「情けは人の為ならず」の正しい意味を知っている人は5割! 誤用原因とは?

「情けは人の為ならず」の正しい意味を知っていますか? 聞き慣れた言葉ではありますが、実は間違って覚えている方も多いことわざなんです。そこで今回は「情けは人の為ならず」について、言葉の意味から使い方、類語、英語表現まで徹底解説します!

「情けは人の為ならず」とは?

「情けは人の為ならず」を、「人に情けをかけるのは、その人のためにはならない」という意味だと思っていませんか? 実は、これは間違った解釈なんです。

まずは、「情けは人の為ならず」の正しい意味や、なぜ誤用されてしまっているのかについて解説していきます。

意味

「情けは人の為ならず」の意味は、「人にかけた情けは自分に戻ってくる」。人を助けたり、親切にしたりしたことは、巡り巡って自分のもとに返ってくるというポジティブな意味合いを持つことわざです。

しかし、文化庁が行った「国語に関する世論調査」(平成22年度)によると、なんと約50%の人が、「人に情けをかけることはその人のためにならない」という誤った意味で覚えてしまっていることがわかりました。

なぜ誤用されてしまっているのか、理由として挙げられるのは「ためならず」という表現の解釈が誤っているからとされています。

「情けは人の為ならず」で使われている「ならず」は古語で、断定を意味する「〜なり(=である)」と、打ち消しを意味する「ず(=ない)」で成り立っています。そしてこの場合の「ならず」は「人」のためでないという意味にになり、つまりは「自分のためである」となるのです。

また、「情け」という言葉が、昔の解釈と若干異なる点も誤用の原因に考えられます。もともと「情け」とは、思いやりや人情、おもむき、風流心という意味。しかし現代では、同情という意味合いで使われることが多く、「同情してもその人のためにはならない」という解釈になってしまいがち。

本来の「情け」の意味を考えると、「人への思いやりは、結果的に自分のもとに返ってくること」をあらわすということが理解できますね。

由来・語源

「情けは人の為ならず」の由来ははっきりしていません。しかし、「情けは人の為ならず」という言葉が初めて登場したのが軍記物語『曽我物語』であるらしいことから、鎌倉時代〜室町時代にさかのぼるとされています。そのほか、「情けは人のためならず。巡り巡って己がため」という言葉のほうが先に登場しており、これを語源とする説もあります。

また、新渡戸稲造が執筆した『一日一言』という詩が語源であるとする説も。ちなみにこの詩では、「情けは人のためではなく自分にかけるものであること」、「人のためにした良い行いは忘れても、人からの恩は忘れるな」ということを伝えています。

使い方を例文でチェック!

「情けは人の為ならず」の正しい意味がわかったところで、実際にどのように使えばいいのか、例文をまじえながら解説していきます。「情けは人の為ならず」は、基本的には人へのアドバイスや教訓として使われることが多いことわざです。

1:情けは人の為ならずと言うから、困っている人がいたら助けるようにしてね。

「情けは人の為ならず」は、人へのアドバイスや、子どもに伝えたい教訓として使うことができます。この例文では、「人に親切にしたことは巡り巡って自分のもとに返ってくるから、常日頃から人に親切にしておこう」ということを伝えています。

2:情けは人の為ならず。新人さんを積極的にフォローしよう。

人への呼びかけはもちろん、「情けは人の為ならず」は自分に対して使うことも可能です。例えば、人を助けるのを躊躇してしまうときなどに、自分の行動を後押しする意味を込めて使ってみましょう。

3:人に助けてもらうことが多いのは、「情けは人の為ならず」を心がけているからかもしれない。

例文1と例文2は、人に親切にする前に使う表現でした。しかしこの例文は、良い行いを実行した後、「情けは人の為ならず」の意味を実感したときに使える表現です。

類語や言い換え表現は?

「情けは人の為ならず」の類義語には、「善因善果」や「因果応報」などがあります。少し難しい表現ですが、意味はシンプルです。それぞれの意味をしっかりチェックしてみてくださいね。

1:善因善果

仏教語である「善因善果」。読み方は「ぜんいんぜんか」で、意味は、「良いことをしていれば、いずれ良いことが起きる」です。

「善因善果」は「結果的に良い報いがある」という意味ですので、基本的にはポジティブな意味合いを含みます。「情けは人の為ならず」も、「人のためにしたことは自分に返ってくる」という前向きな言葉ですので、言い換え表現としてぴったりですね。

2:因果応報

「因果応報」とは「いんがおうほう」と読みます。意味は、「悪い行いをすれば悪いことが起き、良い行いをすれば良いことが起こる」です。こちらも「善因善果」と同じく仏教語で、前世や過去の行動の報いは、結果的に自分で受けるという意味になります。

良いことだけではなく、悪いことに対しても言えるため、ポジティブな意味合いとしても、ネガティブな意味合いとしても使えるのがポイントです。

対義語は?

続いて、「情けは人の為ならず」と反対の意味を持つ言葉を2つ紹介します。

自分の行いが自分に戻ってくることを「ブーメラン」と言ったりもしますが…

1:悪因悪果

「悪因悪果」は、漢字を見てわかる通り、「善因善果」の反対の言葉。読み方は「あくいんあっか」で、意味は「悪いことをしていれば、いずれ悪いことが起きる」です。

「良い行いをしていれば良い報いがある」という意味の「情けは人の為ならず」とは、まさに反対の言葉ですね。

2:身から出た錆

「身から出た錆」は、「みからでたさび」と読みます。言葉の意味は、「自分がした悪い行いがもとになって、後で苦しい思いをすること」。

「身」とは、身体のことではなく刀身のことをさします。刀身は錆びやすく、丁寧に手入れをしていないと、いざというときに使い物にならなくなってしまうことから、このことわざができたそうです。

英語表現は?

ことわざ「情けは人の為ならず」の英語表現には、「A good turn deserves another.」があります。「good turn」は、「親切」「好意」、「deserve」は「〜を受けるに値する」、「another」は「もう一つの」という意味。直訳すると「一つの親切は、別の親切を受けるに値する」という意味になります。つまり、「人のために良いことをしたら、自分も良い報いを受けられる」という意味の、「情けは人の為ならず」をあらわすのです。

最後に

「情けは人の為ならず」の正しい意味は理解できましたか? 「情けは人の為ならず」ということわざは、良い行いを促すため、子どもにも伝えておきたい教訓です。勘違いして覚えていた方も、これを機会に「情けは人の為ならず」を正しく使えるようになりましょう。

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構成・文/結野雅美(京都メディアライン)

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