新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年4月16日、全国に緊急事態宣言が発令されました。幼稚園や小学校が休園・休校になったり、出勤を控えてリモートワークに切り替わったりするなど、私たちの生活は一変。妊産婦さんも母親学級の中止や里帰り出産の見合わせなどがあり、なかには精神的に追い込まれたお母さんたちもいたようです。ある調査では新型コロナウイルスの影響で産後うつの可能性がある人が2倍以上に増えたという報告も! 産前産後ケアが専門の東京情報大学 市川香織先生に、コロナ禍でとくに注意したい産後うつについて聞きました。
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新型コロナ流行時は、里帰り出産の見合わせなど心のバランスを崩しやすい状況に
全国に緊急事態宣言が発令されたとき、母子保健にかかわる保健師や助産師がまず心配したのが、産後うつの増加です。
新型コロナウイルスが流行する前は、妊婦さんは母親学級や両親学級で同じ時期に出産する人と知り合いになれたり、新生児訪問をして保健師や助産師が育児の不安に応えたり、ママの体調やメンタルヘルスを確認できる機会が持てていました。また自治体によっては、低月齢の赤ちゃんを連れて気軽に参加できる子育てイベントなどを開き、お母さんが孤立しないように取り組んできました。
しかし全国に緊急事態宣言が発令されて、こうした取り組みはすべて中止や延期に。
また産後数週間は心身ともに休めるように実家に帰ったり、親が手伝いに来てくれたりするケースが多かったのですが、感染を防ぐために、夫婦だけで育児・家事を乗り切ったおうちは少なくありません。「外に出られない」「人と会えない」といった閉塞感によって、心のバランスを崩したお母さんが多かったようです。
産後うつの発症は、初産のお母さんだけとは限りません。経産婦さんやお父さんが発症することも
産後、一時的に心が不安定になるマタニティブルーズは、妊娠・出産によるホルモンバランスの乱れが原因なので、1週間ほどゆっくり休めば自然に回復します。
「産後うつ」は適切なケアが必須
しかし産後うつは、適切なケアをしないと長引いたり、悪化するのが特徴です。発症時期も、産後初期だけとは限りません。また初産のお母さんだけでなく、経産婦さんも発症する可能性があります。
主な原因は①急激な生活の変化、②親としての強い責任感、③寝不足による疲労の蓄積などで、お父さんが産後うつを発症するケースもあります。
産後うつの可能性がある人は約1割。気になるときは保健所で相談を
産後うつの可能性を判定するEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)の結果では、産後うつの可能性がある人は約1割と言われています。
産後うつの初期サインは次の通りです。1つでも該当するときは、念のため地域の保健所に相談しましょう。新生児訪問や乳幼児健診のときに相談してもいいです。
産後うつの初期サイン
□やる気が起きない
□落ち込みやすい
□笑顔が減った
□眠れない
□食欲がない
□幸せを感じない
□何か起きると、自分を責めてしまう
□泣くことが多くなった
産後うつになると、自分自身の異変に気づかないこともあります。また「私、おかしいかも…」と思っても、やる気が起きなくて保健所に相談するなど行動に移せないことも。
そんなときは家族がサポートして、保健所に相談してみましょう。産後うつの初期サインは「慣れない育児で疲れているのでは!?」などと勘違いしがちです。でも「あんなに明るい性格だったのに、笑わなくなった」「これまで、こんなに洗濯物が溜まることはなかった」など、明らかに様子がおかしいときは産後うつを疑ってください。
産後1年未満で亡くなった女性の死因1位は自殺。
国立成育医療研究センターでは、2015年から2016年の人口動態統計を活用し、産後1年未満で死亡した女性について分析したところ、原因の1位は自殺(92人)でした。92人のうち約半数が35歳以上で、初産は65%。自殺の時期も1年を通して見られました。
産後うつを防ぐには、赤ちゃんと二人だけを避け、適度な気晴らしが大切
産後うつは、重症化すると自殺するケースもあります。産後うつを防ぐには、赤ちゃんと二人だけで、毎日、家の中でずっと過ごさないことがポイントです。
緊急事態宣言が解除されてから、感染対策を徹底して子育てイベントなども開催されるようになりましたし、子育てひろば館なども開いています。「屋内は心配」と思うお母さんは、親子で公園に行ってもいいでしょう。
新しい生活様式では、マスク着用や手洗い、手指消毒、3密(密閉、密集、密接)を避けるなどの基本的な予防対策をしながら、適度に気晴らしすることが大切です。
記事監修
市川香織先生
東京情報大学 看護学部看護学科准教授
助産師。1990年から1993年まで、助産師として千葉大学医学部附属病院産婦人科に勤務。助産師学校教員、厚生労働省雇用均等児童家庭局母子保健課、千葉大学医学部附属病院副看護師長などを経て、2018年4月より現職。専門は、母性看護学、助産学、母子保健。
取材・構成/麻生珠恵