「満を持す」のもとの意味が意外だった…【知っておきたい言葉の由来】

「満を持して登場」「満を持してのぞむ」など、日常でもよく使われる「満を持す」。意味はわかるから特に疑問にも感じていなかったけれど、語源は意外にも…?

「満を持す」の意味を確認

何げなく使っている「満を持す」という言い回し。語源を探る前に、意味を確認しておきましょう。

準備を十分にして、チャンスを待つことのたとえ。

出典:『小学館 故事成語を知る辞典』

「満」という字から、条件や心構えがしっかり満ちて時機を得た状況がイメージでき、特に由来を知らなくても違和感なく使える言い回しです。

が、もともとの意味は、ある場面での特別な動作を指していました。それは以下のうちどれでしょう。

1)
弓道用語。弓をいっぱいに引き絞ること。
2)
祭礼用語。月の満ち欠けに合わせて暦を調節すること。
3)
陶芸用語。器の形を保つために細工をすること。
4)
茶道用語。お湯の水面を揺らさないように保つこと。

正解は
1)弓道用語。弓をいっぱいに引き絞ること。

語源をひもとくと…

まん【満】 を=持(じ)す
弓を十分引きしぼって、そのまま構える転じて、準備を十分にして時機の来るのを待つ。

出典:『精選版 日本国語大辞典』

「満を持して」いる状態

 

「満を持す」とは、弓に矢をつがえて大きく引き絞り、いつでも矢を放つことができる状態のまま保つことを指します。

弓道の基本となる所作「射法八節」のうち「会(かい)」というポジションで、上図のように静止し発射のタイミングが熟すのを待つことを、持満(じまん)とも言います。それが転じて、通常私たちが使う「機が熟し準備が整った」意味になったのですね。

さかのぼれば、古くは紀元前2世紀、前漢王朝の時代の史実を記した「史記―周勃世家」にも用例が見られます。

北方の異民族に備えて警備をしている周亜夫(しゅうあふ)という将軍のところへ、皇帝が直々に、激励のために訪れたことがありました。来てみると、兵士たちはきちんと鎧を身につけ、剣は研ぎ澄ましてあり、石を飛ばすための弓は「満を持して」あるという状態。
ところが、皇帝がいかに門番の兵士に命令しても、陣営の中には入れてくれません。なぜならば、戦場では将軍の命令だけを聞くように、周亜夫が兵士たちを厳しく訓練してあったからだった、ということです。

出典:『小学館 故事成語を知る辞典』

よく統制され、戦の準備の整っている軍隊の様子がわかりますね。

ほかにもある〇〇由来の言葉

弓矢にまつわる言い回しは、ほかにもあります。

手ぐすね引く

「手ぐすね引く」の意味は「十分用意して待ち構える。準備して機会を待つ(小学館・大辞泉)」ですが、この「手ぐすね」が気になります。

手ぐすねとは「手薬練」と書き、弓の弦を補強したり滑り止めの用途で用いたワックスのようなもの。松脂と油で作るようです。今も辞書で「手ぐすねを引く」をひくと「滑りをとめて弓返りを防ぐため、弓手に薬練を塗る(小学館・大辞泉)」との意味も出ています。

手筈を整える

「手筈(てはず)を整える」や、「~~のはず」の「筈(はず)」も弓道用語です。

筈は「矢の端の、弓の弦につがえる切り込みのある部分(小学館・大辞泉)」を指し、この矢筈(やはず)に弦をひっかけて弓を引くわけです。そこから、事前に準備する手順や手配りのことを意味するようになったのですね。

ほかにも「的中」「輪をかける」「図星」「手心を加える」など、弓道や弓矢の扱いにちなむといわれている言葉が多くあります。それぞれの意味と語源を調べてみてもいいですね。

 

構成/HugKum編集部
協力/小学館  辞書編集部
イラスト/もとき理川

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