消化器官?消化器管?正しいのはどっち?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

正しいのは「消化器官」です

漢字の書き取りの問題です。

「消化きかん」の「きかん」を漢字で書きなさい、と言われたら、みなさんはどう書きますか?

正解は、「器官」です。大丈夫ですか、「器管」だと思っていませんでしたか?

 ちゃんと調査をしたわけではありませんが、「きかん」の誤答率は驚くほど高いのです(個人の感想です)。

なぜ、「官」ではなく「管」だと思ってしまうのでしょうか。おそらく、体の消化をつかさどる部分を管のようなものだと考えて、そう書いてしまうのでしょう。また、血管、リンパ管などと同じだと思う人もいそうです。

「官」と「管」の違いって?

「器官」とは『日本国語大辞典』によれば、以下のように定義されています。

生物体を構成し、一定の形態と生理作用とを営むものの総称

明治時代以降に使われるようになった「器官」

この語が使われるようになったのは比較的新しく、明治時代になってからのようです。しかもその頃の使用例を見ると、「機関」「機官」「器関」などと表記が揺れています。「器官」という表記が一般化するのは、明治末年頃のようです。

ただそれ以降も、寺田寅彦は「機官」(『連句雑俎(れんくざっそ)』1931年)を使っていますし、中島敦は「器官」も使っていますが「器関」(『かめれおん日記』1936年)と表記しているものもあります。どうやら、「器官」という表記が完全に定着するまでにはけっこう時間がかかったようです。

「消化器官」と書くのが正しいワケがある

 

漢字の「官」には、体の特定の働きをつかさどる部分という意味があります。「五官」などといいますが、これは、視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚、触覚の五つを感覚する部分、すなわち、目、耳、鼻、舌、皮膚のことです。

これらは決して「くだ(管)」ではありません。そのようなわけで、「消化器官」が正しいのです。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)が好評発売中。

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