酒の「さかな」は「魚」?いいえ違います【知って得する日本語ウンチク塾】

「さかな」の「さか」は「さけ(酒)」、「な」は「菜」で副食物のこと

魚類の「魚」は、今でこそ「さかな」と言いますが、古くは「うお」「いお」と言っていたのです。『日本書紀』や『万葉集』などにも「紆嗚(ウヲ)」「宇乎(ウヲ)」などと書かれています。平安時代前期の歌物語『伊勢物語』には「いを」が使われています。「水を得た魚のよう」という慣用表現がありますが、この「魚」を「うお」と読むのは、古い言い方が残っているからです。

「さかな」という語も、やはり奈良時代からありましたが、魚類とは違う意味だったのです。何かというと、酒を飲むときに添えて食べる物のこと、つまり、現在の酒の「さかな」とほとんど同じ意味でした。その「さかな」として食べられていたものは、魚類だけでなく、肉や野菜、果実のこともあったようです。「さかな」という語は、「さか」は「さけ(酒)」、「な」は「菜」で副食物のことなのです。

「さかな」に「魚類」の意味が加わったのは江戸時代以降

「さかな」という語に魚類の意味が加わったのは、江戸時代以降のようです。江戸を中心に東日本で魚類の総称として「さかな」が使われるようになり、それがしだいに西日本へと広まったのです。そして、「うお」という魚類を表すことばが駆逐されてしまったようなのです。今でも、魚類を「うお」「いお」と言っている地域はありますが、「さかな」と言う地域の方が間違いなく多いでしょう。

こんな話もいい酒の「さかな」?「つまみ」?「あて」?になるのではないでしょうか。

 

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)が好評発売中。

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