川崎病とは?今でも70人に1人の子がかかり、増え続けている原因不明の病気【小児科医監修】

川崎病をご存知ですか。乳幼児の70人に1人がかかる発熱性疾患で、謎の現代病とも言われており原因は不明です。診断を確定できる特別な検査法もありません。
「川崎病って昔の病気じゃないの?」と思う方もいるかも知れませんが、川崎病はじつは増え続けており、近年では年間約1万5000人が発症しています。
2002年から「川崎病」の臨床研究を続け、『川崎病~増え続ける謎の小児疾患』の著作がある、東京都立小児総合医療センター副院長の三浦大先生に、乳児を育てる親御さんたちに知っていてほしい知識を教えていただきました。

日本の小児科医が、世界で初めて川崎病を発見!

世界で初めて川崎病を発見したのは、日本の小児科医・川崎富作先生です。
1961年の年明け、日赤中央病院の小児科病棟に4歳になる男の子が搬送されました。川崎先生が診療に当たると熱があり、ぐったりしていて重症感がありました。川崎先生が驚いたのは、両目は充血し、唇は赤く亀裂によって少し血が滲み出ており、手のひらや足の裏にも著しい赤みがあるなど、これまで診たことがない症状があるのです。はっきりした診断がつかないまま、川崎先生は溶連菌感染症の特殊なタイプと考えて治療に当たりましたが、抗生物質の種類を変えても回復しない日々が続きました。

しかし入院から1週間後、指先から皮膚が膜のように剥げ落ちた途端、熱が下がり、主要症状が改善していったのです。川崎先生は「あの疾患は、一体、何だったのだろう…」と考えながらも、何年にも渡り、同じような症状を診つづけることに…。そしてまとめたデータを1963年、東日本・中部日本合同小児科学会で発表。さらに研究を進めて1967年、世界で初めてとなる川崎病の報告による論文を発表しました。
論文発表から50年以上が経過し、現在でも世界中の研究者が川崎病の原因や予防法、確実な検査法などを研究していますが、いまだ決定的なものはありません。そのため川崎病は、謎の現代病と呼ばれているのです。

発熱、発疹、目や唇の充血など気になる症状があるときは受診を

世界中で川崎病は見られますが、日本や韓国、中国、台湾など東アジアの子どもに多く、4歳以下とくに1歳前後の子どもがかかりやすい傾向があります。また男の子のほうが発症率が高いとされています。
川崎病の主な症状は、次の通りです。

<症状>

1)発熱

通常は38度以上の高熱が続き、機嫌が悪くなったり、倦怠感を伴ったりします。以前は、5日以上続く発熱が診断の条件とされ、米国のガイドラインでは現在もそのように記載されています。しかし日本では診療のレベルアップに伴い、発熱日数は問いません。
微熱が続く場合もあり、とくに6カ月未満の乳児には多いとされています。また熱が下がったように見えても微熱が続き、以下に記した症状を伴う場合は至急、受診しましょう。

2)両側眼球結膜の充血 

発熱同様に代表的な所見で、結膜全体が充血して赤くなりますが、目やにはほとんど出ません。

3)唇の乾燥・充血、いちご舌、口腔咽頭粘膜の赤み

唇が乾燥・充血し、亀裂や出血を伴う場合も。舌は赤く腫れ、いちごのようにブツブツ状になります。また口腔咽頭粘膜が、広い範囲で赤みを持つのも特徴です。

4)発疹

大きさや形が一定でない斑状の発疹が出ます。特に、陰部,肛門、おへそのまわりは出やすいところです。発疹はじんましんのようにも見え、地図状に広がることも。水疱はできません。

5)手足末端の変化

典型的な例では、手足が硬く腫れ、光沢をおび、手のひらや足の裏または手足の指先が広範囲で赤くなります。回復期には、指先と爪の境界から膜のように皮膚がはがれることがあります。これは川崎病の特徴的な所見です。

6)痛みを伴う、耳介の後部のしこり

急性期の典型的な例では発熱と同時、または発熱に先行して耳介の後部に痛みを伴う、硬いしこりのような腫瘤ができます。大きさは米国のガイドラインでは、直径1.5cm以上と記されています。この症状は、3歳以上では約90%と年長児に多く、初めての発症でもよく見られます。

診断

気になる症状があれば、スマホなどで写真に記録して。診断の助けになります

川崎病の診断は「川崎病診断の手引き(改訂第6版)」に基づき、以上の6つの主要症状のうち、5つ以上の症状を伴うものを川崎病と診断します。ただし4つしか認められなくても、経過中に心エコーで冠動脈瑠(拡大を含む)が認められ、ほかの疾患の疑いがなければ、川崎病と診断してよいことになっています。
また主要症状が出ても軽症だったり、症状が同時に出なかったりすると診断がつきにくいので、気になる症状があるときはスマホなどで写真を撮っておくといいでしょう。

川崎病は全身の血管に炎症が起きる病気で、重症化すると冠動脈に瘤(こぶ)ができる合併症(冠動脈瘤)などを引き起こすことがあります。適切な治療をしないと、瘤が大きくなり狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患の原因になることがあるので注意が必要です。

1980年代に大流行。当時、川崎病を罹患した女性は、妊娠・出産に要注意!

川崎病は、日本では1980年代に大流行しました。当時、川崎病と診断された方は、現在30代になっており、まさに子育て世代です。
川崎病になった方は、自覚症状がなくても冠動脈瘤など発症している場合があるので、妊娠・出産のときは念のため医師に相談を。妊娠中の循環血液量は、妊娠30週前後に最大となり、妊娠前と比べると30~40%増えます。出産時のいきみも心臓に負担がかかるので、症状によっては専門的な管理が必要になります。
また産まれた赤ちゃんが川崎病にかかる可能性は、多少高まると考えられます。

わが子が川崎病と診断されたら…

知っておきたい、医療助成制度と親の会

もし子どもが川崎病になって、一過性でなく、継続的な治療が必要な場合は「小児慢性特定疾病の医療費助成制度」が受けられるか確認しましょう。以前は、必ず申請されていたのですが、乳幼児医療費助成などを受けられるようになってから申告が漏れている方もいるので注意してください。「小児慢性特定疾病の医療費助成制度」を受けると19歳まで医療費がカバーできるため担当医に申し出るといいでしょう。
また不安や疑問を抱えている親御さんは、40年近く活動を続けている「川崎病の子供をもつ親の会」などを頼ってみてもいいのではないでしょうか。

お話しをうかがったのは、

東京都立小児総合医療センター副院長 三浦 大先生

慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部小児科学教室に入局。横浜市立市民病院、東京都立清瀬小児病院、東京都小児総合医療センターを経て、2018年より現職。専門は、小児循環器学、特に川崎病。近著に『川崎病 増え続ける謎の小児疾患』(弘文堂/1,900円・税抜)がある。

川崎病発見をめぐるエピソードから、最先端の医学的知見までを網羅

構成/麻生珠恵

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