この春、進学や進級をきっかけに、わが子と自転車の練習をしようと考えているパパ・ママも少なくないと思います。ただ、自転車の乗り方を教えようにも、意外にどうすればいいのか、分からないですよね。
そこで今回は富山競輪場(愛称はドリームスタジアムとやま)にお邪魔し、自転車乗りのプロである競輪選手の宮越大選手に、自転車運転の教え方を聞いてきました。
富山競輪場では定期的に自転車の乗り方講座「おやこ補助輪卒業教室」を子どもたちに開催しているとの話です。その実績と経験を踏まえて、指導のポイントを教えてもらいました。
目次
教えてくれる「先生」はプロの競輪選手
今回の取材で話を聞いた専門家は、宮越大選手。富山県富山市出身のプロ競輪選手で、日本競輪選手会富山支部長も務める方です。
宮越選手のホームバンクである富山競輪場には、敷地内に『サイクルパーク富山』という自転車に親しむためのスペースがあるので、その場で実演を交えながら教えてもらいました。
冒頭でも紹介したように、富山競輪場では月に1回程度のペースで「おやこ補助輪卒業教室」を開催し(※現在は新型コロナウイルス感染症の影響で中止)、全国の子どもたちに補助輪なしで自転車に乗るための指導をしていると言います。
1回2~2時間半の教室で、園児から小学生低学年を中心とした参加者の子どもたちも、たいていは乗れるようになって帰っていくとの話。どんな話が聞けるのか、期待大ですよね。
ステップ1:ペダルを外した自転車を押す
早速、「おやこ補助輪卒業教室」では、何から教えているのか宮越選手に聞いてみました。宮越選手によれば、「まずはペダルを外して自転車の左側に立ち、自転車を押す練習から始めます」との話。※ペダルを外す際には、専用工具のペダルレンチを使う。1,000円前後で購入可。さびているなどの理由で外れない場合、ランニングバイク(『ストライダー』など)を使うか、ペダル付きの自転車で行う。
広くて安全な場所で自転車を押し、ある程度の距離を行って帰ってくるような練習からスタートするみたいですね。
大人から見れば何でもない動作でも、慣れない子ども、特に将来の成長を考えて大きく重たい自転車を買ってもらった子どもは、真っすぐに押せない(ハンドルがグラグラしてしまう)場合があると言います。ちゃんと押せるまで、時間を掛けて練習させてあげてください。
また、自転車を押しながら行って帰ってくるとなれば、自転車を途中でカーブさせる必要が出てきます。その際、左に曲がるのに自転車を右(外側)に倒してしまう、右に曲がるのに左(外側)に倒してしまう子どももいるのだとか。
大人にとっては当たり前ですが、自転車を押して歩く際には、左側に立つという点も、あらためて意識させたほうがいいそうです。
「歩行者は右側通行ですが、自転車は左側通行です。その自転車を右側から乗り降りしたり、右側に立って押したりすると、自動車との接触リスクが高まります。とても大切な点ですので、常に左側に立つと意識させてあげてください」との言葉もありました。
ステップ2:自転車にまたがり、歩く
自転車を押せるようになったら、今度は自転車にまたがって、直進とカーブを歩かせます。狙いとしては、自転車の特性を体で覚えさせる点にあるみたいですね。
宮越選手からは「自転車に乗れない小さな子どもの場合、それぞれのステップに進むまでに、大人が思う以上の体力を消耗すると思います。ですから各ステップに移る前に、水を飲ませるなどして、休憩を入れながら進めてあげてください」との話もありました。
ステップ3:自転車にまたがり、両足で地面をける
自動車にまたがって歩く動作ができたら、今度はまたがったまま両足を地面に着いて、両足で同時に地面をける動作を練習します。宮越選手いわく「カエルのように地面をけって、慣れてきたら両脚を前に上げたまま、バランスをとって進む練習もさせてあげてください」との話。
この動作ができれば、実質的に自転車に乗れている状態と変わらないそう。あとはペダルをこぐかどうかだけなので、繰り返し慣れるまで楽しく練習をさせてあげたいですね。
ちなみにお気付きの読者も多いと思いますが、またがって歩く、またがって両足でける動作は、ランニングバイク(『ストライダー』など)の遊び方そのものです。
「やはり、ストライダーに乗っている子どもは、自転車にもすぐに乗れるようになります」との話ですから、まだ自転車に乗る年齢ではない下の子については、ストライダー遊びを一緒に始めさせてあげるといいかもしれませんね。
ステップ4:ペダルを付けた自転車に、緩やかな下り坂を使って乗ってみる
次はいよいよ自転車にペダルを取り付けた状態での練習になります。緩やかな下り坂の上で子どもに自転車にまたがってもらい、坂道の力を借りて下ります。
「ペダルをこぐ練習をする際、いきなり平らな地面でやってしまうと、初動の負荷が大きいので大変です。坂道の力を利用してスタートし、まずはペダルに足を乗せる練習をしてください」
ただ、最初から足の裏を無理にペダルの上に乗せる必要はないとの話。まずは足を地面から離して下る、慣れてきたら足の裏をペダルに乗せる、さらに慣れてきたら足の裏をペダルに乗せたまま何度か軽く回させるといったイメージですね。
ステップ5:平らな場所で、こぎ始めてみる
いよいよ最後のステップが、ゼロ状態からの発進です。
「ポイントはペダルの角度です。ペダルが上過ぎると、反対向きに回ってしまう場合もありますし、ペダルが下過ぎると、今度は力が入りません。直角より、ちょっと上の位置が理想的です」
子どもの脚の力が弱く、ゼロからの発進が出来ない場合は、もちろん後ろから軽く押してあげてもいいそう。
「ただし、自転車を押す場合は、サドルの後ろを押してあげてください。親子で教室に参加される方を見ていると、中には子どもの運転しているハンドルを押す方も見受けられます。しかし、ハンドルを押されると、運転している子どもは余計に力が入って、体が硬くなってしまいます。押す場合はサドルの後ろを軽く押して、サポートしてあげてください」
以上の練習を、わが子の年齢や体形、体力などに合わせて、無理のない形でさせてあげたいですね。
ちなみに富山競輪場では、新型コロナウイルス感染症の影響で「おやこ補助輪卒業教室」の開催を見合わせていると書きましたが、4月末には開催の可能性もあるとの話。気になる方は公式ホームページ(https://www.toyama-keirin.com/)で、最新の情報をチェックしてみてください。教室がない時でも、『サイクルパーク富山』では練習できるとの話です。
もちろん競輪場は富山だけでなく、全国各地にあります。それぞれの場所で似たような教室を開いている可能性もありますので、自宅から近距離に競輪場を探して、教室の有無を調べてみるといいかもしれませんね。
お話を伺ったのは…
取材・文/坂本 正敬