【男の子の発育】背が伸びる・伸びないの分かれ道「骨端線」ってなあに?【子どもの発育の専門家が解説】

男の子の身長の伸び初めの多くは10歳過ぎ。その後思春期にかけて気をつけたいのが「運動のしすぎ」です。なぜなら、その後の発育に大きく関わる「骨端線」に関係することだからです。「骨端線」とは何か?成長にどう関わるのかを子どもの成長の専門家・小林正子先生に教えていただきます。

身長も体重も、男の子は女の子より伸びがゆっくり

女の子は平均的に9歳を過ぎると身長が伸び始めますが、男の子は女の子に遅れること1年から1年半で身長スパートが始まります。体重スパートは、その半年から1年以内。男性ホルモンであるテストステロンが、筋肉や骨の量を増やすため、この時期に体重もぐんと増えます。

ゆっくり育った方が体は大きくなります。早熟化を早める夜のスマホに注意!

しかしながら昔は、男の子は女の子よりも2年成長が遅いといわれていました。それが、戦後に少しずつ狭まり、今は1年から1年半になってきました。男の子の早熟化が進んでいることのあらわれですが、実はこれはあまりよくありません。早くスパートがくると、早く止まってしまうからです。生まれつき大きな子はスパートも早く大きくなりますが、ゆっくり育ったほうが、将来的には確実に大きくなります。

早熟化の原因の多くは、日常の中のさまざまな刺激です。特に光の刺激は、発育に悪影響を及ぼします。夜間に長時間スマートフォンを使ったり、テレビを見たりといったことは、成長ホルモンの分泌を妨げます。健全な発育のためには、何をおいても「早寝・早起き・朝ごはん」といった正しい生活習慣が大切なのです。

「骨端線」が閉じたらもう背は伸びません!「運動のしすぎ」に要注意

第二次性徴において、男の子は筋肉や骨が発達してきますが、この時期に注意してほしいのが「運動のしすぎ」です。

身長が十分に伸びたあとなら問題ありませんが、身長が伸びていく時期に運動しすぎると骨に負担がかかり、その結果「骨端線」が閉じてしまい、身長の伸びがストップしてしまうからです。

 

骨端線とは、身長が伸びるために細胞分裂する骨の一部分です。子どものうちは、骨と骨の間に隙間があり、骨端線も開いていますが、この部分に過度な負荷をかけると、骨端線は閉じて、大人の骨になってしまいます。一度、骨端線が閉じると、もう身長の伸びは期待できません。

手のひらで確認できる「骨端線」の状態

骨端線が閉じたかどうかというのは、手の平のレントゲンをとればわかります。骨端線が開いていれば、骨と骨の間に隙間があるので、レントゲンで黒く見えますが、閉じてくっついてしまうと隙間が見えなくなります。

赤ちゃんの手の骨はすべてバラバラに分かれていますが、それがくっつくと大人の骨になるということです。一度くっついてしまうと細胞分裂できなくなるので、成長しようがありません。手であろうが足であろうが、骨端線の状態は、すべて手の平ひとつで確認できます。

小学生時代に腕立て伏せをやりすぎて、身長が伸びなくなった子

スケート選手や体操選手は、概して小柄な選手が多いですが、それは小さいころからジャンプなどをして、過度な刺激で骨端線が早く閉じてしまったことが考えられます。背が伸びなくなるからといって、オリンピック級の子の練習を止める必要はありませんが、普通の子がやりすぎるのは要注意。スポーツをさせるときは、成長曲線を描きながら、成長の様子を確認しつつさせてほしいですね。

実際、私の知り合いの男性で、小学生時代に毎日腕立て伏せを200回やって、身長が伸びなかったという人がいます。大人になっても身長は150㎝台で、身長が足りないばかりにパイロットになる夢をあきらめざるを得なかったと話してくれました(本当に身長のせいだったのかどうかはわかりませんが…)。

今、アメリカのメジャーリーグで活躍している大谷翔平選手が193㎝まで身長を伸ばすことができたのも、高校時代の監督が、大谷選手がまだ骨が成長段階にあることを見極めて、1年生の夏までは野手として起用したからだと推察されます。監督は、子どもの成長を踏まえて指導できる、本当に優秀な指導者だと思います。

適度な運動はプラスに働きます。身長が伸びきるまでは全身を動かす運動を

運動のし過ぎは、子どもの身長を伸ばすのにマイナスに働きますが、適度な運動はプラスに働きます。それを見極めるのが「成長曲線」です。

上図は、サッカーをしていた男子の成長曲線です。

この子は小学生の後半から身長の伸びが少し停滞して、クラスメートに抜かされることがありましたが、13歳の手前で身長スパートが開始し、それからはぐんぐん伸びて、以前のパーセンタイルレベルよりも高くなりました。これは運動が発育にプラスになった良い例です。もし、小学生の後半に身長の伸びがとても悪くなってしまったら、その時は運動のしすぎと思って、運動量を考える必要があります。

このように、成長曲線を見ながら運動をしていけば、やり過ぎを防ぎ、運動によって本来の素質を伸ばすことが可能になります。

思春期の発育は、将来の心身のありようを決める非常に大切なものとなります。親も子もこの時期をしっかり自覚して、大切にしていただきたいと思います。

 

教えてくれたのは
女子栄養大学客員教授
小林正子先生

お茶の水女子大学理学部化学科卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
東京大学教育学部助手、国立公衆衛生院(現 国立保健医療科学院)室長を経て、2007年より女子栄養大学教授。2020年より現職。
発育の基礎研究のほか「発育グラフソフト」を開発し、全国の保育園、幼稚園、学校等に無償提供し、成長曲線の活用を促進。発育から子どもの健康を守る重要性を啓発している。著書に『子どもの足はもっと伸びる! 健康でスタイルのよい子が育つ「成長曲線」による新子育てメソッド』(女子栄養大学出版部)、最新刊に『子どもの異変は「成長曲線」でわかる!』(小学館新書)

子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子先生が、子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱する1冊。

著/小林正子|990円(税込)

子どもの異変は、「成長曲線」のグラフに記録することで早期に発見できると、子どもの発育研究に長年携わってきた小林正子氏は語ります。
子どもの健康を守るため、家庭でも「成長曲線」を活用することの重要性を提唱します。

取材・構成/池田純子 イラスト/まる

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