保育室にお笑い芸人!?幼児のための「笑育(わらいく)」ってなに?

保育室にお笑い芸人がやってきた!
幼児のための「笑育(わらいく)」ってなに?

発想力、表現力、コミュニケーション力を育む笑いの力―。
プロのお笑い芸人が講師を務める教育プログラム「笑育」が保育の現場で取り入れられています。
そのユニークな「授業」を取材しました。

 

「だるまさんが、ごはんをたべた!」
「もぐもぐ、おいしー! って、なんでやねん!!」

年長クラスの子どもと、プロのお笑い芸人が仲よくかけ合います。
「幸いづみ保育園」(神奈川・川崎市)の子どもたちが取り組んでいるのは、なんと「ボケ」の練習。「笑育(わらいく)」の授業のひとコマです。
「笑育」とは、漫才づくりなどのワークを通して発想力や表現力、コミュニケーション力を育むことを目指した教育プログラム。大手芸能プロダクション・松竹芸能が2012年に教育学者らとともに開発し、現在、全国約50校(小・中・高校、大学)で実施されているのだそう。
ある程度の知識や経験が求められる「漫才づくり」。そのため、笑育は小学校中学年程度からを対象に考えられています。幸いづみ保育園で行われているのは、これを土台にし、幼児向けに再開発したもの。園を運営する社会福祉法人三篠会・酒井亮介理事長からの、「笑いを保育に取り入れたい」というアプローチが、ひとつのキッカケとなりました。

英語や手話、多様な保育を取り入れる一環として「笑い」も

「園では、いろいろな人と多様にコミュニケーションをとれるようにと、英語や手話を取り入れています。その一環として思いついたのが、“笑い”でした。人と人がよい関係性を築くためにも、“笑いを生み出す力”は役に立つのではないかと考えたのです」(酒井理事長)
年10回、各回45分の授業の講師を務めるのは、松竹芸能に所属するお笑いコンビ「アゲイン」のふたり。ともに保育者の資格を持ち、幼児向けプログラムの作成にも加わりました。
「物理的にも心理的にも、子どもの目線に立つ、ということを意識して授業を行っています。保育者の資格を持っていますが、ぼく自身は現場に立つのは実習以来。最初は、話を聞いてくれるのかさえ不安でした」とは、アゲインの河村徳人さん。
相方のけーたさんいわく、いつもは「トガッたネタ」を書く徳人さんですが、授業のために書き下ろしているのは、テーマも言葉も、トガッていない漫才。人気のキャラクターも登場する新ネタに、子どもたちからは大きな笑い声が上がります。


▲冒頭5分の漫才は、その日のテーマに合わせて、毎回新ネタを用意。導入となる大事な時間だ。

 

ゲームを楽しむように言葉を探して、声に出す

取り組みを始めて今年で2年目。今年度4回目となるこの日のテーマは、「ボケの発想練習」。ボードやカードを使って子どもたちの言葉を引き出したあと、みんなで考えを出し合って、最後は一人ひとりが「ボケ」を披露。それぞれにアゲインのどちらかがツッコミを入れ、ショート漫才の完成です。
発表後は、ホッとしていたり、誇らしげだったり。自分で考えた漫才が見ている人を笑顔にさせ、拍手をもらう。この経験を積み重ね、プログラム最終日の「漫才発表会」を目指すのだとか。
昨年は、お遊戯会で漫才を発表しました。人前に出るのが苦手だった子どもも堂々と漫才を披露していて、保護者の方々も微笑ましそうに見ていました」と、園長の齊藤直美先生。
もちろん狙いはありますが、なによりも楽しい経験ができていることは間違いがないようだ、と酒井理事長はいいます。
「楽しい、うれしい、おもしろいと感じる体験が、子どもたちの財産になっていけばいいなと思っています」

 


▲2チームに分かれて「ボケ」の言葉を出し合う。ほかの人の意見を聞くことで、新しい発想が次々に飛び出す。

 


▲アンパンマンやドラえもんが登場する漫才に、子どもたちも笑顔。「つかみ」はOKだ。

 

この日のお題は、「だるまさんが○○○○」

「ボケの発想練習」は、「だるまさんがころんだ」の「ころんだ」を別の言葉にいい替えるというユニークなもの。グループに分かれてのシンキングタイムでは、だれかの考えが新しい考えを生んで、発表タイムはたくさんの楽しい発想が飛び出しました。

だるまさんが、ロボットになった!」
「ウィーンウィーン…、ってなんでやねん!」
「だるまさんが、ケーキをやいた!」
「まあっおいしそう! なわけないでしょー!」

ありえないだるまさんにテンポよくツッコミが入り、発表した子どもも見ている子どもも大ウケでした。


「だるまさんが〇〇〇〇」の穴埋めボケに挑戦中。不正解はないが、NGはある。「ぼくは、人を傷つける言葉から笑いは生まれないと思っています。それをうまく伝えていけたらいいな」(けーたさん)

 

笑育講師 アゲイン

(左)けーた (右)河村徳人
幼児をはじめ、各年齢層を対象に「笑育」の講師を務める。けーた(左)幼稚園教諭一種、保育士資格ほかを所有。養成所時代に非常勤として保育現場を経験。河村徳人(右)幼稚園教諭一種、小学校教諭一種ほかを所有。
https://www.shochikugeino.co.jp/waraiku

 


『笑育-「笑い」で育む21世紀型能力』
松竹芸能事業開発室「笑育」プロジェクト著/毎日新聞出版/定価1500円(税別)

井藤元(東京理科大学教育支援機構教職教育センター准教授)監修。お笑い芸人の技術とメソッドをカリキュラム化した本著は、アクティブラーニングの参考書としても話題。

 

出典/『新 幼児と保育』 文/木村里恵子 撮影/藤田修平

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