いまの子どもたちこそARTが必要。立川「PLAY! MUSEUM」プロデューサー・草刈大介さんが目指す場づくり

今回「こども×アート」チームが取材するのは、2020年に立川にオープンした「PLAY! MUSEUM」。おとなと子どもが楽しめる美術館というコンセプトでつくられた、全国でも屈指の子連れに優しいミュージアムです。どんな展覧会をやっているの? 他の美術館と何が違うの? その秘密を徹底解剖しちゃいます!

世にも珍しい! 子どもの遊び場と一体となった美術館

「PLAY!」は、美術館である「PLAY! MUSEUM」と子どもの遊び場である「PLAY! PARK」が一体になった施設。美術館の一角におまけのようにキッズスペースがあるのではなく、ワンフロアをまるまる使った子どもの遊び場「PLAY! PARK」が美術館の上にあります。こんな美術館見たことがありません!

体を動かしたい盛りのお子さんがいる場合は、PARKで目一杯遊ばせてから、展覧会を見たり、その逆もできるので、もしも子どもが展示を気に入らなかったらと心配する必要がありません。PARKについては、くわしくはこちらの記事でレポートします。

テーマは「絵とことば」。年中、子連れで楽しめる展覧会を開催!

「PLAY! MUSEUM」は親子で楽しめるようにつくられた美術館です。さまざまな企画展が開催されていますが、共通のテーマは「絵とことば」。
これまで『はらぺこあおむし』のエリック・カール、クマのプーさん、『かおノート』で知られるtupera tupera、さくらももこのマンガ『コジコジ』など、絵本やマンガに関する展覧会が開かれてきました。夏休みだけの期間限定ではなく、「PLAY!」では、いつ行っても子どもと楽しめる展覧会が開催されています。全国でも稀な美術館です。

PLAY! MUSEUM 年間展示「ぐりとぐら しあわせの本」展 会場写真(撮影:吉次史成、提供:PLAY! )※現在は終了しています。
PLAY! MUSEUM 企画展示「みみをすますように 酒井駒子」展会場写真(撮影:吉次史成、提供:PLAY! )
PLAY! MUSEUM 企画展示「柚木沙弥郎 life・LIFE」(撮影:平野太呂、提供:PLAY! )

展覧会自体がアトラクション。世界観に没入するための演出がすごい!

絵本ならば家で見ていればいいのでは?、子どもに印刷と原画の違いがわかるの?と考える方もいるかもしれませんが、PLAY! MUSEUMでは、テーマとなる作家の世界感に浸ることのできるように、建築家等のプロフェッショナルが空間演出に工夫をこらしています。

さながら展覧会自体が一つの作品のよう。これは家ではできない体験です。親しみやすい絵本やマンガを切り口に、非日常の空間で楽しみながら作家の表現に触れることで、いつの間にか美術の奥深い世界に誘われます。

今をときめく絵本作家 junaidaの世界を探検

現在開催中の展覧会「junaida展 IMAGINARIUM」も体験型の展示になっています。junaidaは、『Michi』『の』『怪物園』などの絵本でコアなファンを獲得している作家です。

衣装を借りて絵本の主人公に変身!

コートのサイズは140cmと110cmの2展開。大人は帽子のみかぶってOK。

さっそく入場しようと思ったら…、エントランスで面白そうなものを発見! 絵本『の』の主人公「わたし」に変身できる、赤いコートと帽子があるではないですか。

展示室で、三編みをして「わたし」になりきっているかわいいjunaidaファンに出会いました。

導入から引き込まれる工夫が満載

入口の小部屋では、描きおろし作品「IMAGINARIUM」の下絵が観客を迎える。

それでは会場に入ってみましょう。劇場の幕を連想させる赤い布に囲われるようにして、メインビジュアルの下絵を見ることができます。スポットライトが当たりいつの間にか、物語の主人公になった気分に。

そして、高さ3mもある大きな扉を開くと、junaidaさんの原画がずらり出迎えてくれます。床にはふかふかの絨毯が敷かれ、ヨーロッパの重厚な童話の世界に通じているかのような雰囲気が漂います。

絵本の怪物が動いている!?

『怪物園』に登場する怪物が行進するアニメーション。

さらに進むと、絵本の展覧会なのに映像が!『怪物園』に登場する怪物たちが、展示室の奥に向かってゾロゾロと行進します。今回の展覧会のために映像作家の新井風愉さんがつくった映像です。このコーナーは子どもに大人気! 怪物と一緒に奥の展示室に向かいましょう。

イチオシの作品は贅沢な演出で。

展覧会描き下ろし作品「IMAGINARIUM」(2022)の1点。

今回の展示のために描き下ろした注目の作品は、大切な宝物を飾るように台に載せて展示されます。上から覗き込みながら作品と一対一で向き合うと、原画を独り占めしているような気分に。ここでしか味わえない貴重な時間を過ごせます。

PLAY! MUSEUMの顔となる楕円形の展示室。他に比べ作品点数を絞って贅沢な空間ができている。

家族連れが大勢行き交うお出かけスポット「GREEN SPRINGS」

PLAY!」がある複合施設「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」自体も、子どもとのおでかけにうってつけの場所です。「100本のスプーン」をはじめとする、子育て世代が入りやすいレストランやショップが多数あります。

芝生があり、椅子やベンチもいたるところにあるので、テイクアウトした食べ物で気軽にランチを楽しむのもOK。これなら混雑する土日などでも安心です。緑あふれる中央広場にはビオトープや噴水、水遊びする子どもで賑わう水の流れる階段「カスケード」もあり、土日にはマルシェなどのイベントが開催されていることも!※芝生は養生のため閉鎖されていることがあります。

いま子どもたちに美術が必要なワケ――PLAY! プロデューサー・草刈大介さんインタビュー

さて、ここからはPLAY! のプロデューサーを務める、草刈大介さんにお話をうかがいます。草刈さんは、朝日新聞社の文化事業部で、フェルメールや古代エジプトからスヌーピー、ガンダムにいたるまで、時代もジャンルも規模も異なる数々の展覧会に携わった後に独立。「ブルーシープ」を設立し、展覧会の開催や美術館の運営、本の出版などを手掛けています。

草刈さんが展覧会をつくる上で大切にしていることを教えてください。

草刈:美術館や展覧会をつくるとき、0から100まですべてを自分の思い描いたようにできるわけではありません。あるテーマの作品を展示すると決まった時点である程度の制約が生まれます。コンセプト、なんのためにその展覧会をやるのか、世の中における役割、そういったことを考えて工夫できるのは全体の15%くらいです。

今回のjunaidaさんの展示も、別の人が別の会場で展覧会をやりたいと考えたら、PLAY! とは異なるアプローチの展覧会が実現したはずです。その違いはおそらく15%程度でしょう。でも、そのなかにすべてがあると思って、やっています。

なるほど。PLAY! が、内装からサイン計画、グッズや図録、カフェにいたるまで、細部にまで心が配られている理由がわかった気がします。

草刈:僕の考えの大前提には日本の世の中の空気に対する危惧があります。戦後は、敗戦から立ち上がり便利な世の中にしようと、車や新しい家電をつくったり、大企業が新しい発明をしていました。やがてバブルで絶頂を迎え、成熟して経済的に満足したら、企業は現状維持ばかりに目を向けるようになりました。

目立たないようにしていればそこそこ豊かな生活ができるので、あれが欲しい、こういう暮らしがしたい、ああなりたいといった欲がなくなり、新しいものや便利なものを生み出すアイデアがなくなってしまった。まるでロボットのように従順で物言わぬ人ばかりが再生産されているような気がします。僕の仕事の根底には、そういった世の中に小石の波紋でもいいから何か残したいという気持ちがあります。

美術は、子どもにとってどのような意味で必要だと考えていますか?

草刈:僕は「どうして勉強するのだろう」と考えることが大事だと思っています。英語が喋れないと社会人になれないから、計算ができないと就職するときに不利だから、とかそういったことではなく、「目に見えないことを誰かとやりとりするため。つまり想像するため」だと自分の子には伝えています。

僕が今こうして言葉を発しているときに、頭のなかでは全然違うイメージが湧き上がってきています。聞いている相手も、やりとりしている言葉以上のことに考えを巡らせていると思います。誰かと喋っていること以上のことを交感することができたら、それはとても人間らしいことですよね。そうした想像力を膨らませていくために、勉強もするし、映画も見るし、本も読むし、絵も見る。美術もそのための一つだと思っています。

言葉以上のことを想像するために美術は必要だということですね。

草刈:junaidaさんが絵を描いている理由を言葉で説明することはできません。たぶん本人でも説明がつかないと思います。僕らはそういった説明できないことに対して憧れや関心を抱いている。一見意味のないことかもしれませんが、僕はそれこそが大切なことだと思っています。展覧会はそのような表現に触れる機会になると思います。

PLAY! に来るお客さんからはどのような反応が何か届いていますか?

草刈:多くの方に楽しんでもらっていますが、ときにはもっと子ども向けの展示にして欲しい、という意見をもらうこともあります。その人たちはおそらく、昨年開催したミッフィー展(誕生65周年記念 ミッフィー展)のときの、小箱の仕掛けなんかを子ども向けの展示と考えるのだと思います。床すれすれに小箱を設置して、なんだろうと思って子どもが開くと、箱の外の絵と関連した絵がなかに入っているという仕掛けです。

PLAY! MUSEUM企画展示 「誕生65周年記念 ミッフィー展」会場写真(撮影:吉次史成、提供:PLAY!

たしかに子どもに喜ばれそうですね。

草刈:好評だったのですが、今はこの展示方法は間違いだったと思って反省しています。箱をあけて中に絵が描いてあったら嬉しいだろうなとか、大人の考えに子どもを当てはめて遊ばせるのはだめだと思ったんです。それは単なる大人の自己満足でしかありません。

食べ物についても同じです。レストランに行くと大人が子ども向けのメニューを選びがちですが、おいしいかどうかは食べてみないとわかりません。だから、我が家では子ども扱いしないで大人とおなじものを食べさせています。大人が本当に良いと思うものを体験させたほうがいいのではないでしょうか。

では、これからのPLAY! MUSEUMの展示はどうなっていくのでしょうか?

草刈:今年の春の「どうぶつかいぎ展」や今回のjunaidaさんの展示で、解説をほとんどつけなかったのは、親子で疑問に思ったことを話して欲しいという願いがあるからです。

解説があるとどうしても答え合わせのようになってしまいますので。そのような展示にプラスして、大人が子どもに向けて見方を提案できるようなキットを用意しようと考えています。答えを示すのではなく、絵の内容について「どこに向かっているのだろう」「なぜ怒っているのだろう」とか、親子が同じ土壌で話をするためのきっかけとなるものです。

junaida展「IMAGINARIUM」。『の』の原画展示風景

最後に美術館に行くことをためらっている親子に向けてメッセージをください。

草刈:PLAY! MUSEUMは、PLAY! PARKという子どもの遊び場のすぐそばにあります。遊んで、ご飯を食べて、戻って美術館を見てと一日中楽しめる場所です。そういうことをできる美術館はほかにありません。とても貴重な体験ができる場所ですので、ぜひ一度訪れてみてください。

◆PLAY! MUSEUM
住所 〒190-0014 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟 2F
今回鑑賞した展覧会 junaida展「IMAGINARIUM」
会期 2022年10月8日(土)~2023年1月15日(日)
開館時間 平日10:00~17:00(入場は16:30まで)
土日祝10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日 原則無休(展示の入替、年末年始の3日間、2022年12月31日~2023年1月2日を除く)
観覧料金(税込) 一般1800円 、大学生1200円、高校生1000円、中・小学生600円、未就学児無料
*割引制度あり(立川市在住・在学者、障がい者など)
*当日券で入場可。土日祝および混雑が予想される日は、事前決済の日付指定券(オンラインチケット)を販売。

詳しくはPLAY! 公式ウェブサイトをご確認ください。

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企画協力/中川ちひろ
撮影/五十嵐美弥
取材・文/藤田麻希
構成/HugKum編集部

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