「登坂車線」の「登坂」の正しい読み方って?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴37年。日本語のエキスパートが教える知ってるようで知らなかった言葉のウンチクをお伝えします。

登り坂に書かれている「登坂車線」の正しい読み方は?

登り坂が続く道路には、途中から「登坂車線」と書かれた車線が設けられていることがあります。この「登坂車線」の「登坂」ですが、みなさんはなんと読んでいますか?

「トーハン」?「トハン」?「トウバン」?「ノボリザカ」?

正解は、「トーハン」または「トハン」で、どちらでも間違いではありません。と言うのも、はっきりとした読み方の決まりがないからです。

「登坂車線」は、「道路構造令」(昭和45年10月29日政令第三百二十号)に定められています。その第二条によれば、「七. 登坂車線 上り勾配の道路において速度の著しく低下する車両を他の車両から分離して通行させることを目的とする車線をいう」とあります。

さらに第二十一条では、その設置の基準を「普通道路の縦断勾配が五パーセント(高速自動車国道及び高速自動車国道以外の普通道路で設計速度が一時間につき百キロメートル以上であるものにあっては、三パーセント)を超える車道には、必要に応じ、登坂車線を設けるものとする」と定めています。登り坂がきつそうだからと勝手に「登坂車線」を設けているわけではなく、明確な設置基準があったのです。

専門用語としての読み方は「トハンシャセン」。NHKでは読み方が2通りある

この「道路構造令」には「登坂車線」の読み方が示されていないので、正しい読み方はわかりません。専門用語としては、「トハンシャセン」と読むことが多いようです。

ただ、「トーハン」も誤りではないため、NHKのアナウンサーは、「登坂」単独だと「トーハン」、「登坂車線」は、「トハンシャセン」と読むようにしているようです(『NHKことばのハンドブック』第2版)

辞書ではどうかというと、「登坂車線」が立項されている『デジタル大辞泉』、『大辞林』第4版、『広辞苑』第7版では、解説のある本項目はすべて「トウハンシャセン」です。『大辞泉』『大辞林』は「トハンシャセン」も参照見出しにしていて、どちらからでも引けるようにしています。これは、「登」の本来の音(呉音と漢音)は「トウ」で、「ト」は慣用音(中国から来た呉音や漢音ではなく、日本で広く使われている漢字音)だからです。「登山(トザン)」「登城(トジョウ)」の「ト」も同じです。

でも、NHKもそうだからというわけではありませんが、辞書も「トハンシャセン」を本項目にした方がいいような気がします。

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神永(かみなが・さとる)
辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。著書『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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