「見えない」に触れる。全盲のアーティストによる美術展「GOING OVER -まちの肌理(きめ)にふれる」で子どもと渋谷でアート体験!

美術館の展示といえば、静かに鑑賞し「見る」だけというが一般的ですが、全盲の作家による作品に「触れる」ことができるアートイベントが渋谷で開催中です!しかも、滞在制作と一般公開が交互の現在進行形で観客参加型の展示もあり、作品を体験しながら制作にも関われるユニークな美術展。芸術に触れながらダイバーシティー(多様性)についても親子で考えるきっかけにもなります。子連れファミリーにぴったり、五感を刺激する見るだけでは終わらない楽しい美術展に行ってみませんか?9月25日までの開催で、しかも無料!夏休み最後の週のお出かけ先にもオススメです♪

触れるアート展!?

「触れるアート展がある!?」と聞いて、渋谷で開催されている全盲のアーティストの光島貴之さんによる展示「GOING OVER -まちの肌理(きめ)にふれる」にいってきました。

美術展というと、未就学児のいる我が家にとってはハードルが高く、静かに鑑賞しなくてはいけない環境はまだ難しく、なかなか子ども達と訪れる機会がありません。「触れるアート」、しかも全盲のアーティストさんの作品ということで、「どんな作品なんだろう?」、「どうやって制作するのだろう?」と行く前からワクワク。これまでの美術鑑賞とは全く違う体験をご紹介したいと思います!

アート展までの道のりもアート

渋谷駅からスクランブル交差点を渡り、街の喧騒の中を歩くこと10分ほど。全盲の作家の光島貴之さんによる展示「GOING OVER -まちの肌理(きめ)にふれる」が開催されている「東京都渋谷公園通りギャラリー」は、渋谷の賑やかな通りに面した展示場で、ガラス張りで外からも制作の様子が伺えます。

展示室に入るとすぐに壁いっぱいの作品が目に入ります。訪れた人が自由に制作できる体験型のアート作品です。

渋谷までの道のりからアート展は始まっているという感じで、渋谷の街の喧騒を表しているかのような、楽しい作品が出来つつあります。

「GOING OVER -まちの肌理(きめ)にふれる」は、作家の滞在制作と一般公開が交互に行われ、観客参加型の展示もあり、作品を体験しながら制作にも関われるユニークなアートイベントです。

触って楽しめる作品がたくさん!

今回は、取材で特別に製作中の現場にお伺いさせて頂きました。展示室に入ると光島貴之さん(写真中央)とアシスタントさん方が出迎えてくださり、さっそく、息子は作品に興味津々。初めての場所は緊張して、普段はあまり積極的ではない方なのですが、今回は、自分から触ったり、床に置いてある展示物を踏んだり、いろいろと体感していたようです。

足で踏んで良い作品も

下の写真は光島さんの造形の一つで、触るだけではなく、足で踏んでも良い作品。ペットボトルのフタが点字になっていて、上のオレンジ色のフタと白色のフタで「えひめ」、下が「ふめふめ」となっていて遊び心が満載です。みかんをイメージして、オレンジ色のフタとポンジュースのフタを集めたそうです。

参加型の作品も楽しい!

参加型の造形作品のワークスペースには、作業台の上にハサミなどの道具が用意されており、カッティングシートやラインテープ、釘などの様々な素材を使って自由に作品を壁に加えることができます。

中には複雑な造形もありました。下の写真の作品は誰かが黄色の丸の形を作り、別の人が、周りに黄色の模様を作ったそうで、模様は数時間かけた力作だそうです。

ハサミの使えない小さなお子さんでもシールを貼ったり、楽しむことができます。

光島貴之さんに「見えない」を「聞く」

光島貴之さん

アートの原点の渋谷

「まち」がテーマの今回の展示会ですが、「渋谷」という街との関わりを光島さんに伺ってみました。

渋谷には、「松濤美術館」の近くに「ギャラリーTOM」という視覚障害のある方も触れてアートを楽しめる美術館があり、光島さんはよく渋谷を訪れたことがあったそうです。初めは知人の案内で、道順に慣れてからは一人で訪れるように。スクランブル交差点を抜け、109の前を通り、大通りの喧騒を抜けて、突然静かな松濤の住宅街に入る道のりが好きだったそうです。

そして、「ギャラリーTOM」での美術品に触れることができるという体験が、光島さんの原点になり、今の作家活動につながったそうです。渋谷は光島さんにとっても、大変思い入れのある街であるということが伺えました。

一人からチームに

初めは一人で作品を作っていたという光島さん。視覚障害があるからこそ、自分一人で出来なくてはならない。人に手伝ってもらうことに抵抗や後ろめたさがあり、制作当初は、一人で抱え込んでいたことが多かったとのことです。自分の作品に他人の手が加わることに対しての作品としての価値に悩んだこともあったそうです。

でも、次第にアートは対話であることに気がつき、チームで制作するという面白さに目覚めました。

一人での制作は限界がありましたが、人の手を借りることで、作品の規模も広がり、素材も増え、さらに観客を巻き込んでの今のアートの体系になったとのことです。一人で制作していた時とは違う、交流という楽しさがあると語ってくれました。

制作の様子

光島さんは、10歳の頃に完全に失明し、色の記憶はその頃のものだそうです。失明前にぼんやりと見えた色の記憶をたどり、アシスタントさんに指示を出し、造形物を作り上げていきます。ガラスにカラーのテープを貼っていく作品は、紐状の触ると凹凸のあるテープで形を作り、その線に沿って切り取っていきます。

渋谷の「まち」の中でも特に渋谷川周辺の変わり方に興味があり、造作にも反映していて、ガラスの下の水色は渋谷川を表したものなのだそうです。(写真下)

木製の作品には下地を書いて、アシスタントさんの力を借りながら、釘を打ったり、素材を選んでいくそうです。

美術館の展示というと完成した作品を鑑賞することが主で、その過程を体験する機会はほとんどありません。芸術家の作品作りというと孤独なイメージがありましたが、チームで協力しながら、作り上げていく楽しそうな様子を見て、アートは特別なものだけではなく、みんなで「シェア」できる身近なものでもあるべきだとも感じました。

そして、「見える」ことが当たり前の私にとって、そうではない人のアートの関わり方をこれまで考えたことがなく、多くのことを気付かされる体験でした。

渋谷という人との繋がりが希薄になりがちな大都会。更に、コロナ禍で一度、心が離れ離れになった今こそ、みんなで作り上げていくという作品の形が更に人を惹きつけ、より魅力的な作品になっていくとも感じました。

見えないに触れるアートを体験してみて

子どもと一緒にアートを通して、ダイバーシティー(多様性)についても考えるきっかけになる展示会でした。

子どもにとっては目が見えない人がいるということを知る初めての体験になり、家庭でも話す機会が増えました。街を歩いていて、点字や点字ブロックに注意を払う様になったり、子どもながらに考えることがたくさんあったと思います。

展示は一つのフロアで大規模なイベントではありません。興味がなければ、素通りしてしまうかもしれません。

でも、それが逆に親しみやすく、アートの敷居をグッと低く、より身近に感じさせるものとなっていると思いました。親の私も学ぶことが多く、夏休みの最後に子どもたちと一緒にとても貴重な体験をさせてもらいました。

渋谷というアクセスも便利な場所で、気軽に来れる無料のイベントです。アート展にわざわざ来ると気負わなくてもふらっと欲しいとギャラリーの担当の方もおしゃっていました。実際、近くで働いている方や買い物ついでに寄ってみるという方も多いそうです。ふらっと来てみたつもりが数時間も制作に没頭する人も多いとか。

家族で楽しめるアートイベントで夏休みの最後の週のお出かけ先にはぴったり。ぜひ、渋谷周辺に来る機会があれば、ご家族で訪れてみて下さいね☆

アーティスト紹介

  • 光島貴之 MITSUSHIMA Takayuki
  • 1954年京都生まれ。ラインテープやカッティングシート、釘、布などを素材としたコラージュによって、主に平面や半立体の絵画作品を制作し、長年、「さわる絵画」や「触覚コラージュ」といった新たな表現手法を探求してきた。国内外での展覧会参加が多数ある他、2020年1月にギャラリー兼自身のアトリエとして「アトリエみつしま」をオープンし、触覚に着目したワークショップの実施やグループ展の企画などを精力的に行っている。
  • 協力:株式会社高尾木材工業所(東京都渋谷公園通りギャラリーの作家プロフィールより抜粋)

アート展情報

  • 光島貴之滞在制作・展示「GOING OVER-まちの肌理にふれる-」
  • 会期:2022年8月9日(火曜日)~ 9月25日
  • 開館時間:11:00-18:00
  • 休館日:月曜日(ただし9月19日は開館)、 9月20日(火曜日)
  • 会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 交流スペース
  • 料金:無料
  • 会場では作品は触ることができますが、作品の性質上、過度な力を加えると壊れてしまうので、 やさしく触れてみてください。

アクセス

東京都渋谷公園通りギャラリー 

〒150-0041 東京都渋谷区神南1-19-8
渋谷区立勤労福祉会館 1F

渋谷駅B1出口より徒歩5分
東急東横線・田園都市線・東京メトロ半蔵門線・副都心線

渋谷駅ハチ公改札口より徒歩8分
JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン
京王井の頭線 ・東京メトロ銀座線

※撮影の為、特別にマスクを取って頂きました。普段の制作中はマスクをし、感染対策をしっかりしながら制作活動を行なっています。

あなたにはこちらもおすすめ

赤ちゃんも歓迎!平塚市美術館学芸員に聞く、親子でアートに親しむ秘訣
「子ども×アート」平塚市美術館 後編 平塚市美術館は、長年にわたり、親子を対象にしたワークショップや鑑賞ツアーに取り組んできた、子...
子どもも楽しめる東京都現代美術館の魅力を深掘り!考える力を育てたいなら、幼い頃からアートに触れよう
東京都現代美術館が目指したのは子どもにもやさしい美術館 子どもの頃から美術と触れ合うにはどうしたらよいか、と考えたときに真っ先に思い浮...

写真・文/Rina Ota

編集部おすすめ

関連記事