「何度言っても玩具や脱いだ衣服の片付けができません」【保育経験41年・元園長先生の相談室4】

子どもが生まれると、成長に合わせていろいろな悩みが出てきます。健康のことはもちろん、しつけのこと、園生活でのこと、学習についてなど、「どうしたらいいの?」とふと誰かに聞いてみたくなる疑問は尽きません。そんなみんなが感じる育児のお悩みや疑問に、保育経験41年の元園長先生・田苗孝子先生に答えていただきました。ふっと気持ちが軽くなる、そんな先生のお答えをQ&Aでご紹介します。

子どもの健康、しつけ、園生活の悩みをズバリ解決!!

 

年少児の男の子です。何度言っても玩具や脱いだ衣服の片付けができません。ゴミを放るなどの生活習慣も身につきません。注意をするのもくたびれました。どうしたらいいでしょう。(熊本県 O・Kさん)

 

子どものしつけは気長に構えて、繰り返し伝えていくのが基本です

自分の命を守るために危ないことや、社会生活をしていくうえで必要なマナーや生活習慣を子どもにしつけていくのは親の役目です。子どもが自ら積極的にそうした事柄に取り組んでいくことはないからです。また、相談者のお子さんぐらいの年齢では、発育上、認知機能もまだ乏しく、そのときどきのふとした思いで行動をしてしまいがち。どんなお子さんでも、しつけていくのはなかなか大変です。

まずは、「一度の注意でできるようになる」と思わず、気長に構えて、子どもの育ちに合わせて、繰り返ししつけていく覚悟を持って臨みましょう。そうした思いで子どもと向き合えば、お母さんのイライラする思いが和らぐと思います。

内容やTPOによってさまざまな方法で伝えましょう

そのうえで、しつける内容やそのときどきのケースごとに、さまざまな方法で、工夫しながら伝えていくことが重要です。

例えば、命にかかわるような危ないことに対しては、子どもと顔を合わせて、厳しく伝えることが必要です。また、してはいけないことや、しなければならない社会のマナーや生活習慣に関しては、その内容やTPOによって、子どもへのかかわり方を変えていくことが不可欠です。

例えば、人に迷惑をかけたり、社会人として絶対に「してはいけないこと」などは厳しい表情で伝えることが必要ですが、食事のときにをつく、片付けができないなどのように「しなければならないこと」ができなかった場合には、ときにはアイコンタクトや仕草で「ダメだよ」と軽い注意をすることがあってもいいと思うんです。「今度はちゃんとしようね」と言って、子どもと顔を合わせ、励ますことも必要だと思います。いつも厳しく注意してばかりでは、それが当たり前になってしまい、子どもの心に響かなくなるからです。

また、本人にやる気があっても、能力的にうまくできない場合には、親がお手本を見せたり、子どもを援助してあげたりすることも忘れずに行っていただきたいですね。結果より、子どものやる気を認めてあげることが大切だからです。

どんな場合も重要なのは、どうしてその行動が必要なのかを子どもにきちんと説明してあげることです。そして、これまでできなかったことができたときは、それを見逃さずにほめてあげていただきたい。にほめてあげなくてもいいんです。おうちの方がニッコリ笑って「よくできたね」というだけで、子どもは本当にうれしくなって、やる気が高まります。

時間がかかるしつけもありますが、こうして粘り強く注意をしていくことで、徐々にできることが増えていき、やがて親の気持ちを思いやり、「そうだ、やっちゃいけないんだ」と、子どもが自らを律してできるようになるはずです。表面的な行動だけでなく、そうした自律心を育むことが子どもの生きる力に繋がります。幼児期はその土台をつくる大切な時期です。おうちの方は、“子どもの育ちを待つ”姿勢で臨んでいただけたらと思います。

 

回答していただいたのは…

田苗孝子|幼稚園元園長

宝仙学園幼稚園元園長。2007年から2019年3月まで園長を務める。41年間にわたり、保育現場でさまざまな家庭で育つ子どもとその親を見守り続けた、その深い見識には定評がある。豊かな経験を活かして、『幼稚園』(小学館刊)で育児相談コーナーを担当。子育て中のママたちに温かなメッセージを伝えてきた。

構成/山津京子 イラスト/手丸かのこ 『幼稚園』2018年12月号

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