持続可能とは、未来の世界や他の生き物にしわ寄せをしない生き方や社会のこと
最近、いろいろなシーンで耳にする「サステナブル」や「リジェネラティブ」という言葉。日本語ではそれぞれ「持続可能」「再生」と訳されていますが、何となくわかったような、わからないような…。そこで、武蔵野大学環境システム学科で持続可能な社会のあり方や循環経済をテーマに教鞭をとっている、明石修先生にお話を伺いました。
── まず、サステナブル(持続可能)とはどんな意味なのですか?
明石先生(以下明石) 未来の世界や他の生き物にしわ寄せをしない社会や生き方のこと。今の私たちの暮らしは、便利ですが、その負債を未来世代へ先送りしたり、地球環境に負荷をかけていたり、児童労働など他の人から搾取していたりと、さまざまな問題を抱えています。このまま進んでいったら、社会も地球も、続けていくことはできません。つまり、持続は不可能です。
── 最近、言われだしたことなのでしょうか?
明石 「持続可能な開発」という言葉が最初に認知され始めたのは、1987年の国連の報告書からだと思います。その後、環境分野ではよく使われる言葉だったのですが、2015年のSDGs の採択以来、社会や経済の問題と統合され、世の中で広く使われるようになりました。
── 今の社会や経済、暮らしを持続させるための考えなのですか?
明石 いえ、今のままでは持続できないので社会や経済のあり方を変えていこうという考え方です。SDGsには「私たちの世界を変革する」という言葉が使われています。また、「誰一人取り残さない」というキーワードも重要です。残念ながら今の世界には飢餓や貧困など、取り残されてしまっている人が多くいます。
── 今の社会は、具体的にどう持続不可能なのでしょうか?
明石 「エコロジカル・フットプリント」という、人が地球環境に負荷をどれだけ与えているかを示す数値があります。それによると、世界の人たちが今の生活をし続けるには、地球が1. 7個必要になります。つまり、私たちの暮らしは、地球のキャパシティをオーバーしていて、地球が何億年もかけて蓄積してきた資源や自然環境を、一気に使い果たしているのです。
*「グローバル・フットプリント・ネットワーク,NFA201」を参考に、編集部で作成
今の生活では、地球が足りなくなる?
私たちは、限りある自然資源の恵みによって生きている。けれども、人の消費スピードが自然再生する速度を追い越し、気候変動など地球環境に負荷をかけ続けている。もし、世界の人がすべて、今の日本と同じような生活をした場合、はたして地球は何個必要になるのか?
── 地球の貯蓄とは、石油などのエネルギーですか?
明石 はい、化石燃料はその代表でしょう。それから、生物多様性や豊かな土壌が失われていることに、危機を感じています。気候変動や農業や森林破壊など、さまざまな原因で世界中の土が痩せて砂漠化しています。そんな現状を見ていくうちに、持続可能だけにとどまらず「リジェネレイティブ」という視点で、物事を考えるようになりました。
──リジェネラティブとは?
明石 「再生的」とか「繰り返し生み出す」という意味です。人間の活動が環境に悪影響を及ぼすのではなく、人間が活動することで地球環境が再生していく、たとえば、人が必要とする作物を育てることが、土を豊かにすることにつながるなど。自然界ではあらゆるものが循環しリジェネラティブです。人間も自然の循環の中に戻って、なおかつ自分たちのニーズを満たすことが、これからの発展になると考えています。
大学の屋上で野菜を収穫!
東京・有明にある武蔵野大学学舎の屋上に、コミュニティガーデンが出現! 明石先生と学生たちが、ここでオーガニック野菜を育てたり、養蜂をしている。
── 個人は何から始めたらいいのか、アドバイスをお願いします。
明石 まずは自分がサステナブルな世界の住民として暮らすことが大事だと思います。家の電気を再生可能エネルギーに切り替える、買い物をエコにするなど。そして、そういう暮らしがやりやすくなるように、少しずつ制度や仕組みに働きかけるというのがよいと思います。「あなた自身が変化になりなさい」というマハトマ・ガンジーの名言を実践するイメージです。
*環境省「令和2年環境・循環型社会・生物多様性白書」内、公益財団法人地球環境戦略機関(IGES)「1.5℃ライフスタイル─脱炭素型の暮らしを実践する選択肢─」を参考に作成
親子で体験! 庭やプランターで植物を育ててみよう!
暮らしの中で「サステナブル・リジェネラティブ」を体験できる簡単な方法を、明石先生から教えてもらいました。さっそく親子でチャレンジ!
ガンジーの説いた「あなた自身が変化になれ」は、何も難しいことではありません。今、自分のいる場所、日常で始めることが大切。僕は今、「庭」の機能に着目しています。さまざまな生き物が集まり、循環の起点となる庭。そこで、植物を育てたり、コンポストで野菜くずを堆肥にしたりして、暮らしに循環を取り戻してみましょう。庭がなければ、プランターでもOK。子どもと一緒に、タネをまき、草花を育て、そこに集まる虫を観察する。そんな体験から、いのちのあり方を学び、子どもの可能性も発揮されていくのだと思っています。
タネをまく
野菜くずから出るかぼちゃやアボカドのタネでも、市販のタネでも、なんでもOK。まずは、タネをまくことから始まります。
芽が出る
毎日、世話をしながら観察を続けましょう。芽が出たときの喜びを子どもと共有できる幸せもあります。
収穫する
野菜のタネをまいたら、収穫ができるかもしれません。そこからタネを採ってまけば、小さな循環が始まります。
教えてくれたのは
明石 修
武蔵野大学環境システム学科准教授。人と自然が共生したサステナブルで循環型の社会はどのように実現できるのかについて、日々、研究と実践を行っている。専門分野は、自然エネルギーや持続可能な食と農(パーマカルチャー)、モノの消費と循環経済など。有明にある大学屋上で、学生たちとともにパーマカルチャーを取り入れたコミュニティガーデンを整備。無農薬・無化学肥料の野菜の栽培や用法を行っている。
『小学一年生』2021年4月号別冊 構成・文/神﨑典子 撮影/本間 寛
記事監修
1925年の創刊以来、豊かな世の中の実現を目指し、子どもの健やかな成長をサポートしてきた児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターに関わっていただき、子ども達各々が自身の無限の可能性に気づき、各々の才能を伸ばすきっかけとなる誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載しています。