「ニワトリとタマゴ、どちらが先か」という問題は、昔から人々を悩ませてきました。ところが近年、この問題に決着がついたという説があるのです。ニワトリ派・タマゴ派それぞれの意見や、分野別の見地についてくわしく解説します。
ニワトリとタマゴ問題
ニワトリとタマゴ問題とは、「ニワトリがいなければタマゴは生まれない。しかし、タマゴがなければニワトリは生まれない。では、どっちが先に生まれたのか?」というものです。
長く論争が繰り返されてきたため、原因と結果が循環するような事柄を例える言葉として「ニワトリが先か、タマゴが先かという問題だ」というように使われることもあります。
この難題について真剣に考えた人々の意見を見ていきましょう。
結論は「ニワトリが先」派の勝利?
「ニワトリが先」と結論付けたのは、イングランドにあるシェフィールド大学とウォーリック大学の科学者たちでした。
研究チームの学術論文によると、ニワトリの卵巣とタマゴの殻に共通して存在する「OC-17」というタンパク質が、殻の生成と発達において特に重要な役割を果たしていることが分かったそうです。
その結果、「ニワトリがいなければタマゴの殻が作れない」という結論にたどりつきました。
「タマゴが先」派の意見とは?
前述の研究結果に異を唱えたのが「タマゴが先」派です。
タマゴが先派は、「ほかの鳥類はOC-17以外のタンパク質からタマゴを生成しているため、卵巣にあるOC-17だけを論拠にニワトリが先と言い切ることはできない」としています。
鳥類が爬虫類から分かれる前から、卵の形成に使われてきたたんぱく質は別にあり、OC-17 はそのたんぱく質の延長として出現した。つまり、OC-17がなくても卵はできる。
変異して生じたニワトリが先だとするならば、最初のそのニワトリはどこから生まれてきたのでしょう。タマゴがなければニワトリは生まれません。そんな堂々巡りで、やはり「タマゴが先」と主張する意見も根強くあります。
ニワトリの先祖セキショクヤケイとは
ニワトリの原種と考えられているのは「セキショクヤケイ」という野鳥です。
ここでは、セキショクヤケイと人間の関わりの歴史と、セキショクヤケイの特徴について紹介します。
いつごろから飼育されてるの?
セキショクヤケイは、中国南部・南アジア・東南アジアに生息する鳥です。朝に鳴くことから、時刻を知るために約5000年以上前から人間に飼われるようになりました。「時告げ鳥」はニワトリの別名でもあります。
ニワトリが日本にやってきたのは紀元前100~200年頃のことで、その見た目はセキショクヤケイに似ていたそうです。日本最古の歴史書である「古事記」にも、「常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)」として登場しています。
どんな姿をしているの?
セキショクヤケイは漢字で「赤色野鶏」と書きます。読んで字のごとく赤い羽根をしており、特にオスは真っ赤なとさかと深緑色の尾をしていて、とても色鮮やかです。
成鳥となると、メスは約50cm、オスは約70cmになります。体重は0.5~1.5kgほどで、木の上に上がるくらいには飛ぶことができますが、飛行はあまり得意ではありません。
色を除けば、その姿はニワトリにそっくりです。現在もいくつかの動物園で飼育されているため、機会があれば見学してみてはいかがでしょうか。
分野によって意見はさまざま
「ニワトリとタマゴ問題」は絶対的な証拠が見つかっていないため、分野ごとの説によって結論はさまざまです。最後に、各分野におけるニワトリとタマゴ問題の答えを紹介します。
数学的な見地
数学の世界には、時系列のデータを用いて因果関係を算出する「グレンジャー因果」という考え方があります。
この方法を使うと、タマゴの数からニワトリが何羽生まれたのかは予想できました。ところが、ニワトリの数から生まれたタマゴの数を予想することはできなかったのです。
このことから、数学的には「タマゴが先」という結論にいたっています。
キリスト教やユダヤ教の見地
キリスト教やユダヤ教の教えによると、神様は7日間で世界を造ったそうです。4日目までは陸海空・植物・太陽と月が造られました。そして5日目に、「魚と鳥を創造し、繁殖を命じた」とされています。
聖書の天地創造の章にタマゴに関する記載は一切ないため、キリスト教やユダヤ教の立場では「ニワトリが先」ということになるでしょう。
仏教の見地
結論からいうと、仏教の見地から出る答えは、どちらも先ではありません。
「人生は一度きり」という考えは「直線的時間」という感覚ですが、仏教では「全ての生き物は輪廻転生を繰り返している」という「循環的時間」の観念があります。
仏教においては、ニワトリもタマゴも一つの大きな輪の中にいるのであって、そもそも「最初」という概念が存在しないのです。
結論はもう少し後になりそう?
OC-17についての研究結果が出された当時は「ついに難題が決着した」と、ちょっとしたニュースにもなりました。しかし、依然として、生物学的観点から見た「タマゴが先」という説も捨てきれません。
そもそも、研究自体がこの問題を解決するために行われたものではないため、研究チームも「生物学者と論じるべき問題」としています。
いずれにせよ、「ニワトリとタマゴ問題」にケリをつけるには、もう少し時間が必要なようです。
文・構成/HugKum編集部