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中1、小5、小2の三兄弟を子育て中のマルサイさんの学習スペースが話題!
マンガ家のマルサイさんは、日々の子育てや食卓の様子を紹介したインスタグラムが人気の3人男子のお母さん。投稿でときおり紹介していた子どもスペースが、「居心地よさそう」「勉強や好きなことに集中できそう」と評判になりました。その後生活実用誌のインテリア特集でも紹介されるようになり、多くの読者が間取りや子どもに合わせたスペースづくりを参考にしています。
現在、中学1年生(13歳)、小学5年生(11歳)、2年生(8歳)となった三兄弟。個室を与えるのではなく、それぞれが「自分の居場所と思える空間」を上手に作ってきたマルサイさんに、これまで試してきた子どもスペースづくりについて伺いました。
2LDKの間取りで3人男子のスペースをどう作ってきたのか
わが家はこの通り2LDKの間取りで、広めのリビングダイニングと、あとは6畳の寝室と夫の仕事部屋。私はダイニングで仕事をしています。夫も私も自宅で仕事をしているので、子どもスペースの中心は自然とリビングに。子育てが始まって13年あまり。幼児期から小学生時代、思春期の子どもの場所がどう変化していくのか、はじめの頃は全く想像ができませんでした。
はじめは子ども図書館のような子どもスペースを
どこのおうちでもそうだと思いますが、わが家も子どもが小さい頃は3人ひとくくりで居場所を作っていました。リビングの一画にこたつテーブルを、そのそばにカラーボックスを置いて子どもたちの勉強道具やランドセルを収納。この子どもスペースで、みんなが集まって本を読んだり、宿題をしたりお絵描きしたりと、「子ども図書館」みたいな感じで、ダイニングにいる母の存在をチラと感じながら、子どもたちはワイワイ楽しくやってきました。
大きな家具を買うより、子どもの動線や過ごし方の観察が大事
子育てをするうえで常々考えていたのが「うちは学習机を置かない」ということ。一般的には小学校入学、3年生か4年生頃に学習机をどうするかを悩む家庭が多いと思いますが、小さいときに机を買うとスペースを限定してしまい、動けなくなってしまう。兄弟は全員男子と言っても性格はそれぞれ。一人一人を見ながら「どの場所の居心地がよくて、どこなら集中して勉強ができるのか」を模索する日々でした。
コロナを機に変えることになった子どもスペース
しかし、コロナを機にこの比較的平和な状態が崩れ始めたのです。長男が5年生、次男が3年生の春から始まった自粛期間、家族5人が「今までにないほど一緒にいる時間」が増えると、長男と次男のケンカが絶えなくなりました。
「一人になりたい」とまでは言わないけど、居場所がなくてイライラしているというのが伝わってきて。私は「3人がこのスペースで和気あいあいと過ごすことはできなくなってきたんだな」と悟りました。これまでも一人一人にチューニングを合わせるように性格を見てきたつもりでしたが、長男も思春期の入り口に来ているし、次男も自分のやりたいことがある。いよいよ子どもに合わせた場所づくりをしなくては、と思った瞬間でした。
子どもが「やりたいこと」に集中できるスペースづくりって?
まず、寝室にこたつテーブルを移動して長男専用の机に。そして私の仕事机も寝室へ。これは次男専用の机になりました。つまり上2人がそれぞれに机を持ったのです。といっても彼らにとっては「自分のやりたいことに専念できる」のがメイン。長男は工作やプラモデル作りとゲーム。次男はプログラミングが好きなのでパソコン作業。
ささっとやれる宿題はここでやりますが、長男は定期テスト前など本腰を入れるときはダイニングが集中できるようです。いつもは勉強しない長男にスイッチが入ると、ダイニングに「問題集をドサッと置いて」勉強し始める。その雰囲気がどうやら「かっこいい」と次男、三男には映るようで、2人も真似して勉強し始めるのです。結局3兄弟のガチ勉はダイニングテーブルが主流となりました。
片付かない原因は子どもの行動のなかにある
ひとつだけ、3男は低学年でもともと宿題はダイニングなのですが、リビングに置いていた学用品が遠く、テーブルに宿題を出しっぱなしにすることが多くなっていました。リビングはすぐ目の前でもランドセル置き場まで20歩ほどかかる。この「たった20歩」が低学年の子どもからしたら何度も行き来するのは面倒なんです。
毎日自分の口から出る「片づけなさい」「もう1回取ってきたら?」を言い続けてふと我に返りました。子どもは使いやすいかどうかを動物の本能でかぎとる。子どもがやりやすいよう、配置を変えないと片付かないと。そこでダイニングテーブルのそばにランドセルや学用品を置く場所を新たに設置しました。
上から6年生、4年生、1年生と3人が小学生に通った年は、カラーボックスに3つのランドセルが並んだのがうれしかったですね。「3人とも小学校に入ったらひと段落」と心のどこかで思っていて、大変ながらもなんとか子育てもここまできたか、ととほっとしたのをよく覚えています。
勉強スペースを作るうえで、難しかったところは?
子どものスペースを考えるときって「まず勉強に集中できる環境を先に与えるほうがいいのかな」と思う部分てありますよね。うちも同じで、今でも悩んでいます。でも結果として、親が先走って用意したとしても、子どもがそこでやる気にならない限り意味がないということも経験しました。結局、子どもの行動パターンを観察することのほうが大事だなと実感しています。
学習机は結局いついるのか
というのも、長男が中学生になった段階で、専用の学習机があるほうが「勉強してくれるのでは」と思い、「今の部屋の使い方はどう? ちゃんとした学習机を買う?」と聞いたんです。すると長男は「いや、まだ必要ないかな。高校受験が近づいたら必要かもしれないけど……」と。どうやら「自分の勉強用の机をあたえられると勉強しなきゃいけない」と感じたらしく。今ダイニングで勉強する姿を見ると、「長男が集中できるのはここなんだ」と分かりますが、それも手探りというか、子どもを見ていてようやくわかったことですね。
親が思い描く勉強スペースと、子どもが勉強しやすい場所は違う
長男を見ていると、自分が必要な時に勉強の場所をちゃんと見つけているし、それを見ている弟たちもそんな兄の姿に影響を受けている。子どもって「机があるから勉強するのではなくて、どんな環境でも勉強のスイッチが入ればやるんだ」と思いました。要は本人の気持ち次第。親が子どもより先回りしてどんな場所で勉強したいかを探っても、子どもの中にある答えは別の場所にあったりするものです。
親の立場だと「こうすれば学習環境が整って、子どもは勉強するようになるだろう。これも子どもの将来のため」と考えたくなりますが、それって、親の価値観の押し付けになっちゃう気がします。「では、この瞬間のこの子たちの時間はどうなっちゃうの?」と自問自答しながら、子どもスペースを整えてきた気がしますね。
「勉強をしてほしい」より大事なこと
いま、私は彼らが自分のスペースで、それぞれに集中したいことをやってほしいと思っています。必ずしも勉強ということではなく、長男は工作、次男はプログラミングのように「やりたいことをだれにも邪魔されずに集中して取り組めることが一番」だと、割り切って考えるようになりました。
それとどこの家庭もそうだと思いますが、兄弟って性別が同じでも性格はバラバラ。わが家の場合、それぞれを「火力」で表すと「弱火でコトコト」のチルアウト系の長男、バーナーのような圧倒的火力の強さを誇る次男、そして三男は弱火と強火のコンビネーションとさまざま。それでもまだ全員が小さいときは、私は「子どもは自分の附属物。自分の言うことを聞く存在」だと思っていましたが……。とんでもないですね!
今は1人1人の人格があり、個性の違う全く別の種類の生き物なのだとつくづくわかります。だから子ども扱いはせず、夫と話すように一人の人間として対等に話すのも、ここ2、3年の変化ですね。といっても三男には言葉が難しいこともあり、上の2人とは違うチャンネルを意識しなきゃいけないと思うこともしばしば。これまたなかなか難しいです。
広い意味で子どもの居心地のいい場所づくりを
今ではこたつテーブルのなくなった以前の「子ども図書館」スペースはネコと遊ぶ広いくつろぎスペースになりました。「それぞれ自分のやりたいことをする場所」「勉強をする場所」「くつろぐ場所」の3つを同じ間取りで変化させてきたことになります。
子どものスペース作りは、進学や進級をきっかけに変えなくては、と思うかもしれませんが、小学7年生みたいな長男を見ていると「中学生になったから変えるべき」と考える必要もないと思いました。急に性格が変わるわけではないですし。「本人が行きたい方向を親はうしろから楽しく見せてもらって考える」でいいんじゃないかなあ、と思う今日この頃です。
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構成・文/船木麻里 間取りイラスト、写真提供/マルサイさん