中学受験は課金ゲーム?家族全体を変えた黒木の地雷爆発作戦【おおたとしまさ連載第5回】

この秋の日本テレビ系ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」。HugKumではドラマ放送期間中の毎週金曜日に、教育ジャーナリストのおおたとしまささんによる前週のストーリーの振り返りと、ドラマに出てきた中学受験情報の解説、そして次回放送内容を考察する記事を連載しています。

  壊れるならいっぺんぶっ壊れた方がいい

ドラマ「二月の勝者−絶対合格の教室−」の5話目のキーパーソンは、成績下位のRクラスの中でもさらに成績がパッとしない武田勇人君の家族だった。父親を塚本高史さんが、母親を星野真里さんが演じる。この回に関しては塚本さん演じる父親のクズ発言の数々が、スーパー塾講師の黒木(柳楽優弥)のどぎつい発言よりも目立っていた。

武田家では、もともと母親主導で中学受験を始めたようだ。父親は家に帰ってきてもスマホゲームばかりして、息子の中学受験には関心を示さないどころか、ゴールデンウィーク(GW)特別講習の授業料にもケチを付け、さらには中学受験生の息子をゲームや旅行に誘惑する始末。母親には当然鬱憤が溜まっている。

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夫婦の意思統一がとれないまま、GW特別講習に申し込んでいないのは、武田君だけとなった。それを知った黒木は新米講師の佐倉麻衣(井上真央)に、ご両親との面談を提案する。しかし武田家では、父親が「明日? なんでオレが塾に? いけるわけないじゃん。オマエの仕事みたいに代わりがきくわけじゃないんだよ」と暴言を吐いて拒絶する。グッと言葉を飲み込む母親。

母親には仕事の鬱憤も溜まっていた。子育てのために残業はしないと決めている。できの悪い上司の尻拭いまでさせられる。そんな状況を心配する後輩に母親は、「いいの。私はこれまで育休も取ってきたし、子どもの用事でこれからも早退も多いだろうし、それに……店長は大卒、私は高卒だし、ね」と諦めの微笑みで返す。

家庭内ジェンダー格差の問題と、職場でのいわゆる「子育て罰」、そして学歴差別の三重苦のうえに、中学受験生の息子のなかなか上がらない成績に頭を悩ませていたわけである。

 

父親が面談を拒絶したことを知った黒木は講師の桂歌子(瀧内公美)に面談を担当させる。そして「武田夫妻の地雷を踏みつけて、爆発させるんです」と指示する。そう言われた桂もなぜかメラメラと闘志をたぎらせる。

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桂は母親の鬱憤に寄り添ったうえで、「日々、感情を押し殺し、平穏に過ごそうとしていらっしゃるお母様のお気持ち、よーくわかります。でもお母様。私の経験上申し上げますと……ご夫婦の意見が一致していないと中学受験は失敗します」と忠告する。母親を見送ってから、桂は佐倉に「壊れるならいっぺんぶっ壊れた方がいいのよ」と言い放つ。

くすぶる受験生たちの偏差値を一気に上げる方法とは?

一方、息子の勇人の成績は低空飛行を続けていた。大事な模試が間近に迫っている。黒木はRクラスを担当する佐倉に、模試の過去問を解かせまくり、特に算数の基本問題に特化した宿題を大量に出すように指示をする。

過去問練習の答案を見た黒木は、ケアレスミスの多さを嘆き、「偏差値を一気に上げる方法があります」と言う。その方法とは、8問ある模試の算数の問題のうち、後半4問を破り捨ててしまうというものだった。

「最初から半分、盛大にドブに捨てさせるだけですよ。どうせ2〜3割しか点数が取れない連中は、うしろの半分の問題を解く必要はない。いや、解く資格がないと言っているんです」(黒木)

そんなことをしたら子どもたちが傷つくのではないかと心配する佐倉に黒木は、「いま彼らの必要なのは点数を稼ぎ、偏差値を上げることです」と断言する。

武田君を含む成績下位4人に対し、黒木は「あなたたちはこれを解いてください」と言って、目の前で問題用紙をビリビリと半分に裂いてしまう。佐倉の心配をよそに武田君は、「え、まじ? 半分でいいの?」と、ちょっとうれしそう。石田王羅君にいたっては「やり! ラッキー!」と露骨に喜ぶ。

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結果は、黒木の宣言通りだった。4人はみな10点以上もスコアをアップした。黒木曰く「問題をバッサリ取りのぞいて、同時に焦りも取りのぞいてやった……その結果、ミスが減ったんです」。もちろん実際の試験ではこんな方法は通用しない。しかしあえてそんなやり方をさせたのは、自信と得点欲を実感してほしいからだと黒木は佐倉に説明する。

「点が取れた!偏差値が上がった!という事実。受験生にとってどんなご褒美よりも、これにかなう喜びと原動力はありません」と黒木。さらに「子どもたちが帰る前にこの答案を返してあげてください」と付け加える。鉄は熱いうちに打てというわけだ。点数を見て、武田君の目が輝く。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

父親のモラハラ発言連発で、ついに母親がキレる

その日、珍しく残業をした武田君の母親は、ヘトヘトになって帰宅する。直後に父親も帰宅する。

「何やってんのオマエ?」
「私もいま帰ってきたところ」
「あそ。メシは?」
「私、今日から残業することにしたから」
「残業?」
「勇人の塾代のために」

自分がもっと働いて息子の塾代を稼ぐという母親に、父親がモラハラ発言を連発する。今回の、ある意味ハイライトだ。

 

「は? 何言ってんのオマエ? 残業って、オマエの店閉まるの夜8時だろ、家のことどうするんだよ。メシとか」

「そんなんにお金かけるって、どうかしてない?」

「最初は無料体験とかで、ママ友に誘われて気楽に言っちゃって。でもって気づいたら、毎年ちょっとずつ月謝は上がってきて、引くに引けなくなったところを、今度はオプションの勧誘がっつりされてさ。こんなのバカ親相手の詐欺じぇねぇか。いいカモになってんだよオマエは。そう言うのなんていうか知ってる? 資本主義のドレイって言うんだよ。いい加減気づけよ。ったく……」

「あ、これじゃさ、リアル課金ゲームだな」

「早くメシにしてくれよ、頼むから……」

「……つうかさ、マジで続けるつもりなの? 中学受験。勇人にホントに見込みがあると思ってる?」

そのまま、缶ビールを空け、スマホゲームを始める父親に、ついに母親がキレる。

「じゃあさ、あなたがやってるそのゲームのキャラは、相当見込みがあるんだよね」

「はぁ?」

「……はじめは無料で、あとからどんどん課金。あなたがやっているそれ、何だか似てるよね」

父親の手からスマホを取り上げる。

「おい! 何すんだよ! ふざけんなって!」

「ふざけてんのはどっちよ!!!」

 

そして「二月の勝者」屈指の名ゼリフが炸裂する。

「どうせなら私たちの子どもに課金してくれる⁉ 自分の子どもをクソ強いキャラに育ててよ! 勇人にどんな敵でもラスボスでも倒せるクソ強い武器を持たせたらどうよ! 課金ゲーム上等!!!!!」

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

 

その後、塾から帰宅した勇人が、一人でカップ麺をすする父親に嬉々として伝える。

「パパ、今日テストの点数が上がったんだ!」
「すげーじゃん!」
「パパ、僕、今年、(ゴールデンウィークに約束していた)ディズニーランド、我慢してもいいよ」
「え、そうなの?」
「うん。じゃ、宿題あるから」

自ら机に向かう勇人の後ろ姿を、母親が愛おしく見つめる。成績なんて上がらなくたって、この瞬間が見られるなら、親もどんな苦労にも耐えられる。ちょっと気が早いかもしれないが、子どものこういう後ろ姿を見ることができたら、もう半分以上、中学受験は成功したといっていいと私は思う。そして今回も、この子どもの変化のきっかけをつくったのは、黒木のウルトラCだったわけだ。

変わったのは子どもだけではない。今回のことをきっかけに母親は店長への昇進を目指すことを決意した。「これからは、仕事でも、何でも、ちゃんと自分が考えてることを主張しようと思って」と後輩に話す。

残業を頑張る母親に代わって特別講習の授業料を手渡すために、父親も初めて塾に足を運ぶ。そこを黒木がつかまえる。中学受験を課金ゲームに例えつつ、「勇人さんはいま、自分の可能性に目覚めています。ここはどうか、お父様お母様が稼いだ大切なお金を、勇人さんのために使ってみてはいかがでしょうか。私たちはそのお気持ちに応えられるよう、精一杯勇人さんをキャリーさせていただきます」と伝える。父親も「先生、うまいこと言いますね。でもまあ、納得しましたよ。よーくわかりました。それじゃあ、勇人のこと、よろしくお願いしますよ」と素直だ。

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地雷を踏みつけて爆発させた結果、武田家は変わった。雨降って地固まるというわけだ。

落ちついて問題を解くコツを心得た武田君。一方で、宿題の正答率がいつもより悪いことに気づいた佐倉は、そのことを武田君に伝える。すると武田君は「先生……ごめんなさい! 僕、これまで算数の宿題、答えを見て写してたんだ。でも、もうちゃんと自分でやることにしたんだ」と言って帰宅した。それを見ていた黒木が言う。「子どもは、大人が思っている以上に子どもで、思っている以上に大人です」。

ドラマでは描かれなかった原作の名シーン

実は原作では、「課金ゲー上等」のくだりと、「後半大問やる資格なし」のくだりと、「答えうつしてた」のくだりは、まったく別々の文脈で描かれている。特に「答えうつしてた」の場面は、コミック第6集で、それだけで1つの成長ストーリーになっており、印象的だ。

塾で、ボロボロと涙を流しながら、「だから俺もう、ズルしない」と宣言する武田君。「お母さんにも正直に言ったんだ? 怒られなかった?」と聞く佐倉に、「『あきれた』って言いながら爆笑してた」と答える。

『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉』(おおたとしまさ・著、高瀬志帆・画、小学館・刊)より

次のコマでは武田君の母親がキッチンでしゃがみ込んでいる。「あンのバカ息子。ゲーム隠した時も結局捜し出したしなあ。どこに隠そう? 米びつ?」と泣き笑いを浮かべる。できは悪くとも歯を食いしばって頑張る中学受験生を支える親の心情を見事に描いている。私の大好きなシーンの1つでもある。

 

次回予告によれば、いよいよ桜花ゼミナール吉祥寺校のエース・島津順くんの父親が大暴れするようだ。原作のファンならば「ついに……」という感じだろう。武田君の父親とは真逆のキャラだが、今回武田君の父親のクズ発言にイライラした視聴者も、島津君の父親にはまったく別の意味でハラハラさせられるはずだ。あの「悪い意味での狂気」のキャラを、金子貴俊さんがどう演じるのかが見物だ。

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また、最強中学受験塾ルトワックのスーパー講師・灰谷純(加藤シゲアキ)が、「スターフィッシュ」(ネオン街の片隅で黒木が人知れず運営する学びの場)の存在に気づくことも予告されている。そこからドラマがどういう方向に進んでいくのか、原作とは違う展開が待っているのか……。原作のファンにとっても、見どころが多すぎて、困る。

 

ドラマの第3回を見逃したというひと、もう一度見たいひとは、ネットサービス「TVer」で、11月13日21:59まで視聴可能だ。ドラマ公式ホームページでは「第4回」のダイジェスト動画が見られる。「第5回」を予習したいひとは、「次回予告」をどうぞ。

文/おおたとしまさ

 

二月の勝者 -絶対合格の教室』第5 話は11月13日(土)22時より放送/日テレ系列

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ビックコミックスピリッツで大ヒット連載中の中学受験漫画『二月の勝者-絶対合格の教室-』と気鋭の教育ジャーナリストのコラボレーション。「中学受験における親の役割は、子どもの偏差値を上げることではなく、人生を教えること」と著者は言います。決して楽ではない中学受験という機会を通して親が子に伝えるべき100のメッセージに、『二月の勝者』の名場面がそれぞれ対応しており、言葉と画の両面からわが子を想う親の心を鷲づかみにします。

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