脳科学者・中野信子さんに訊く【子どもの褒め方】結果だけを褒めるのはNG!

最新刊『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』で、「ウソ」「騙されること」のメカニズムと社会的役割について論じた脳科学者の中野信子さんが、その著書のなかで「生産的ウソの効用・活用法」について触れています。それによると、子育てにも応用したい効果があって…。
今回は「子どもの褒め方・伸ばし方」について、脳科学の見地から興味深いお話をうかがいます。

「ホーソン効果」とは

人は褒められたり、期待されたりすると、その期待に応えるために頑張りたいという気持ちになるものです。特別扱いをされたり、注目度が高くなったりすると、意欲的になり好結果につながることがあります。

「相手の期待に応えたい」という気持ちから生み出され、行動が変わり、よい結果を生み出す現象を「ホーソン効果」と言います。

このホーソンとは、ハーバード大学が実験を行った工場の名前です。そもそもは「どのような作業条件によって生産能率を高められるのか」を調査するための実験だったのですが、物理的な作業条件よりも、実験に参加した人たちが、「自分たちは注目されている」「自分は期待されている」と意識するようになったことによって生産性が向上したとも言われています。

モチベーションを引き出したいときには、たとえウソでも、「注目されている」「他人から見られている」という環境をつくりだすことが効果的な場合と言えるでしょう。

「ピグマリオン」効果とは

アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールが報告した「ピグマリオン効果」は議論が分かれていて、検証が必要なのですが、教師によって期待をかけられたり、注目されると子どもの意欲が高まり、学力向上につながるとされています。

この実験では、まず小学生のクラス全員に知能テストを受けさせました。そしてテストの後に学級担任に今後成長が期待できそうな子のリストを見せたのです。しかし、実はそれはでたらめで、無作為に選んだ児童のリストでした。しかし、その後のテストでは、無作為に選ばれたはずの児童の成績が向上したのです。

この実験報告では、ウソでも「あの子が伸びますよ」と言われた先生がそのことを信じ、期待をかけたことによって、実際に児童の成長が促されたと主張されています。

そして期待感は本人に伝えても効果があると考えられます。ただしそのとき注意したいのは、「頭がいいね」ではなく、「期待しているよ」「君ならできるよ」と伝えること。もしくは「よく頑張ってるね」と伝えること。

「頭がいいね」と言われた子は、「頭がいい」という評価を失いたくないために、失敗を恐れて確実に成功できるタスクばかりを選択するようになる可能性があるからです。

褒め方には注意が必要

このことを証明する実験があります。

1990年の終わりに、コロンビア大学で次のような研究が行われました。人種や社会経済的地位の違う10歳から12歳までの子どもたち約400人を対象に知能テストを受けさせ、実際の成績は隠し、個別に「あなたの成績は100点中80点だ」と全員に伝えたのです。そして子どもたちを3つのグループに分け、それぞれ次のように伝えました。

●グループ1 「本当に頭がいいんだね」と褒める。
●グループ2 「努力のかいがあったね」と褒める。
●グループ3 何のコメントもしない。

続いて、子どもたちに、誰でも解けるようなやさしい問題と難しい問題のどちらかを選んで取り組ませました。

するとやさしい問題を選んだ子の割合は次のようになりました。

●グループ1 「本当に頭がいいんだね」と褒める➠65%
●グループ2 「努力のかいがあったね」と褒める➠10%
●グループ3 何のコメントもしない➠45%

この実験のポイントは、各グループの子どもたちが、やさしい問題と難しい問題のどちらを選ぶのかです。

驚くことに、「本当に頭がいいんだね」と褒められたグループ1の子どもたちは、難しい問題を避け、やさしい問題を選ぶ割合が高かったのです。

さらに、別の難問に取り組ませ、自分の成績を自己申告で、みんなの前で発表させたところ、グループ1の子どもたちの約40%が、本当の自分の成績よりも高い点数を発表しました。つまりウソをついたということです。事実は、グループ1の成績は、他のグループより悪かったのです。

全体を通してグループ2の子どもたちは、難しい問題を面白がって取り組み、最後の課題ではどのグループよりも多くの問題を解きました。

この研究結果では、「頭がいいね」と褒められた子どもは萎縮してしまい、挑戦する意欲を失い、さらには失敗を隠そうとウソをつく傾向が高いことが示されています。

そして研究チームは、褒め方には注意が必要であり、結果だけを褒めるのではなく、チャレンジする姿勢、工夫に対して評価することが、失敗を恐れない心を育て、その子の能力を伸ばすと結論づけています。

以上『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』より一部抜粋

ほかにも「プラシーボ効果」「ラベリング効果」など

ここまで中野信子さんの著書から、子どもの褒め方のヒントをいただきましたが、ほかにも「プラシーボ効果」「ラベリング効果」といった興味深いメカニズムが紹介されています。

偽薬効果とも訳されるプラシーボ効果は、本来なら薬効のないはずの偽薬を飲んでも、患者自身が「この薬は本物であり、効果がある」と信じ込むことで、実際に病気が治ってしまうという現象のこと。

また、「ラベリング効果」とは、その名の通り「ラベルを貼る」こと。自分にとって望ましいラベル(レッテル)を相手に貼ることで、相手の思考や行動がそれに影響されるようになる現象をいいます。

プラシーボ効果もラベリング効果もともに「ウソ」「フェイク」の一形態として、その応用については慎重な態度が望まれますが、「褒めて伸ばす子育て」について考える際の重要な補助線になりそうです。

中野さんの近著『フェイク ウソ、ニセに惑わされる人たちへ』では、社会に蔓延する「ウソ」から身を守る方法のほか、上記で紹介したような「ウソも方便」「ホワイト・ライ」の効用についても論じられていて、身近な人間関係や親子関係について考察するきっかけにもなりそうですよ。

 

中野信子小学館880円(税込)

フェイクニュース、マルチ商法、振り込め詐欺・・・日常生活において、ウソやニセにまつわる事件やエピソードは数知れず。「私は騙されない」と信じていても、気付いてみたら、相手の術中に陥ってしまうのは、なぜでしょうか?  平気でウソやニセを仕掛けてくる人たちの脳内メカニズムから、騙されやすい人たちがウソやニセに振り回されずに生き抜く知恵まで、脳科学的観点から分析、考察する1冊。

著者:中野信子(なかの・のぶこ)

1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピンに博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。現在、東日本国際大学教授。著書に『ヒトは「いじめ」をやめられない』『キレる!』『”嫌いっ”の運用』(以上、小学館)、『人は、なぜ他人を許せないのか?』(アスコム)、『空気を読む脳』(講談社)など多数。また、テレビコメンテーターとしても活躍中。

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構成/HugKum編集部

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