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子育てってわからないことだらけだから知識が必要
――江口さんが子育てをテーマに編集をしようと思ったきっかけはなんですか?
以前勤務していた出版社は出産後退職したのですが、子育てって実際よくわからないな、と。興味があるとか好きとかいう前に、わからないことだらけだなと。そんなとき、知り合いから『AERA with Kids』の編集をやってみないかと、紹介されたんです。
子どもが生まれる前は、生活実用や学習・健康などをテーマに雑誌や書籍の編集をしてきました。取材をしていろいろな人の話を聞く中で、最新情報に触れることができ、刺激を受けていました。今度は子育ての知識を入れたいな、というタイミングでしたから、喜んでお受けしました。
当時、娘はまだ2歳でしたから、まさに子育て期間と重なり、取材したことが実生活で役立つ場面がたくさんありましたね。
自分の子育てと仕事がリンクするのがおもしろい
――ご自身の子育ての悩みの解決にもなった、ということですね。
はい、自分の悩みとリンクすることが、何よりもおもしろかったですね。子どもが成長するごとにパパママの悩みって変わるものですが、その都度最新情報が聞けるのもよかったです。
子育てって、習わないじゃないですか。学校の家庭科の教科書を見ても、大雑把な保育の一端や、簡単な子どもの成長過程くらいしか書いていなくて。私だけでなく、みなさん、自分の子どもが生まれるまで、実際に保育をする機会などほぼない中で、子どもが生まれるのではないでしょうか。
子育てというまったく新しい体験をするわけですから、正しい知識を入れることが大切ですよね。私自身も、読者のみなさんと同様、「新しい勉強」をしてきました。人間ってこうやって育っていくのかと、成長の過程を知ってびっくりすることだらけでした。
――ご著書の中でご紹介してくださっている100冊は、「子育てのさまざまな過程で役立つ情報が載っている本」ということなんですね。
2021年3月に『AERA with Kids』を辞めるとき、周囲のお母さんたちから
「いろいろ取材してきた中でいちばん印象に残っていることって何?」
「どんなことが自分の子育ての役に立った?」
と聞かれまして。子育て中のパパママが最も聞きたいのはそこなのかもしれないと思い、12年間の勤務の中で取材した方々の著書、また自分で興味を持って読んだ本の中から、編集者として「これはスゴイ! ぜひ覚えておいたい!」と思った本を選ばせていただきました。
本は傍らに置いて読み返せる。本物の情報が詰まっている。とてもお得なメディア
――今はSNSなどでも子育ての情報はたくさん得られますが、本という媒体に注目したのは?
本って傍らに置いて、ちょこちょこ読み返せるじゃないですか。それは意外に見逃せないメリットだと思うんです。本には情報がたくさん詰まっているので、一気に情報を得るのはたしかに難しいです。でも、だからこそ、そのときどきの気持ちに刺さるポイントに合わせてパラパラ読み返すと、納得がいくことが多いです。通り過ぎていく情報ではなくて、自分の傍らにあっていつでも取り出せる情報なわけです。
また、編集者の立場で言わせていただければ、本って尋常じゃない時間と労力をかけて作っているんですよね。熱量の高い著者の言葉を、いろんな人の目を通して整えていくわけです。密度がすごいですし、情報の確かさもある。全部が全部いい本とは限らないけれど、おしなべて1200円とか1500円で買えるものとしては、かなりお得と言えるのではないでしょうか。
YouTubeもInstagramもいいけれど、本はずっとそばにいてくれて、安心して子育てができるよりどころになると思っています。また、共感できるな、と思った本を読んだら、その著者の方の他の本を探して読んでみるのもいいです。
自己決定力、自己肯定感、非認知能力など旬の子育てのキーワードがわかる1冊
――江口さんが挙げた100冊は5つのカテゴリーに分かれているんですね。そのchapter1で自己決定力、自己肯定感、非認知能力などを取り上げた理由は
大人になってから幸せになれる3つの力ととらえています。
まず自己決定力ですが、子どもの頃、大人の言うことをなんでも聞くいい子だったとしても、その子が大人になってから何をやりたかったんだろう、どうしていいかわからないと、自分の人生を選べないのは悲しいなって思います。親もいつまでも子どもの面倒をみるわけではありません。最後には自分で判断していかないといけない。自分で選べる力をつけるのは、大人になってから効いてくる力だなって思います。
自己肯定感は、大人になってから思わぬ失敗や挫折があったときに、這い上がる力になります。ネガティブなことをポジティブに変えていける力になります。
また、非認知能力はコミュニケ―ション能力ややり抜く力に通じます。
とにかく子ども自身が自分で選んで決定したものであれば、親はそれを応援するしかないって思いますね。
子どもが自己決定したものを否定しない。失敗から学ばせよう
――でも、多くの親は選んで失敗したらどうしようと思って先回りして「こっちのほうがいいんじゃない?」と言ってしまいがちです。
自己決定したものを否定すると、ダメージになりますよね。子どもが決めたものは一度肯定してあげることが必要なんだと思うんです、それが失敗だとしても。
たとえば、寒い日にコートを着て行きなさい、「いやだー」というなら、半袖で一回外に出す。「寒いよね」っていう経験をさせるほうがいいです、ひっぱたいてコートを着せるより。失敗して1回回って学ぶんですよね。親は知識を持っていても知識を押しつけないという姿勢が大事だと思っています。
ひろゆきさんが、著書の『僕が親ならこう育てるね』の中で、こんなようなことを言っていました。「失敗を乗り越える力を身につけるには、失敗を繰り返していくしかありません。そして失敗を恐れなくなれば、挑戦の回数が増えます。挑戦する回数が多いと、それだけで成功する可能性が増えます」って。
イヤという感情を大事にし、好きコトを見つける
――では子どもたちはどのように自己決定をすればいいのでしょうか。
- 『シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成』の著者である安宅和人さんがある取材の中でおっしゃっていたのですが、その子なりの「心のベクトル」を育てましょう、と。「心のベクトル」とは自分だけの意思や感情を育てること。特に「イヤっていう感情を大切にしませんか」というのが印象に残っていて。機械にはできない「イヤという感情を持つこと」、人間らしい、これがきれいだな、素敵だなって思える感情をいかに育てていくのかがこれからの時代には大事だなと。たくさんある中でこれが自分は好き、これは必要ないというのをやっていかないと、自分で選ぶことができなくなってしまいます。自分を軸にして何が好きなのかきらいなのか、その決定する力が大事になるんじゃないかなって思います。
そのためには、子どもをいろんな人に会わせることも大事ですね。それも、先生と生徒みたいなはっきりとした上下関係ではないような関係性がいいかなと。親がやっていない仕事の人、腕一本で生きているような方。あるいは、スポーツでも料理でも、何かにハマって探究している人と話すと、必ず学びがありますね。
思い切り甘えさせること。それが自己肯定感につながる
――最後に、江口さんご自身の子育てにもっとも影響を与えた本を教えてください。
2冊あるんですが、1冊は、佐々木正美先生の『子どもへのまなざし』です。子どものありのままを受け入れよう、というメッセージにあふれています。時代が変わっても読み継がれる究極のロングセラーですよね。
もう1冊は手前味噌になりますが、私が編集をした『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』(アグネス・チャン)です。アグネス・チャンさんは母親としてすばらしい方でした。子どもひとりひとりに自己肯定感を持たせること、そのためにはきょうだいを比較しないことが大切とおっしゃっていて。世界ではばたくようなお子さんを育てる方はやはり違うのだなと、実際にお話を伺って思いましたね。
やはり大切なのは、自己決定力や自己肯定感。それを子どもに授けるには、親子関係に信頼感ができているかどうかが一番大きい気がします。
うちの夫は娘が小学校1年生のときにがんで亡くなってしまったのですが、娘に対しては大甘な親でした。「抱っこ」と言われればすぐ抱っこをし、やってほしいといえばたいていその通りにしていました。「ちょっと甘すぎるんじゃない?」と言ったりしていましたが、こうやっていろいろな子育て本を読むと、幼児期にたっぷり甘えさせることが、大きくなってからの人生にとってとても大事なことなのだと、改めて思うのです。
『子どもへのまなざし』にも、たっぷり甘えさせることによって、親子関係がよくなる、信頼ができる。それがあると、スッと親元を育っていけるというふうに書いてあります。愛情が信頼につながり、信頼が自己肯定感を育てるのだなぁと。夫の子育ては間違っていなかったのだなと思いますね。
子育て雑誌「AERA with Kids」元編集長が幼児・小学生を持つ親に向けた子育て本のベストセラー、名作の中から100冊を厳選。
絶対押さえておきたい「子育ての基本」や「新しい教育観」を23のキーワードに沿って紹介します。
お話を伺ったのは
『「AERA with Kids」元編集長が選ぶ子育て本ベストセラー100冊の「これスゴイ」を1冊にまとめた本』(株式会社ワニブックス)