乳幼児教育保育実践研究家の井桁容子先生が、子育て中のママのお悩みに答えます。今回は「公共の場で子どもが大泣きしたときは?」についてお話を伺いました。
Q:外出先で泣き出すと、叱ってもなだめても泣きやみません……。
「泣かないの!」ではなく「どうしたの?」と声がけを
公共の場で子どもが泣き出したとき、親の本音は「困った!」ではないでしょうか。早く泣きやませなければと焦ったあげく、叱ったり、お菓子を口に入れてごまかそうとしたり……。
でも長い目で見た場合、こうした方法は有効ではありません。次からは泣き声がボリュームアップし、親はさらにごまかしの条件を与える、という悪循環に陥ってしまいがちです。
子どもが泣くときは、泣きやませることより何を訴えたくて泣いているのかを知ることが先。「泣かないの!」ではなく、まずは落ち着いて、「どうしたの?」と声をかけてください。同時に子どもの様子をよく見ることも忘れずに。泣き出した理由が、突発的なけがなどのこともあるからです。
子どもが泣くのは伝えたい思いがあるから
叱ったりお菓子を食べさせたりする一時しのぎが有効とはいえないのは、どちらも「上辺だけの解決」、つまりごまかしだからです。
子どもは自分の気持ちを言葉で十分に表現できない分、他人の思いを感じとる力は優れているといわれています。子どもには、大人の本音などお見通し。だから「とりあえず泣きやませたい」という対応では、気持ちをわかってもらえなかったと感じ、納得することができないのです。
私が保育士をしていた頃のことです。家族がそろって外出しなければならない週末に、2歳のAくんだけが園に預けられたことがありました。おかあさんを見送ると、「ママが行っちゃった~!」と怒ったように泣き出したAくん。あれこれ声をかけても泣き止まないので、私も一緒に泣きました。
「ああ、かわいそうに。ひどいわね~」と大げさに泣いてみせる私を見て、Aくんはピタッと泣きやみました。そしてやさしく、「もういいよ。一緒に遊ぼう」と言ったのです。
Aくんが泣いたのは、家族に仲間外れにされた不満やさびしさからです。でも一緒に泣いた私を見て、彼はわかってもらえた、と感じたのでしょう。「思いが十分に伝わった」と実感したことで満足し、それ以上泣く必要はない、と思ったのです。
つらいときに助けてもらうことで心が育つ
泣きたいほどの感情を抱えているときに必要なのは、「わかってもらうこと(共感)」です。子どもの思いを想像し、「伝わったよ」と言葉や態度で示しましょう。もちろん、子どもの訴えは親が応えられるものばかりではありません。その場合は、「わかろうとしている」「一緒に考えている」という姿勢を見せるだけでも十分です。
つらいときや大変なときに思いを受け止めてくれる「アタッチメント(愛着関係)」を保証してくれる存在は、心の成長の土台になる重要なものだといわれています。親をはじめとする身近な人に「わかってもらえる」という安心・安定感によって、子どもの心はのびのびと育っていくのです。
とはいっても、子どもがなかなか泣きやまず、理由がよくわからないこともあります。そんなときはまず、子どもと横並びになり、目線の高さをそろえましょう。向き合うよりも緊張感がなく、視点の変化が気分を変えるきっかけにもなります。そして「自分自身の気分転換のためにできること」に、子どもを誘ってみてください。アイスを食べてもいいし、座ってひと休みしてもいい。気持ちのゆるめ方や気分転換の方法を、子どもと一緒に学んでいくことも大切です。
記事監修
井桁容子先生
(乳幼児教育保育実践研究家、非営利団体コドモノミカタ代表理事。東京家政大学短期大学部保育科を卒業。東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学・同短期大学部非常勤講師を42年務める。著書に「保育でつむぐ 子どもと親のいい関係」(小学館)など。)
2020年10月号『めばえ』 イラスト/原あいみ(京田クリエーション) 構成/野口久美子
親と子をつなぐ、2・3・4歳の学習絵本『めばえ』。アンパンマン、きかんしゃトーマスなど人気キャラクターと一緒に、お店やさんごっこや乗り物あそび、シールあそび、ドリル、さがしっこ、めいろ、パズル、工作、お絵かきなど、様々なあそびを体験できる一冊。大好きなパパ・ママとのあそびを通して、心の成長と絆が深まります。