令和の日本型学校教育は「何が変わる?」「何を解決すべき?」Society5.0に向けた教育現場の今を解説

国が「令和の日本型学校教育」を推進していることは知っていても、今までと何がどう違うのかよくわからない人もいるでしょう。そこで社会的背景や課題、主な新しい動きなどをわかりやすく紹介します。国が目指す教育を知り、子育てに生かしましょう。

令和の日本型学校教育とは?

メディアなどで耳にすることもある「令和の日本型学校教育」とはどのようなものなのか、簡単に概要を紹介します。従来の教育との違いについても見ていきましょう。

日本型教育を継承し新時代に対応した教育

令和の日本型学校教育は、従来の教育のよい面を継承しつつ、直面している課題解決のために必要な改革や時代の流れに対応した教育基準のことです。

従来の教育は、教師が生徒の状況を把握した上で指導し、知・徳・体を育むというものでした。日本全国どこに住んでいても質の高い教育を受けられることや、教育水準の向上などにおいて、世界各国から高い評価を得てきました。

一方で解決しなければならない数々の課題や、時代の移り変わりとともに社会の変化に直面しています。そのため、従来の教育の優れた面を継承しつつ、課題解決のための改革や時代に対応する教育が盛り込まれているのです。

参考:
「令和の日本型学校教育」の構築を目指して|文部科学省
「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す|文部科学省

令和の日本型学校教育が望まれる社会背景

令和の日本型学校教育が望まれている理由は、時代の流れや社会背景と密接な関係があります。国がなぜ新しい教育を推し進めているのか見ていきましょう。

「Society5.0」の到来

今後、これまでの情報社会が発展した「Society5.0」の時代が到来することが見込まれています。人工知能(AI)・ビッグデータ・Internet of Things(IoT)・ロボティクスなどの先端技術がさらに高度化し、社会生活やさまざまな産業が劇的に変わると考えられているのです。

同時に、新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけにテレワークや遠隔診療など、オンライン化やデジタル化も進んでいます。それに伴い、オンライン教育が注目を集めるなど、学校教育も変わりつつあります。

社会全体のオンライン化・デジタル化の必要性が高まるなか、ICTの活用は学校教育を支える基盤的なツールとして必要不可欠とされています。ICTは「Information and Communications Technology」の略で、デジタル化された情報の通信技術のことです。日本語では「情報通信技術」と呼ばれています。

予測困難な時代へ

以前から社会の変化が速く予測困難な時代といわれてきましたが、近年の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、予測困難であることが現実味を帯びました。先行きが不透明ななかで、今後の社会状況の変化を見据え、どのように対処していくかが問われているのです。

予測困難な時代だからこそ、目の前の状況から解決しなければならない課題を見つけ、自分で考え、さまざまな立場の人が議論しながら満足のいく解決策を見出す資質や能力が求められています。

その資質や能力を身に付けるために、新しい時代に対応する教育が必要とされているのです。

子どもたちが育むべき資質や能力の育成

Society5.0や予測困難な時代を生き抜くために、必要な資質や能力の育成が求められていることも、新しい教育が望まれている理由です。

具体的には、自分のよい面や可能性を認識できる・他者を尊重できる・多様な人と協動できる・豊かな人生を切り開ける・持続可能な社会を創れるような人物になるといった資質や能力などが挙げられるでしょう。

そのほかにも、文章の意味を正しく理解する読解力や対面のコミュニケーションで人間関係を築く力、物事を成し遂げる力などの重要性も指摘されています。国際的には、自ら率先して目標を設定し、責任のある行動を取れる能力を育むことが大切だと考えられています。

令和の日本型学校教育で解決すべき課題

世界から高い評価を受けている日本の学校教育ですが、さまざまな問題に直面しているのも事実です。具体的にどのような問題があるのでしょうか?  今後解決すべき課題を紹介します。

子どもの多様化への対応

誰もが安心して楽しく通える学校であるために、多様化する子どもたちへの適切な対応が課題です。

例えば、近年は特別支援学級に在籍する生徒が増えています。視覚と聴覚など複数の障害を持つ生徒や、発達障害の可能性がある生徒もいます。特定の分野で秀でた才能がある生徒への対応も議論されている課題の一つです。

日本語のサポートが必要な外国人生徒も増加しています。新たな在留資格が認められたことで、今後さらに外国人生徒が増えることが見込まれています。また、多くの外国人児童が未就学の可能性があることも解決すべき課題です。

また、経済的困窮が理由で教育の機会が奪われ、社会や地域から孤立してしまう子どもや、いじめ・不登校・児童虐待への対応も課題といえます。

学習意欲低下への配慮

文部科学省と厚生労働省の調査によると、近年、生徒の学習意欲が低下していることがわかっています。進学率が約99%と高い高等学校ですが、高校生の学習意欲や学校生活の満足度の低下が目立っているのです。

生徒の多様性を考慮し生徒のニーズに合わせて学習意欲をかき立て、育むべき資質や能力を身に付けさせ、可能性を最大限に伸ばすことも課題の一つです。そのためには、生徒を惹き付ける特色や魅力のある学校にする必要性が求められています。

情報化進展の遅れ

日本では遊びにデジタルデバイスを使用する一方で、学校でのデジタルデバイスの使用が少ない傾向にあり、他国に比べて情報化に対する遅れが見られます。

それに伴い、情報活用能力の遅れも課題です。具体的には、複数の資料などから情報を読み取り活用する能力や、資料の信頼性を見極める能力などを身に付けることが望まれています。

またSociety5.0を見据え、高等学校卒業までに基本的な情報知識を身に付けることを目標に掲げています。しかし、現状では十分に学習できない可能性があることも改善すべき課題です。

少子高齢化や人口減少

急速に進んだ少子高齢化によって、2008年をピークに人口が減少しており、学校制度そのものに影響を与えています。

例えば、文部科学省「令和元年度学校基本調査」では、小学校と中学校が1校ずつしかない市町村は約230団体、公立高等学校が0または1校しかない市町村は約1,080団体もあることがわかっています。そのため、学校教育の維持と質の保障に向けた取り組みが課題です。

また、少子高齢化や人口減少は、学校教員の採用倍率の低下や教師不足にもつながっています。

教師の労働環境の改善

教師の長時間労働もまた近年深刻な問題となっており、早急な労働環境の改善が課題の一つです。2016年度の教員勤務実態調査によると、教師の月の平均時間外勤務は小学校で約59時間、中学校で約81時間とされています。

近年の団塊世代の大量退職・若手の採用により若い教師が増え、経験不足から時間外勤務が増えてしまっていることが原因と考えられています。他には、総授業数や部活動の増加も原因です。

また、公立学校の教員採用倍率の低下も問題視されています。採用者数が増加したことや定年退職者数などさまざまな要因が関係しているといわれています。産休や育休を取る教師が増えたことで、一時的な教師不足が生じることも解決すべき課題です。

令和の日本型学校教育の主なポイント

学校教育で目指すべき方向性を知ることは、家庭での教育や育児にも役立ちます。令和の日本型学校教育の主なポイントを見ていきましょう。

個別最適な学び

これまでも「個に応じた指導」が重視されてきましたが、令和の日本型学校教育ではSociety5.0や予測困難な時代を生き抜くために、一人ひとりの資質や能力を高めることが重要と考えられています。そのため、生徒それぞれに応じた「個別最適な学び」をより重視する必要があるとされています。

個別最適な学びとは、基礎的な知識や技能をしっかり身に付けさせるために、生徒の学習進度や関心を踏まえた上で指導方法や教材を変えたり、個別学習やグループ別学習を取り入れたりする「指導の個別化」を充実させた学びです。

生徒それぞれに応じた学習課題に取り組む機会を提供するなど、「学習の個性化」を充実させていくことも含まれています。

協動的な学び

個別最適な学びによって生徒が孤立してしまうことを避けるために、「協動的な学び」を充実させることも重要だと考えられています。

例えば、体験学習などを通じて生徒同士や地域の人々など多様な人と協動しながら学んでいくことなどです。異なる学校や学年の生徒と交流する機会や、ともに学ぶ機会を設けることも該当します。

また、集団のなかで個性が埋もれてしまわないように、生徒それぞれの可能性や長所を生かし、より充実した学びにつなげることも重視されています。

GIGAスクール構想の実現とICTの活用

個別最適な学びを実現するためには「GIGAスクール構想」の実現とICTの活用が必要不可欠です。GIGAスクール構想では、生徒1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワーク環境を実現することを目指しています。

GIGAスクール構想とICTを活用することで、学習履歴や指導に必要なデータの閲覧などが可能になったり、個性を伸ばす学びの機会を提供できたりします。ICTを効果的に利用できれば、教師の負担を軽減することにもつながるのがメリットです。不登校など支援が必要な生徒のサポートも可能になるでしょう。

また、新たな感染症や災害など、今後起こり得る不測の事態で子どもたちの学習機会が失われないように、日頃から積極的なICTの活用が求められています。

各段階における令和の日本型学校教育

各学校段階における令和の日本型学校教育について紹介します。基本的な考え方やあり方など、目指している教育について見ていきましょう。

幼児教育

幼児教育は、人格形成の基礎や義務教育の基礎を培うことが目的です。集団生活を通して、幼児期に育まれるべき資質や能力を育成するために、質の向上が望まれています。

幼児教育の質の向上のために、教育環境の整備や小学校教育との連携、特別支援教育の充実などが必要とされています。幼児教育を担う人材の確保や、資質・専門性の向上も課題です。

保護者の学習機会や情報の提供、子育て支援の促進など、家庭や地域における支援を充実させることも必要とされています。

義務教育

義務教育では、日本のどの地域で育っても質の高い教育が受けられることを重視しています。義務教育が目指している学びは、これからの時代に必要とされる資質や能力を培うために、ICTを生かした個別最適な学びと協動的学びの実践です。

きめ細やかな指導や教師の負担の軽減を目指し、小学校高学年から教科担任制の導入が一部教科・学校で実施されています。特定分野に秀でた才能のある生徒への指導や、オンライン教育などについても、さらに検討・分析が行われる予定です。

不登校特例校の設置など不登校生徒への対応や、いじめ・虐待に対する方策についても取り組んでいく方針です。

高等学校教育

高等学校教育では、社会的な自立に向けての基盤となる資質や能力を身に付けることを目指しています。そのためには、生徒の学習意欲を引き出し、多様性や能力・興味などに応じた学びを提供することが重要と考えられています。

学校と地域社会が連携し、さまざまな学習プログラムに参加できるなど、高度で探求的な学びの提供も課題です。STEAM教育など実社会での問題解決につながる学びの促進も含まれています。

定時制や通信課程など多様な学習ニーズに応えるために、ICTを効果的に活用し質の保障をすることも課題といえるでしょう。

特別支援教育

特別支援教育では、インクルーシブ教育の理念に基づき、特別支援を受ける生徒の教育の場をより充実させることを目指しています。例えば、就学前の相談・支援、通常の学級や特別支援学級など多様な学びの場の提供、学校施設のバリアフリー化などです。

自立し社会に出ていくことを見据え、生徒それぞれのニーズに応じた指導を提供できるように、教師の専門性の向上にも力を入れていく方針です。また、学校・家庭・関係機関の連携を強化し、支援の充実も目指しています。

未来を担う子どもたちの令和の日本型学校教育

国が推し進めている令和の日本型学校教育は、従来の日本型教育のよい面を継承しつつ、新時代に対応した教育基準のことです。新しい教育が望まれている理由は、Society5.0や予測困難な時代を生き抜くために必要な資質や能力の育成が必要とされているためです。

主なポイントは、個別最適な学び・協同的な学び・GIGAスクール構想とICTの活用になります。子どもが将来、持続可能な社会の創り手になれるように、令和の日本型学校教育の理念を家庭での教育や育児にも役立てましょう。

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構成・文/HugKum編集部

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