子どものウソとどうつきあうか。脳科学者・中野信子さん流「子どものウソへの対処法」

「ウチの子、ウソばかりつくのだけど大丈夫?」「叱っても、すぐウソを言うんです」。子どものウソに関する悩みは意外に多いもの。正直な人になってほしいと思うのは高望みなのでしょうか?
脳科学者の中野信子さんに「子どものウソ」について解説していただきました。

「人は10分に3回ウソをつく」という研究報告もあります。ネット・SNSではフェイクニュースが蔓延し、詐欺やマルチ商法の手口が次々世間を騒がす今日、私たちは「ウソ」や「フェイク」と常に共生する社会を生きています。

脳科学者の中野信子さんは、著書『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』の中で、人間社会における「ウソ」の役割、騙されるメカニズムとともに、「ウソ」の効用・文化的メリットなど幅広い考察を展開しています。

今回は、子育て中のママパパや保育者にとって気になる「子どものウソ」について解説していただきました。

脳科学者・医学博士の中野信子氏

子どものウソは生存戦略

「正直であれ」。これは親が子どもに口を酸っぱくして教え諭す性質の筆頭ではないでしょうか。

子どもは大人から「ウソをついてはいけません」と教わり、「ピノキオ」や「オオカミ少年」など「ウソをついたら大変なことになる」という寓話を聞かされて育ちます。イソップ童話の「金の斧」で説かれている教訓は明快で、「神は正直者を助け、ウソつきには罰を与える」ということです。

子どものウソはほぼ言語能力の獲得とともに始まり、成長につれて、言葉の幅の広がりと合わせて、ウソは着実に複雑化し、巧妙化すると言われます。赤ちゃんですら、ウソ泣きや愛想笑いで気を惹こうとするという研究結果もあります。

子どもが成長に合わせて、社会的なウソを身に付けていく過程にはいろいろな要因がありますが、生きるための本能とも言えるでしょう。

なぜなら子どもは自分の力だけでは生きていくことはできません。子どもは身体が小さく脆弱なので、大人に注意を向けていてもらわないと命を落とす可能性もあります。さらに他者から攻撃を受けやすいので、常に大人に注目されていたほうが生き延びやすいのです

つまり、相手の注意を惹くためにウソを発信するということは、子どもの生存戦略としては正しいやりかたと言えるのです。周囲に見守られ、よい印象を与えて手助けしてもらいたい。だから偽の情報を駆使してでも相手の好意を得ようとするのです。

子どもは褒められたいからウソをつく

子どもはたくさん失敗をします。それでもよく思われたい、叱られたくないと思うから、ウソをつく頻度もおのずと上がってしまうのでしょう。

また子どもは、日常的に大人の行動を見ながら、どうすれば自分をよく思ってもらえるのかを観察して学んでいます。そして好き嫌いを伝えるときにも、ウソをついたほうが褒められ、正直に言うと嫌な顔をされることに薄々気づいていくでしょう。

本当の自分が、周囲の期待と乖離していたとき、本当の自分が暴かれるリスクがなければ、いくらでもウソをつくでしょう。そのほうが安全だからです。子どもと話をしているとすぐに分かるようなうそばかりつくので不安になる親御さんもいると思いますが、理由は明確で、単純に子どもは「褒められたい」のです。

幼児期には、ウソをつかれると困る親を斟酌できるまでに脳は育っていません。ただ褒められたい、叱られたくない、という欲求からついウソをつくのです。成長するにつれ脳も発達し、「ここは正直に言ってしまったほうがよいだろう」という知恵も働くようになります。

「なぜウソはいけないのか」と問われたら

親が子にウソをついてはいけないと教えるのは、一つは、「平気でウソをつく」ということに慣れさせないためでしょう。確かに、ウソばかり言っている人は、誰からも信用してもらえなくなってしまいます。

もう一つの理由は、子どもには正直でいてもらわなければ管理できず、守ってあげることもできない。つまり便宜上不都合だからです。だからウソをついてはいけないよと教えるわけですが、実際にウソをつけない子どもに育ってしまうと、大人になり社会に出たときに子ども自身が困ることになります。

もちろん、誰かをコントロールしたり、傷つけたりする悪いウソつきにならないように育てることも大事です。身体的に危険があるような場合や金銭トラブルなどに関わるウソには、時にはきっぱりとした対応をする必要もあるでしょう。しかし、子どもは小さなウソをたくさんついてしまうものだと知っておくことも大切なのではないでしょうか。

子どものウソを助長させるようなことはしたくないでしょう。「大人は騙しやすい」と思われることも多くの親は望んでいないはずです。しかし、些細なことにも疑いの目を向け、子どもに「自分は親から信頼されていないのだ」という意識を植え付けてしまいかねないということにも慎重になるべきです。

ウソをつくことも、正直に話すことも、トレーニングが必要なのです。正直はよしとし、ウソはすべてダメと言って、ウソを使えない人に育ててしまうのではなく、よいウソと悪いウソ、そしてまた誤解を受ける正直さ、常に正直であることのリスクについても教え、それぞれ学んでいく必要があるのではないでしょうか。

子どものウソを受け入れる

「どんな人でもウソをついてしまうことがある。大事なことは、そのウソに他人を思いやる気持ちがあるかどうかだ」などと、ウソの存在を認めつつ、絶対に守るべきポイントを伝えるのもよいでしょう。

そして子どもがウソをついたときには「何のためにウソをついているのか」、その背景を想像してあげてほしいと思います。褒められたいだけなのか、叱られるのが恐ろしいのか、自分のプライドを守りたいのか、想像してあげることで子ども理解にもつながるでしょう。

どうしても指導しなくてはいけないときもあるでしょう。けれども「ウソをつくのは許さない!」「なぜウソをつく!」と、何度叱っても子どもの心には響かないことを自覚しておくべきです。

「ウソをつくことであなたは損をしてしまうんだよ。それが私にとっても悲しいことなんだよ」
「ママはあなたがウソをつくと困ってしまう。本当にあなたが困ったときに助けてあげられないから」
「小さいウソのうちならママが助けてあげられるから、なるべく小さなウソのうちに言ってね」
「先生は君から信頼されていると思っていたけれど、そうではなかったんだね。悲しいよ」
と自分の気持ちをベースにしながら、正直であるほうがメリットになるということを、その理由も含めて教えてあげるとよいのではないでしょうか。

また、「この皿を割ったのは誰だ! 正直に言いなさい」と責めるより、「こんなところにお皿を置いていた私が悪いよね。これじゃあすぐに落ちて割れてしまうのもしょうがない。あ、これを落としたのはあなた? 大丈夫? けがは?」と言われたほうが、子どもは「ごめんなさい。お皿を割ったのはぼくです」と正直に名乗り出る確率は高くなるでしょう。

ウソを罰するよりも、理解し、ともに考える

ウソを暴き責めるよりも、受け入れる姿勢を見せることで、子どもは正直である自分を表現しやすくなり、それを大人が褒めてあげることで、「誠実であること」の意義も体感してもらうことができるはずです。

ウソを強引に暴き、罰しても、子どもにとってはもっと上手なウソをつこうとするためのトレーニングになってしまうでしょう。また、自分がウソつきであることを証明させても倫理教育になりません。

「正直に言ったら許します」と言って、犯人捜しをするような指導は学校でも避けるべきです。正直に告白し、先生からたとえ許されたとしても「クラスみんなの前で晒し者になった」という子どもの心の傷は消えません。罰を与えるのではなく理解を示し、誠実であるにはどうすればよいのかを、一緒に考えてあげるほうが効果的な指導になることもあるでしょう。

以上『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』より抜粋

ウソとの上手な付き合い方を知る

「ウソをつかずに生きていくことは難しい、と言うより不可能」と中野さんは言います。人間社会の円満な共同体性を維持するにはウソやフェイクが必要な面もあるとのこと。

とはいえ、悪意のあるウソに騙されたり、デマに脅されない親と子でいるためには、ウソの効用のほか、人が騙される心理メカニズムについても学び、人間社会への洞察を深める必要がありますね。

自分と子どもを守るために「ウソをつくこと」「騙されないようにすること」について、あらためて考えてみる必要がありそうです。

 

中野信子小学館880円(税込)

フェイクニュース、マルチ商法、振り込め詐欺・・・日常生活において、ウソやニセにまつわる事件やエピソードは数知れず。「私は騙されない」と信じていても、気付いてみたら、相手の術中に陥ってしまうのは、なぜでしょうか?  平気でウソやニセを仕掛けてくる人たちの脳内メカニズムから、騙されやすい人たちがウソやニセに振り回されずに生き抜く知恵まで、脳科学的観点から分析、考察する1冊。

著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『ヒトは「いじめ」をやめられない』『キレる!』『”嫌いっ”の運用』(以上、小学館)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』(講談社)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

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構成/HugKum編集部

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