頼できる歯科医を選ぶことが大切ですね。
記事監修
井原 香織
1977年生まれ、広島県出身。2003年北海道大学歯学部卒業。2006年まで東京医科歯科大学咬合機能矯正学講座在籍。その後、矯正専門クリニックで6年間勤務。現在は東京都足立区綾瀬のたかなし歯科医院をはじめ10軒以上のクリニックで日々、矯正の治療に携わる。「矯正は治療期間が長いので、患者さんが一緒に頑張ってよかったと思えるようなサポートを心がけています」
取材協力/たかなし歯科医院
取材・構成/HugKum編集部