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「そういう時期なんだ」と理解するだけでラクになる
モンテッソーリ教育の中では、0歳から4歳くらいの時期が“運動の敏感期”という時期になります。自分の体を自分が思うように動かしたいという強いエネルギーが出る時期。
今まではハイハイをしていた子が伝い歩きをし始める時期がありますよね。歩くのは誰かが教えたわけではなく、子どもが毎日自分を発達させる中で、転んでも立ち上がることを何度も繰り返し、少しずつに二足歩行ができるようになります。それを支えるのが運動の敏感期というパワーなんです。
親御さんが「食事が進まない」と悩んでいる時の子どもの年齢は、この運動の敏感期に当てはまることが多いです。この時期は、動くことに強いエネルギーが現れるので、「じっとしていて」と言ってもじっとしていられません。食べることが大好きな子は、座ってひたすら食べる子もいますが、食が細かったり、興味がない子は席を立つ姿が多く見られます。
どの子においても「運動の敏感期なんだ」ということを前提として理解してあげたいですね。そうすることで、少しでもできていることを認めてあげることができます。「なんでできるはずなのにできないの?」と感じていると、ちょっと動いただけでも「なんで動くの?」と、できていないことに目が向きやすくなります。今は難しい時期なんだということを大前提として、大人は理解してあげたいと思います。
しかし、運動の敏感期なら食べ歩いていいのか、食事中に席を立って、そのまま放置していていいのかと言ったら決してそれは違います。そこには必ず制限が必要になってきます。具体的にどのようにすればいいかをお話しますね。
解決策① ごはんは、食卓で座ってしか食べられないことを徹底する
食べ歩いている時に絶対におさえておきたいのは、ごはんを食べる時は食卓で座って食べることを徹底するということです。つまり、子どもが遊びに行っている場所に追いかけて行って、食べさせたり、立ったままで食べさせたりしないということです。
「遊びたい!」「歩きたい!」と思っている子どもを追いかけて食べさせるのは、どこに行っても、遊んでいても、食べることは自動的に誰かがやってくれると、「遊びながらごはんを食べることができた、ラッキー!」ということを学びます
NG
子ども(食事中に席を立って遊び始めた)
親(遊んでいるところにおいかけて行ってごはんを食べさせる)「食べようね」
↓
OK
子ども(食事中に席を立って遊び始めた)
親(遊んでいる子どものところに行って)「今は食事の時間だからおもちゃは置いておこうね。じゃあお席に戻ろうか」
(席に座らせてから食事を再開)
ごはんを食べる時は、必ず座って食卓で食べることを一貫することが大事! 少し根気がいることですが、長い目で見た時に絶対に楽ですし、食事のマナーなどを身に着けるうえで、この行動が助けになっていきます。
解決策② 子どもを呼び戻す時は呼ぶのではなく近くに行く
遊びに行ってしまった子どもに食卓から「こっち戻っておいでー」という声かけて、それだけで戻るということはとても難しいんです。4歳くらいまでの子どもは、自己コントロール力が未発達で、「ママが呼んでいるから帰ろうかな」と、自分の気持ちをコントロールすることはかなりハード。
NG
親(遊びに行った子どもに対し、食卓から)「こっちに戻って~。ごはん食べよう!」
↓
OK
親(遊びに行った子どもの近くまで行って)「おもちゃには食べ終わるまで待っててもらおうね。ママと手をつないで戻ろうか!次は何食べる?」
食卓に戻ったらどんなことが待っているのか、楽しみを持てるような声かけをし、子どもがわかるように促していくのがおすすめです。食卓に戻ったらOKではなく、「食卓で座って食べる」という一貫性を最後まで持つようにしていきたいですね。
解決策③ 食事の終わりの合図は分かりやすく!
だらだらと長い時間をかけて食べていると、満腹中枢が刺激されてだんだん食べられなくなってきます。その場合、ひとかたまりになっているものを小分けにして、『あと3回』『最後のひと口』のように、終わりが見えるように、最後のキリを子どもにわかるように示します。
NG
子ども「もう食べない」
親「全部食べなさい」
↓
OK
子ども「もう食べない」
親「おなかがいっぱいなのね。じゃあ、最後にひと口を食べたら、一緒にごちそうさまをしようか?」
『ごちそうさまをしたら席を立てるんだ』と、子どもが認識できるように、『ごちそうさま』を合図にするのもいいですね。
解決策④ ごはんもおやつも食卓で食べる
食事はテーブルで食べているけど、おやつはリビングなど別の場所で食べているとなると、子どもにとってはその場所も食べていい場所ということになります。なので、おやつであろうと、食事であろうと食べる場所を一つの場所に固定するのがおすすめ。
NG
子ども(テレビの前に座っておやつを食べている)
親(何も言わない)
↓
OK
子ども(テレビの前に座っておやつを食べている)
親(子どもの近くに行って)「ここは食べる場所ではないから、あっちのテーブルで食べようか?牛乳も飲む?」
大人にとっては、食事はテーブル、おやつはリビングと区別をつけているけど、子どもにとってはそれは理解できません。おやつをテーブル以外の場所で食べたという経験から、ごはんもその場所で食べるようになってしまいます。
解決策⑤ 子どもが食事に集中できる環境を作る
子どもの座っているいすが子どもの背丈に合っているということも大事なポイント。座っている時に台や床に足がくっつかなくて、ブラブラしていると落ち着かないので、ハイチェアであっても台や床に足がつく高さに調整してあげましょう。ベルトをする、少し重めのいすにするなど、子どもが自分で抜け出せないような工夫を物理的にするのもおすすめです。
また、テレビがついている、子どもが座っている場所から遊び場が見えやすいなども、食事に集中できない原因になります。食べている時はテレビを消す、子どもが座る場所はおもちゃを背にする、遊ぶスペースに布などをかけて隠す、子どもの注意が食事に向くように環境を整えてあげるといいでしょう。
すぐには変化がなくても、日々できていることを認めて!
以上のことを意識したからと言って、すぐに変わることではないし、ムラもまだまだあると思います。なかなか変化も見られないことですが、長い目で見て、子どもができていることを認めてあげられるといいですね。少しの時間でも座って食べていたら、「今日は座って食べているね」と声をかけてあげてください。
できていないことよりも、できていることに目を向けてみましょう。
記事監修
モンテッソーリ教師あきえ
幼い頃から夢見た保育職に期待が溢れる思いとは裏腹に、現実は「大人主導」の環境で、行事に追われる日々。そのような教育現場に「もっと一人ひとりを尊重し、『個』を大切にする教育が必要なのではないか」とショックと疑問を感じる。その後、自身の出産を機に「日本の教育は本当にこのままでよいのか」というさらなる強い疑問を感じ、退職してモンテッソーリ教育を学び、モンテッソーリ教師となる。「子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール Montessori Parents」創設、オンラインコミュニティ”Park”主宰。2021年1月に初著書「モンテッソーリ教育が教えてくれた『信じる』子育て」(すばる舎)、2022年3月に「モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック」(宝島社)を出版。
あきえ先生主宰オンラインスクール「Montessori Parents」
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取材/本間綾