目次
「あの子かわいいね」の言葉から作られる子どもの価値観
ルッキズムとは
日本語では外見至上主義とも呼ばれる「ルッキズム」。
「身体的に魅力的ではないと考えられる人々を差別的に扱うこと」「外見を重視する価値観」のことを指します。
発達段階には危険な価値観を生むことも…
外見は人間関係を構築していく上で多大なる影響を与える要素なのは間違いありませんが、子どもにはまだその価値観はありません。
テレビや本、それを見た時の大人の反応や言語化された価値観にふれた時、「これはいい」「これはだめ」と、さまざまなタッチポイントで構築されていくものです。もちろん、それは100%親が影響を与えているわけではなく、子ども同士の会話からも形作られていくものです。
例えば、身体的に細いか太いか。「細い方が美しい」という概念が子どもの中に出来過ぎてしまうと、発達段階で体を作っていかなくてはいけない時期に、「ダイエットをしなきゃ」とか「食べたらいけないんじゃないか」と考えてしまいます。そんな不必要な知識や価値観で違う方向に走ってしまって、不健康な価値観を作り出してしまうこともあり得るのです。
何気ない発言に潜むルッキズムな価値観
子どもと街を歩いている時やテレビを見ている時、何気なくこのようなことを言うことはありませんか?
「二重で目がぱっちりしていてかわいい」
「あの人は色白で素敵!」
「さすがモデル! 身長が高くてとても細い」
↓
「目は大きくないといけないんだ」
「色白のほうがいいんだ」
「細いことっていいことなんだ」
言われた本人は褒め言葉と感じ、自信がつくという側面があるかもしれませんが、それを聞いている他の子もいます。その他の子に対して、無意識のうちにこのような価値観を与えているかもしれません。
そして、逆に人を否定する「ディスる」と呼ばれる言葉に触れた時。
「見て。あの人、すごい太ってるね」
「気持ち悪い顔してる~」
「なんであんなに小さいんだろう」
↓
「太ってるってだめなんだ」
「ああいう顔のことを気持ち悪いと言うんだ」
「小さいことは悪いこと」
自分に対して向けられた言葉ではないにしても、これを聞いた子どもはこのように感じるでしょう。
人の外見について子どもの前で語るのは、とても慎重にならないといけないと、教師としても一人の親としても思っています。お母さんやお父さんが思うことは、年齢が低ければ低いほど、子どもにとってはすべてなんですよね。
外見に対して否定的だったり、評価したりする言葉を聞いた時、子どもは「人に対して外見の評価をしていいんだ」という価値観を与えることになるのです。
内面から出ているものと生まれながらに持っているものの違い
「かわいい」などという言葉を絶対に言ってはいけないかというと、そういうわけではありません。
「話し方がかわいいね」
「その髪型、とてもあなたに似合っているよ」
「そのお洋服、かわいい(かっこいい)! 素敵だね」
このように、その人の内面から出ているものに対して「かわいい」や「素敵」と話すのは良いことだと思います。しかし、顔や身体など、生まれながらに持っているものに対して、そういう発言をすることは、子どもにとって良い影響とは言えません。
外見をいじり合うことについて
目の大きさや口の形、歯並びや身長の高い低い、体型の太い細いなど、外見に関する価値観はさまざまです。ゼロベースで何もなかった子どもの価値観に、外見に対する「良い」「悪い」を植え付けてしまうと、子ども自身のこのような発言に繋がっていくこともあります。
「〇〇ちゃんって太ってるよね」
「〇〇くんはカッコいいから遊ぶ」
「私の方があなたより背が高くていいでしょ?」
外見をいじり合うことは、テレビなどで当たり前のように行われていますよね。子どもにとっては「こういうコミュニケーションがあるんだ」と、学ぶ場になってしまいます。外見を揶揄することは、本当はあってはいけないことです。
「外見に惑わされるな」「外見から影響を受けるのは悪」などと言っているわけではありません。外見が9割と言われるくらい私たちは外見からいろんな情報を取っていますが、それを見てどう思うかはその人の自由。何を思って言葉に出して行動するかは一度考えるべきところだと言えます。
外見で人を否定するのはやってはいけないことなんだという価値観を子どもに育んで欲しいですよね。だからこそ、私たちが普段からどういう言動をするのか、さらに子どもがどういうものに触れていくかは気をつけたいところです。
普段の何気ない子どもへの言動を見直してみよう
子どもと一緒にいる時、つい「かわいい」「かっこいい」などと外見に関する発言をしてしまうことってありますよね。その発言自体に悪気はなく、自分でも気づかないくらい自然に発してしまっている言葉やリアクション。しかし、子どもにとって親から受ける影響は絶大! 今一度、自分の言動が正しいのかを見直して、子どもと接していきたいですね。
あきえ先生の前回の記事はこちら
記事監修
モンテッソーリ教師あきえ
幼い頃から夢見た保育職に期待が溢れる思いとは裏腹に、現実は「大人主導」の環境で、行事に追われる日々。そのような教育現場に「もっと一人ひとりを尊重し、『個』を大切にする教育が必要なのではないか」とショックと疑問を感じる。その後、自身の出産を機に「日本の教育は本当にこのままでよいのか」というさらなる強い疑問を感じ、退職してモンテッソーリ教育を学び、モンテッソーリ教師となる。「子育てのためにモンテッソーリ教育を学べるオンラインスクール Montessori Parents」創設、オンラインコミュニティ”Park”主宰。2021年1月に初著書「モンテッソーリ教育が教えてくれた『信じる』子育て」(すばる舎)、2022年3月に「モンテッソーリ流 声かけ変換ワークブック」(宝島社)を出版。
あきえ先生主宰オンラインスクール「Montessori Parents」
取材/本間綾