干し柿の時期と食べ頃
渋が強くて食べられない渋柿は、寒風にさらすことで甘い干し柿へと変わります。これは、柿に含まれるタンニンの変化によってもたらされる恩恵です。渋味として感じる時は水溶性で、干し柿になると不溶性へと変化し、私達の味覚に感じなくなる、というしくみです。
タンニンが消えてなくなるわけではありませんから、栄養素としてそのまま残っています。二日酔いの解消などに効果が期待できるのは、生柿でも干し柿でも同じです。
干す時期と生産地
カビの生えにくい環境で干すことが必要ですから、収穫後に雨が少なく、気温が低い11月〜12月が適期です。この頃になると、軒下に暖簾のように吊るされている風景を目にすることができます。
干す期間が2週間〜1か月程かかることから、市販品の流通は11月の半ば〜1月です。
干す時の適気温は15℃以下であり、乾燥し過ぎた空気では渋味が抜けにくい、という特性があるため、限られた地域でしか生産されません。
武田信玄に生産を推奨された歴史を持つ山梨県では、今でも干し柿作りが盛んです。「渋柿は渋柿として使え」とは、弱みがあってもそれを生かして伸ばせ、という信玄公の言葉です。
食べ頃は
干柿には大きく分けて「あんぽ柿」と「ころ柿」と呼ばれるものがあります。
「あんぽ柿」はしっとりとしたセミドライで、干す期間は2週間~3週間が目安です。
一方の「ころ柿」は、しっかりとドライになるまで乾かし、硬めの食感です。3週間~40日をめどに干すと、白い粉がふき、よく揉んで均一な硬さに仕上げます。「ころ柿」は「枯露柿」と書き、露(つゆ)にあてて干す意味の他、コロコロと転がしながらよく揉む意味も含まれているそうですよ。
さらに干し続け、食べ頃を過ぎてしまうと硬い食感へと進みます。もしも硬くなり過ぎてしまった時は、砂糖水や白ワインに2時間〜3時間程浸けることで柔らかく戻すことができます。
白い粉と黒いシミ
生柿の皮をむいて干した後、揉むことによって中から水分が出てきます。この時、柿の糖分が一緒に滲み出てきます。これが白い粉状に結晶化して、表面を覆います。
もともと柿に含まれていたブドウ糖ですから、甘みが強く感じられ、脳の栄養として即効性があります。受験勉強のおやつとしてピッタリですね。
また、染みのように見える黒い点や変色も、カビではありません。柿にもともと含まれている微量の鉄が、タンニンと結びつくことによって発色した「タンニン鉄」です。
タンニンは草木染に使われる染料にもなりますが、いわばそれと同じ原理による色づきであり、食べて害になるものではありません。安心して食べてください。
添加物
市販の干柿は原料の欄に、酸化防止剤として「二酸化硫黄」が記載されている場合があります。これは、生柿の皮をむいた後に硫黄の煙で燻す工程で付くものです。酸化やカビの発生を抑え、きれいな色の発色を促すために必要で、食品衛生上、問題のない量ですから、心配ありません。
きれいな干し柿の作り方、コツをご紹介
干柿の作り方はこちらでご紹介していますので、御覧ください。
さらにここでは、カビを生やさずきれいに干すコツを、写真とともに詳しくご紹介します。
焼酎か熱湯で殺菌
生柿の皮をむいて紐で結んだ後、焼酎、または沸騰しているお湯に浸すことでカビの発生を抑える効果を期待できます。この処置でカビが生えない、とは言い切れませんが、表面の雑菌を少なくする効果はあります。
干している最中も、雨が続いたり乾きが遅かったりする場合に、スプレーで焼酎を吹き付けると予防になります。
室内で干す時は
本来は軒下で日に当て、風通しを良くしながら乾燥を待ちます。室内に干せば、雨や鳥に狙われる心配がなくなりますが、カビへの対策が必要です。
干す部屋は人の出入りが少なく、暖房で温める機会がない部屋を選び、さらに扇風機や除湿機を使って乾燥させると成功率が高まります。
カビへの対策
なによりも、干している最中は気にかけることが大切です。晴天が続く時は見守るだけでよいですが、雨の予報なら事前に場所を移し、濡れない工夫をして乾燥を待ちます。そして、頃合いを見計らって取り入れ、冷蔵や冷凍保存に切り替えると長く楽しめます。
干し柿の保存
本来、乾燥した場所に吊るされていた柿が、直射日光や気温の高い場所に置かれると、表面の白い粉が溶けてベタベタしてしまうことがあります。糖が溶けただけですから、口にしても問題はありませんが、きれいなまま保存できる方法をみていきます。
常温での保存
【1】新聞紙やキッチンペーパーなどの紙類に包みます。
【2】風通しの良い場所で保管します。
常温での保存期間は3日程度と、あまり長くは保存ができません。乾燥が進んでしまい、カビの発生もあります。早めに食べる予定がなければ、冷蔵・冷凍保存へ変更すると長持ちします。
冷蔵での保存
【1】干し柿を1つずつラップに包みます。
【2】ポリ袋やジッパー付きの袋、タッパーなどに入れて冷蔵庫へ保存します。
保存期間
保存期間は1か月程度です。
食べる時は
冷蔵庫から取り出してすぐは硬いため、温める程度にトースターで焼くと、柔らかくなります。ヘタの端が焦げるくらい焼くのがお好きな方もおられますから、お好みの焼き加減を探してください。
電子レンジなら、肉まんを温める時の方法がおすすめです。
【1】干し柿をサッと水に浸します。
【2】濡れたまま耐熱皿に乗せ、ラップをふんわりとかけます。
【3】電子レンジの温め機能を使って温めます。
冷凍での保存
【1】大きい柿は、食べやすい大きさに切ります。
【2】断面にラップをぴっちりと貼りつけます。
【3】冷凍用保存袋に入れて冷凍庫へ入れてください。
保存期間
保存期間は3か月から半年ほどです。長持ちしますが、冷凍庫の臭い移りや霜が発生する前にお召し上がりください。
解凍方法
干し柿は冷凍してもカチカチにはなりません。解凍を待たずに包丁も入れられますし、半解凍でひんやり感を楽しむのもいいですね。自然解凍なら、冷凍前と同じように食べることができます。
市販の干し柿をご紹介
スーパーでも手軽に手に入れることができる干し柿。いくつかの種類をご紹介します。
あんぽ柿
あんぽ柿は白い粉がなく、水分が50%程度含まれていることから、ごく柔らかい食感です。バターやクリームチーズを挟んで食べるのも、おすすめ。
市田柿
市田柿は「ころ柿」に含まれる干柿です。白い粉が全面に覆い、もっちりねっとりした食感です。含まれる水分は25〜30%と少なく、まるで羊羹のよう。長野県下伊那地域のごく僅かな地域で生産される干柿です。
韓国産
韓国産でよく見かけるのは、「カムマルレンイ」というカットしてから干したものです。一口サイズで食べやすく、水分量が多いのが特徴です。
常備しやすく、おしゃれなおつまみにも
柿の甘味が凝縮して、長い期間にわたり楽しめる干し柿。フルーツとして楽しむ他、ワインに合わせたおつまみや、バゲットに生ハム、チーズと一緒に挟むのも格別です。日本発祥の果物ですが、案外オリーブオイルとも合うので試してみてください。干柿は保存性の良さから常備しやすい食材です。思いついたときにサッと使いこなせると嬉しいですね。
構成・文・写真(一部を除く)/もぱ(京都メディアライン)