「背水の陣」ってどんな状況? 使い方と由来、例文、英語表現までチェック!

「背水の陣」という言葉を聞いたり、使ったことはありますか? 中国の故事からできた語で、今も日常シーンで使われる言葉です。ここでは、その意味と由来、使い方から類語、英語表現までを詳しく紹介。この機会に正しい使い方をマスターしましょう!

「背水の陣」とは?

それでは早速、「背水の陣」の意味や由来を見ていきましょう。

読み方と意味

「背水の陣」は、「はいすいのじん」と読みます。その意味について、辞書では次のように説明されています。

《「史記」淮陰侯伝の、漢の名将韓信が趙(ちょう)の軍と戦ったときに、わざと川を背にして陣をとり、味方に退却できないという決死の覚悟をさせ、敵を破ったという故事から》一歩もひけないような絶体絶命の状況の中で、全力を尽くすことのたとえ。(<小学館 デジタル大辞泉>より)

「背水」は「背中に水がある」つまり、川を背にすること。「後がない」「逃げられない」状況のこと。「陣」とは「兵隊を配置すること」で、戦いの際、相手に勝つために敷かれる兵隊の立ち位置のことです。

敵を迎えるのに川を背にした陣立てをすると、自らを退却できず、逃げ場がない状況にします。まさに、切羽詰まって、一歩も後にはひけないぎりぎりの状態…。覚悟の上で、必死に物事に取り組んで、全力を尽くすしかないわけです。

由来

「背水の陣」の由来となった話は「史記 淮陰侯伝(わいいんこうでん)」にその記録があります。中国・漢の名将、韓信が趙の国の軍隊と戦うことになった際の作戦が由来の言葉。

韓信は兵法の極意として、川を背にした不利な場所に漢軍の陣を敷き、「失敗したらこれで終わり」という極限の状態に兵を置くことで活路を見出し、勝利を収めるのです。

現在でも、成功するかどうかはともかく、もう後がない覚悟を決めて、全力でものごとに取り組む時に用います。

背水の陣の舞台

「背水の陣」の由来となったお話は、中国の秦の時代が終わり、劉邦が漢王朝を打ち立てる前の紀元前204年のこと。「楚」の項羽軍と「漢」の劉邦軍が、一進一退の攻防を繰り広げていた時代のお話です。

劉邦の部下・韓信は、項羽軍の趙を討伐しようと太行山を越え、趙は太行山の東側の要路・井陘口でこれを迎え討とうとしていました。「背水の陣」は、「井陘(いけい)の戦い」としても知られているお話です。

使い方を例文でチェック!

「背水の陣」は、現代でも日常の生活シーンでも使うことができますよ。絶体絶命の状況で「背水の陣を敷く」「背水の陣で臨む」などと言います。では、「背水の陣」の例文を見ていきましょう。

1:エースが欠場した中、野球部のメンバーは最後の試合に「背水の陣」で臨んだ。

「圧倒的に不利な状況」や「絶体絶命の状態」の下で、必死に戦うことを表わした「背水の陣」。チームの勝利に必要なエースがいない状態で、試合をすることになった野球部のメンバーが、最後まで勝つことを諦めないで試合に臨む時の気持ちが伝わります。

2:社長は「背水の陣」を敷いて、わが社の特許技術で新たな業界に参入した。

企業が自社の強みを活かして、異なる業界に新規参入する場合、失敗することは大きなリスク。企業の存続にも関わります。物事の状況を把握して行う重大な決断を、「背水の陣」と表現して実行することも。

3:「背水の陣」で臨めば、きっと良い結果につながる。

「一歩も退くことはできない、追い詰められた立場」で物事に取り組むと、個々の人から思わぬ力が発揮されることが。「一歩も譲れない!」といった強い気持ちで、必死に戦う姿を思い浮かべてみましょう。それが良い結果につながることも…。

4:自分自身で「背水の陣」を敷いて、やる気を取り戻すしかない。

状況に変化がないと、自分に甘くなってしまうことがあります。どうしても、やる気が出ない時は、あえて「背水の陣を敷く」ことで、自らを苦境に立たせる方法をとると良いかもしれません。自分自身を追い込んで、やる気を奮い立たせる様子を指す使い方です。

類語や言い換え表現とは?

「背水の陣」の類語や言い換え表現には、どんな言葉があるのでしょうか? 「背水の陣」における、「どうしようもない状況」に置かれた時の言葉を一つひとつ見てみましょう。

1:緊褌一番

「緊褌一番」は「きんこんいちばん」と読みます。気を引き締めて、十分な覚悟をもって事に当たることを表す言葉。「緊褌一番、打開策に取り組め」などと言います。

2:進退窮まる

「進退窮まる」の読み方は「しんたいきわまる」。物事や立場が行き詰まる時などに使う言葉。追い詰められ、行き着いた先では進むことも退くこともできない状態に。どちらかというと行き場のない葛藤状態そのものをさして使います。

3:目の色を変える

「目の色を変える」は、そのまま「めのいろをかえる」と読みます。目つきを変えること。怒りや驚きなど、何らかのきっかけや感情によって、何かに熱中する時に使います。「目の色を変えて課題に取り組む」など、人の気迫を感じさせる表現。

4:万事休す

「万事休す」は「ばんじきゅうす」として、「もはや施す手段がなく、万策尽きる」時に使う言葉。「もはやおしまい」で「何をしてもだめだ」というニュアンスの言葉なので、後がない状況で諦めの気持ちを強く表していると言えそうです。

5:四面楚歌

「四面楚歌」は「しめんそか」と読みます。意味は「敵に囲まれて孤立し、助けがない」こと。周囲の者が反対者ばかりである時に使います。まさに、追い詰められた状態を表す言葉です。「背水の陣」の戦いの後で、味方が寝返り、敵方に回って項羽が囲まれている場面が元となった故事成語です。

英語表現は?

中国の故事に由来を持つ「背水の陣」ですが、英語で言うには、どのような表現ができるでしょうか? よく似たニュアンスを伝える言葉を一緒に見てみましょう。

1:run out of option

英語で「背水の陣」を表現するなら、「選択の余地がない」という意味を持つ「run out of option」を使うと良いでしょう。日常会話でも、困った状況に対して「これ以上できることはない」「選択がない」という意味でよく使われます。「I’ve run out of options.(もう背水の陣だ)」。

2:burn one’s bridges

「橋を燃やす」として、「もう後に戻れない」ことを意味する英語表現があります。「She will burn his bridges.(彼女は橋を燃やしてしまい、もう後に戻れない)」となります。

3:have one’s back against the wall

英語表現で、人が追い込まれている状態を「back against the wall」と言います。「背中が壁についてしまうほど」に追い込まれている状況をイメージしてください。「She has her back against the wall.」で「彼女は背水の陣を敷いている。」という意味に。

最後に

「もう後がない」「絶体絶命の状況」など、極限まで追い詰められた状態でも、諦めずに勝利を目指すのが「背水の陣」。覚悟を持って物事にあたる決断をした時、この言葉を使うと身が引きしまる思いになります。また、思いがけないことが起きた時、人間の強さを引き出す言葉とも言えそう。知っていると勇気がもらえる言葉ですね。

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構成・文/奈上水香(京都メディアライン)

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