子どもも楽しめる東京都現代美術館の魅力を深掘り!考える力を育てたいなら、幼い頃からアートに触れよう

美術作品を見て何かを考えるとき、そこには学校のテストのような模範解答はありません。そんな正解のないものに向き合うことには、これからの混沌とした時代を生きるためのヒントがいっぱい。子どもと一緒にアートを楽しむためのおすすめスポットを訪ね、スペシャリストにお話を伺う新連載「子ども×アート」。今回は江東区にある東京都現代美術館にお邪魔しました。

東京都現代美術館が目指したのは子どもにもやさしい美術館

子どもの頃から美術と触れ合うにはどうしたらよいか、と考えたときに真っ先に思い浮かぶのは美術館ではないでしょうか。

美術館は児童から高齢者に至るまで、あらゆる人に開かれた場所です。バリアフリーに配慮した館も多く、意外と子連れで行くハードルは低い方。とはいえ、子どもが騒いだらどうしよう、子ども向けの展示じゃなくて楽しめるのだろうか、と悩みはつきないはず。

そこで、HugKum取材班が子どもと行くのにおすすめの館をピックアップします。

今回は、2019年のリニューアルを経て以前にも増して子どもと行きやすくなった東京都現代美術館(以下、都現美)です。学芸員の鳥居茜さんに子連れ目線のおすすめスポットを教えていただきました。

鳥居さん:「当館のある清澄白河では近年高層マンションができ未就学児がいるファミリー層が増え、隣の木場公園には子どもが大勢遊びに来ています。リニューアルの際、公園に来ている子ども連れの方に美術館の存在を気づいて欲しいと考え、そういった方々にも優しい美術館を目指しました。実際、館内でお子さま連れのお客様を目にする機会が増えました」

まずは無料スペースで日常との違いを感じて

都現美の特徴の一つに、チケットなしで入ることのできるパブリックスペースが充実している点があります。展示室に入らなくても屋外彫刻などを見られます。

鳥居さん:「入館するだけで入館料を求められると思っている方が多いですが、展示室以外のパブリックスペースは無料で楽しむことができます。当館は都内でも屈指の広さがあり、そのゆとりがパブリックスペースの充実につながっています」
子連れで展示室に入ることに気後れしてしまうという方は、美術館に親しむ初めの一歩としてパブリックスペースを利用してみるのがおすすめです。

MAP片手に 子どもと宝さがし!

鳥居さんが都現美を散策する際に、ぜひにとすすめてくださったのが、1階のインフォメーションで配布されている「MOT みつける MAP」。展示室以外のパブリックスペースにある作品がイラスト入りで紹介されています。掲載作品はすべて無料で見られます。

このマップを片手に子どもと宝探し気分で作品を探しているうちに、都現美をすみずみまで回ることができますよ!

水辺を散策しながら作品鑑賞できる穴場

おすすめスポット 水と石のプロムナード

ここは地下一階にある「水と石のプロムナード」と呼ばれるスペース。都現美に従来、訪れていた方でも、この場所を知らなかったという方も多いかもしれません。

探すことから作品鑑賞が始まる

水と石のプロムナードに「MOT みつける MAP」に載っている作品が2つあります。一つ目が、髙田安規子さん、政子さん姉妹の「修復」という作品です。石造りのなんてことのないスペースで、鳥居さんから「このなかのどこかに作品があるので、探してみてください」と声がかかりました。ヒントは「建物の一部が同じ素材で違ったふうに直されています」とのこと。

なかなか見つからず、鳥居さんに「床にある」と最終ヒントを出してもらって、やっと発見しました!

髙田安規子・政子「修復/東京都現代美術館(プロムナード)」2019年

上の写真のスニーカーの先をご覧ください。石畳の欠けてしまった部分が、同じ素材を使いながら、そこにあるべきスケールよりも細かな単位で修復されています。まるで小人が手を加えたかのようです。ほかにも館の敷地内に3箇所「修復」があるので、マップを手にお子さんとぜひ探してみてください。

風景と音を特別なものに変換する装置

水と石のプロムナードにある2つ目の作品が、サウンド・アーティストの鈴木昭男さんによる「道草のすすめ―『点 音(おとだて)』and “no zo mi”」です。耳のようにも足跡のようにも見える形が彫られたプレートの上に立って、そこから見える風景と音を楽しむというもの。

鈴木昭男「道草のすすめ―「点 音(おとだて)」and “no zo mi”」2018~19年

鳥居さん:「普段から音は聞こえていても、意識的に耳を澄ますと聞こえてくる音は変わります。それを風景とともに楽しんでいただくきっかけとして、館内に12箇所プレートが設置されました。」

 

赤ちゃんが泣いてしまったり、子どもが遊びたくなったりしたら中庭もおすすめ!

おすすめスポット 中庭

リニューアル後、中庭に出られるようになりました。このような屋外のスペースは、子どもの機嫌が悪くなったとき遊ばせられますし助かりますね。赤ちゃんにミルクをあげるのにも良さそうです。螺旋階段で上にあがるとカフェ「二階のサンドイッチ」があり、飲み物をテイクアウトしてこの広場で楽しむこともできます。また、下に降りると、さきほどの「水と石のプロムナード」に行けます。

中庭にも「点 音」のプレートがあります。ここでは鈴木昭男さん自身が演奏して作られた音が聞こえてきます。

刺激がいっぱいの珍しい絵本がたくさん

おすすめスポット こどもとしょしつ

地下1階の美術図書室に併設するかたちで「こどもとしょしつ」があります。独立した部屋になっているので子どもが声を出しても安心です。

書棚に目を移すと、一般的な図書館にある児童書とは異なる、現代美術の専門図書室独自のラインナップの本が並んでいます。現代美術に関する子ども向けの図書、都現美が作品を収蔵している作家が手掛けた絵本、子ども向けの企画展の出品作家の絵本など、現代美術や展覧会に親しむきっかけになるような本が集められています。

現代美術作家と絵本の相性は良く、草間彌生さん、横尾忠則さんなど、錚々たるアーティストが絵本を制作していることに驚く方も多いかもしれません。絵本は多くの子どもにとって最初の絵との出会いとなるものですが、この図書室で絵本を読むうちに、知らず知らず現代美術との関わりの一歩も踏み出しているわけです。

離乳食は無料! 発見に満ちた美術館ならではのレストラン

おすすめスポット「100本のスプーン」

地下一階には、子連れに優しいことで人気のファミリーレストラン「100本のスプーン」があります。近所のママの評判になっているようで、平日でもにぎわっているのだとか。平日のみ予約ができますので、確実に入りたい方は予約をするのがベター。また、耳寄りなことに、展示入れ替えのために美術館が休館している期間でもこのレストランは開いています。※営業日、営業時間は「100本のスプーン」WEBサイトでご確認ください。

株式会社スープストックトーキョー

 

キッズチェアの貸し出しも充実。腰が座った赤ちゃんから座れる、ストッケのトリップトラップ(背もたれとガード付き)のほか、もう少し大きくなったお子さんが座る、ストッケのステップスチェアもあるので、年齢に合わせたものを借りることができます。

離乳食が無料!

お出かけの際に頭を悩ませる離乳食。「100本のスプーン」では、離乳食を料理として提供しています。初期、中期、後期と離乳食の進み具合に応じて、3種類のメニューが用意され、なんと無料です。離乳食の持ち込み可能かどうか、なんて考える必要はありませんし、なによりシェフが旬の野菜を使って考えたメニューなので美味しそうなのです。

取材当時は6、7、8月の夏のメニューでした。初期は「トマトのマッシュと10倍がゆ」、中期は「釜揚げしらすとズッキーニのとろみ餡かけがゆ(5倍がゆ)」、後期は「鶏肉とズッキーニのトマトシチュー仕立て(2倍がゆ)」。赤ちゃんも同じレストランの料理が食べられる。本当の意味で、家族全員で楽しめる外食になりますね。

メニューが塗り絵

食事の待ち時間も楽しく過ごせるように、メニューの表紙が塗り絵になっています。スタッフの方にお願いすると色鉛筆を貸してもらえます。塗り絵の内容は店舗ごとに異なるのですが、都現美の表紙はモナリザ風の絵がモチーフです。

絵になる席

株式会社スープストックトーキョー

店内のいくつかの席には、天井に鏡があり自分の食べているシーンが額縁のなかにおさまります。奥のボックス席の壁面には額縁つきのモニターがあり、自分たちが座っている姿がリアルタイムで絵のように映されます。美術館同様、レストランも発見に満ちた場所になるように、という思いがこめられています。

作家気分を味わえるキッズスペース

株式会社スープストックトーキョー

店内には「アトリエ」という名のキッズスペースがあり、下の写真の黒いオブジェにシールを貼って作品制作に参加できます。現在はコロナ禍のため使用を見合わせていますが、今後再開する予定です。

鳥居さん:「お子さま連れの方の中には美術館に敷居の高い印象を持っている人もいると思うのですが、このお店が起点になって美術館に足を運んでくださっています。展覧会をご覧になっているかはわかりませんが、美術館に日常的に足を運んでくださることで、その子達が大きくなったときに展示を見に来る敷居が下がればと思っています」

子連れに嬉しい充実の設備

子連れでお出かけする際に必須となる設備に注目してご紹介していきます。

授乳室は3箇所

授乳室は地下1階に1箇所、1階に2箇所あります。地下の授乳室はこどもとしょしつの近くにあり、男性も入室可です。授乳用の椅子だけでなく給湯器、大人用のトイレ、オムツ交換台、オムツ用のゴミ箱も備えられています。

2室ある1階の授乳室はいずれも女性専用。ミュージアムショップの奥にあります。片方の授乳室は、アーティストのマイケル・リンによるピンクのモザイク装飾が!

ベビーカーでもストレスなく入れるトイレ

館内にはベビーカーでも入れる多目的トイレが7箇所あります。地下2階教育普及棟の講堂近くのトイレやコレクション展示室のトイレなどには、女性用だけでなく男性トイレにもオムツ交換台があります。

都現美にしかない特別仕様のベビーカー

1階エントランスホールのインフォメーションでは、ベビーカーの貸し出しも行なっています。

貸し出しているのは、国内生産にこだわったCURIO(キュリオ)というメーカーのもの。側面には東京都現代美術館の英語の頭文字「MOT」のロゴが刺繍されています。予約はできませんが、空いていたらぜひ借りてみてください。
ここまで子どもと都現美を回る際のおすすめスポットや充実の設備を紹介してきました。

美術館は子どもと過ごすのにおすすめ! 気軽に行ってみよう

最後に、子連れで美術館にいくことをためらっている人にむけて鳥居さんにメッセージをいただきました。

鳥居さん:「美術館は展覧会を見るためだけの場所ではありません。展示室以外にも過ごせる場所がたくさんあります。空間を楽しみに来てもよいですし、さきほどのマップを通じて館内を巡ってみるだけでもいろんな発見があると思います。気軽な気持ちで来てもらえると嬉しいです」

【データ】
東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00〜18:00(展示室入場は〜17:30)
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)
https://www.mot-art-museum.jp

こちらの記事の関連記事

後編では、展示室に足を踏み入れ、子どもと作品鑑賞をする際のポイントをご紹介します。

東京都現代美術館の学芸員に訊く、子どもと作品鑑賞を楽しむヒント!プラスの声掛けで豊かな心を育もう
東京都現代美術館(以下都現美)では、企画展示とMOTコレクション展の、大きく分けて2つの展覧会が開催されています。今回は、約5500点に...

企画協力/中川ちひろ
撮影/黒石あみ
取材・文/藤田麻希
構成/HugKum編集部

編集部おすすめ

関連記事