ナメクジが塩をかけると小さくなる理由
人間を始め多くの動物は、塩が皮膚に触れても特に害はありません。なめると塩辛く感じたり、傷にしみたりする程度です。
ではナメクジはなぜ、塩をかけると小さくなってしまうのでしょうか。他の物質でも同じ現象が起こるのかも含め、詳しく見ていきましょう。
浸透圧により乾燥する
ナメクジに塩をかけると小さくなるのは、「浸透圧」によって体内の水分が外に出てしまうからです。
ナメクジの体は、85~90%が水分でできています。しかも体の表面に皮膚がなく、「半透膜(はんとうまく)」と呼ばれる薄い膜で覆われているだけなのです。
半透膜は非常に水を通しやすく、そのままでは体内の水分が蒸発してしまいます。そのためナメクジは粘液を出して半透膜を覆い、体を乾燥から守っています。ジメジメした場所を選び、夜に活動するのも体を乾燥させないための工夫です。
ナメクジに塩をかけると、粘液に塩が溶けて濃い食塩水になります。半透膜は水を通しても塩の分子は通さないので、膜を隔てて塩分濃度の違う水が存在する状態が作られます。
このとき、濃度を一定にしようとして薄い方から濃い方へと水が移動する力が浸透圧です。浸透圧の作用で体内の水分が粘液のある体の外側に移動するため、ナメクジは小さくなってしまうのです。
塩は浸透圧が高いためナメクジはみるみる小さくなり、そのまま放っておくと死に至ることもあります。
塩ではなく砂糖をかけるのはあり?
塩ではなく、砂糖でも同じような効果は得られるのでしょうか。実はナメクジに砂糖をかけても、やはり浸透圧の作用が働き体が小さくなります。
ただし砂糖は塩に比べて浸透圧が弱いため、ナメクジの駆除には大量の砂糖が必要です。時間がかかる上に砂糖に蟻が寄ってくる可能性があるので、あまりおすすめできません。
塩以外でナメクジを駆除する方法
ナメクジに塩を撒くと、土の塩分濃度が高くなり野菜や花の生育を阻害することがあります。
また、塩の量が不十分だったり、湿度が高かったりすると小さくなったナメクジが復活するケースもあり注意が必要です。
土壌に影響がなく、確実に駆除できる塩以外の方法を紹介しましょう。
熱湯をかける
生き物の細胞を構成するタンパク質には、熱に弱い性質があります。
人間がやけどするほどの熱湯をかければ、体の小さなナメクジはいとも簡単に死んでしまいます。熱でタンパク質が凝固して死に至るので、浸透圧をかけたときのように後で復活する心配もありません。
ただし熱湯がかかると、周辺の植物も枯れてしまう恐れがあります。お湯を使うときは植物から離れた場所を選び、子どもやペット、自分の手にもかからないように注意しましょう。
木酢液をかける
木酢液は、木炭を作るときに発生する水蒸気を冷やして液状にしたものです。殺菌・殺虫効果があり、主に病害虫の駆除に用いられます。
ナメクジにも非常に効果があり、薄めて土に散布するだけで寄り付かなくなります。
ナメクジを発見し、その場で駆除したいときは原液を直接かけることでも対処できます。ただし木酢液の原液は刺激が強く、植物を枯らしてしまうので、使用する際は十分注意が必要です。
ナメクジ専用の殺虫剤を使う
ナメクジの被害がひどいときは、専用の殺虫剤を使ってもよいでしょう。
ペットが誤って食べても問題のない成分でできているものや、植物の近くに撒いても害がないものも多く、手軽にナメクジを駆除できます。
中にはナメクジをその場で殺さず、数日後に餓死させるタイプの殺虫剤もあります。自宅の庭やベランダ以外の場所に移動してから死ぬので、死がいを目にしたくない人におすすめです。
ナメクジを寄せ付けない方法
ナメクジは簡単に駆除できるとはいえ、できれば遭遇したくないと思っている人も多いのではないでしょうか。庭やベランダにナメクジが寄り付かなくなる方法を紹介します。
ナメクジが好まない環境にする
ナメクジはジメジメした場所が大好きです。次の点を意識して、ナメクジが好む環境を作らないようにしましょう。
・雑草を刈る
・落ち葉や小石を拾う
・植木鉢やプランターの下を定期的にチェックする
・使っていないガーデニング用品は片付ける
落ち葉や石、植木鉢の下など、常に日陰になっている場所はナメクジにとって絶好の隠れ家となります。
コーヒーがらを撒く
コーヒーに含まれるカフェインは、ナメクジの神経系統に影響を与えることが分かっています。コーヒー液を直接スプレーして、ナメクジを駆除することも可能です。
ナメクジに来てほしくない場所に、抽出した後のコーヒーがらを撒いておけば、香りを嫌って寄り付かなくなります。カビが生えないように、よく乾燥させてから撒きましょう。
ビールでわなを作る
ナメクジの習性を利用してわなを仕掛け、植物に近寄らせない方法もあります。ナメクジは酵母の香りを好むため、ビールを置いておくと植物よりもビールの方に引き寄せられるのです。
深めの容器にビールを入れて、ナメクジが出やすいジメジメした場所に置きましょう。ナメクジが集まってきたら、塩や熱湯でまとめて駆除します。
飲み残したビールなどがあれば試してみるとよいでしょう。
ナメクジにまつわる豆知識
そもそもナメクジとは、どのような生き物なのでしょうか。カタツムリとの違いや、ナメクジが植物に与える害について見ていきましょう。
ナメクジとカタツムリの違い
ナメクジとカタツムリは、どちらも巻貝の仲間です。陸上に生息する巻貝のうち、殻を持つものをカタツムリ、殻がないものをナメクジと呼んでいます。
殻を持たないナメクジが、巻貝に分類されるのはなぜでしょうか。実はナメクジは、一部のカタツムリが進化した姿です。何らかの理由で殻の必要性がなくなり、殻を退化させた結果としてナメクジが誕生しました。
なおナメクジもカタツムリも、寄生虫がいる可能性が高い生き物です。ナメクジを触った手や、ナメクジが通った跡がある野菜はしっかりと洗いましょう。
子どもが観察しようとして触ってしまうこともあるので、よく言い聞かせておく必要があります。
駆除しなかった場合の被害
ナメクジは主に雨の日や水やり後、夜間などに活動するため、存在に気づかないこともあります。気が付いても「ナメクジがかわいそう」「触りたくない」などの理由で放置する人もいるでしょう。
しかしナメクジは、多くの花や野菜を食べます。果物・コケ類・サボテンも例外ではありません。特にナメクジが好きな植物は以下の通りです。
・イチゴ
・キャベツ、レタス、ハクサイ
・ネギ
・キュウリ
・シイタケ
・アジサイ、アサガオ、バラ
食べる場所は葉・茎・つぼみ・花と多岐にわたります。柔らかい新芽や若葉を好み、硬くなった葉はほとんど食べないようです。
成長途中の新芽をナメクジに食べられてしまわないように、日頃からナメクジを寄せ付けない庭やベランダの管理を意識し、発見したら早めに駆除しましょう。
適切な方法でナメクジを駆除しよう
ナメクジに塩をかけると小さくなる現象は、浸透圧によるものです。浸透圧を利用すれば、砂糖のような塩以外の物質でも同じ効果が得られます。
また、ナメクジを駆除する方法は、塩以外にもたくさんあります。自宅の環境に合わせた方法を選んで、大切な花や野菜をナメクジの食害から守りましょう。
文・構成/HugKum編集部