チックは様子を見ていたら自然と治るの?
5人~10人に1人の割合で見られるという、子どものチック。
自然になくなっていく子も多く、小児科を受診すると「しばらく様子を見ましょう」と言われるケースも。
しかし、毎日子どもと接しているママやパパは、どのくらい様子をみていたらよいのか、どのように見守るのが正解なのか、不安になることもありますよね。今回は、瀬川記念小児神経学クリニック院長で、小児神経学の第一人者である星野恭子先生にお話しをお聞きしました。
お話を伺ったのは…
チックで小児科を受診すると、様子をみるように言われますが、どのくらいの期間見守ったら良いのでしょうか。
星野先生「チックにもいろいろなタイプがあります。少し咳払いをするくらいで生活上困っていないのであれば、様子をみても良いでしょう。
しかし、学校でも症状が出て困っていたり、親として『本当にこのまま生活していいのだろうか』と不安に思ったら、何カ月も様子をみる必要はありません。専門の病院を受診してみてください」
重症なチック「トゥレット症候群」とは
重症なチックを「トゥレット症候群」と呼ぶそうです。
トゥレット症候群とはどんなものでしょうか。
星野先生「チックのタイプには、運動チックと音声チックの2種類があり、それぞれ単純チックと複雑チックに分かれています。
●運動チック
【単純運動チック】まばたき、顔をしかめる、肩をピクピク動かすなど
【複雑運動チック】蹴るような動作をする、ジャンプをする、ものを叩くなど
●音声チック
【単純音声チック】「アッ」など声を出す、咳払いをする、鼻を鳴らすなど
【複雑音声チック】ほかの人が言ったことを繰り返す、その場にふさわしくないことを突然言うなど
音声チックと運動チックの両方が1年以上続いている場合、トゥレット症候群と診断されます。ただ、単純で軽くてもトゥレット症候群の場合もありますので、トゥレット症候群であるかどうかにこだわらなくても良いかもしれません。
それよりも、合併症があるかどうかに目を向ける必要があります」
チックの背景にある、合併症とはどんなものでしょうか。
星野先生「年齢が上がってくると、複雑チックを発症することがあります。言ってはいけないような『汚言』を口にしたり、自分を叩いてしまったり、突然しゃがんだりと、より複雑な症状が見られます。
このような場合、チックだけでなく、注意欠陥多動性障害や強迫性障害、不安症、睡眠の問題など、合併症が隠れていることがあります。合併症がある場合は、チックだけでなくそちらの治療も合わせて行っていくことが大切です」
チックの子を見守る親のすべきことは
チックの子を見守る親御さんは、精神的に追い込まれる方も多いのではと推測します。
親御さんへは、どのようなアドバイスをされていますか?
星野先生「チックの症状の一つとして、叫び続けてしまう症状が出るなど、大変な症状を持つ患者さんの親御さんもいらっしゃいます。お子さんがリラックスできる環境づくりも大切ですが、何よりも保護者の方がニコニコしていることが大事。とは言え、ニコニコするのが難しいときもありますよね。しかし『うるさいから、なんとかして』とは言わないでいただきたいと思います。
チックの治療として、自分でチックを制御する行動療法があります(記事下で説明)。その原動力となるのが、保護者の方の『治療があるから頑張ろう!』と励ます声を掛け。親御さんの気持ちで、子どもも頑張ろうと思えます。
お子さんと心を合わせて、治療をしていけると良いですよね」
同じ悩みを持つ方とのつながりを持てる場所へ相談しても
星野先生「つらいときは、同じ悩みを持つ方とのつながりを持てる場所もあります。NPO法人日本トゥレット協会は、トゥレット症候群の患者・家族・支援者からなる団体。こちらでは「ピア・サポート・ライン」という、チック・トゥレット症について理解のあるピア(仲間)に、日常で抱える悩みや困りごとを話せる電話相談があります。
また、トゥレット症候群・チック症当事者とその家族のQOL向上、当事者の自立支援を目的として設立されたNPOトゥレット当事者会もあります。サイトでは、医療情報や、イベントの情報などを確認できるようです」
チックの治療法とは?
チックの治療についてもお話を伺いました。
チックの治療にはどんなものがあるのでしょうか。
星野先生「チックがなぜ起こるのかというと、本人がムズムズする感覚や、やりたくなってしまう感覚があり、それを払拭するためにしているようです。
そのため、本人の意思と無関係に行う“不随意運動”の要素は強いですが、自分で動かしている“随意運動”の要素もあると考えています。すなわち、言い換えれば、本人が制御して治すことができるということです。
ここに着目した治療法のひとつに『包括的行動的介入 CBIT(Comprehensive Behavioral Intervention for Tics)』というものがあります。自分がムズムズしているときの感覚を、呼吸法を取り入れながら別の運動に変換する治療法です。当院では、ムズムズする感覚が強くなったとき、5~6分呼吸をして、ムズムズする感覚を下げていくよう指導しています。CBITについては、一般社団法人日本CBIT療法協会のサイトで詳しくご覧いただけます。
2つ目の治療法は『鼻呼吸法』です。深呼吸をするのはとても大事。ムズムズする感覚になったとき、5~6分呼吸をして、ムズムズする感覚を下げていきます。当院で指導をしている鼻呼吸法をご紹介します。
【鼻呼吸法のやり方】
1.しっかり口を閉じる
2.鼻でゆっくり呼吸する(5秒<または3秒>吸う→2秒そのまま→10秒ゆっくり吐く)
3.2分間続ける
4. 1日3回やってみましょう!
参考資料 T. Kaido et al. Journal of Clinical Neuroscience 77 (2020) 67–74
その他、『マインドフルネス(瞑想)』も効果的です。子ども向けにこんな本もありますよ。
子どものためのマインドフルネス
他にも、マウスピース、薬、本当に大変なときは、脳深部刺激という脳外科手術もあります。私達も、次はこの手を使おう、次はこうしよう、と患者さんと一体となって取り組んでいます」
15歳を過ぎたあたりから良くなっていく傾向
筆者は、トゥレット症候群については知っていたものの、今回お話を聞いて、いろいろな治療法があることを初めて知りました。
星野先生いわく、10歳~14歳くらいに、一時的に症状が悪くなってしまう子もいるそうですが、15歳を過ぎたあたりから良くなっていく傾向があるとのこと。改善していくお子さんを何人も見ているとお話しされていました。
高校3年生になって、ようやく教室で授業が受けられるようになったという、とても大変な症状の患者さんも「僕は大学に行きます。自分はトゥレットで大変だったので、そういった子ども達を支える仕事に就きます」と話してくれ、子どもが大人になるってこういうことだ、と実感されたとか。
星野先生は「神経はどんどん発達し、変わっていくので、発達に準じてきちんと治療をすれば大人の脳になっていきます。希望を持って治療にあたってほしいと思います」とインタビューの最後に答えてくださいました。
もしも、お子さんのチックで悩んでいるようであれば、専門医や支援制度などへ相談してみてはいかがでしょうか。
あなたにはこちらもおすすめ
文・構成/寒河江尚子