5歳になって突然、一人で歩けるように
アンジェルマン症候群には、発達が遅く歩行が不安定という代表的な症状があります。夏斗くんもずっとハイハイを続けていて、一人で歩けるようになったのは5歳になってからです。また発語がない(発語があっても少ない)特徴もありますが、夏斗くんも6歳になった今でも発語はありません。「ママ」「パパ」と呼ぶこともありません。
「突然、歩けるようになったので、いつか突然、話せるようになる日が来るのではないかと、今でも思っているんです」(毅さん)
そうした毅さんの前向きな考え方に、由子さんも救われることが多いと言います。
アンジェルマン症候群は容易に笑うのも特徴。その笑い声に癒される
またアンジェルマン症候群には、ちょっとしたことで笑う特徴があります。取材の日も、毅さんが夏斗くんを抱っこしたりするだけでケラケラ声を出して笑います。
「夏斗は、箸が転がるだけでも笑います。夏斗の笑い声に、どれだけ家族が癒されているかわかりません。本当に可愛いです」(由子さん)
「夏斗には、言葉でのコミュニケーションができなくても、笑い声一つで、家族がこんなに明るい気持ちになれるということを教えてもらいました」(毅さん)
睡眠障害で早朝から遊び始めたときは、毅さんが相手を
毅さんは、33歳で現役を引退しています。夏斗くんが2歳のときでした。
「体力的な限界を感じて引退を決意しました。現役時代は、試合の日以外は、午後は比較的時間に余裕があったのですが、午前中は練習です。そのため、夏斗のことは妻に任せることが多かったですね。」(毅さん)
「アンジェルマン症候群は睡眠障害も特徴で、これがこの病気の中で1番大変かもしれません。
睡眠導入剤や興奮を抑える薬を飲んで、なんとか眠りにつきますが夜中に確実に2、3度は目をさまします。
寝かしつけや夜中に起きた場合は妻が担当してくれています。早朝に目を覚ましたら僕が担当する感じで夫婦で役割を分担しています。
1度起きたら覚醒してしまいなかなか寝てくれないので夜中に対応してくれている妻には本当に感謝しています。
その分、朝は僕が頑張っています。たまに朝3時に起きる時もあり、なかなかキツいです(笑)。」(毅さん)
子どもの睡眠障害によって、親がメンタル不調になることも
アンジェルマン症候群で睡眠障害を伴うと、ママやパパも睡眠不足が続きメンタルに不調をきたすこともあります。
「うちには4歳になる下の子もいるので、私一人では夏斗の面倒を見ることはできません。夫が早朝、夏斗の相手をして遊んでくれることに感謝しています」(由子さん)
アンジェルマン症候群は対症療法が中心
アンジェルマン症候群は、現代の医療では薬や手術などで治る病気ではありません。睡眠障害がある場合は、薬が処方されるなど対症療法が中心となります。
夏斗くんも2~3ヵ月に1回通院し、睡眠障害の相談をしたり、てんかんをコントロールする薬を処方してもらっています。てんかんもアンジェルマン症候群の特徴です。
夏斗くんが大きくなって病気のことをオープンに
毅さんは、夏斗くんのことをSNSで発信しています。夏斗くんの病気のことをオープンにしようと思ったのは、夏斗くんが大きくなるにつれ「息子さんにサッカー教えているんですか?」と聞かれたりすることが増えたためです。
「僕は、夏斗の病気を隠すつもりはないのですが、“息子は病気で走ったりすることができないんです”と言うと、相手が恐縮してしまい、変な空気になってしまうんですよね。そういう感じをなくしたくて、夏斗のことをSNSで発信するようにしました。夏斗を試合に連れて行ったりした時に、声をかけてもらえるようになって、夏斗が周りの人とつながることが出来たと感じています。」(毅さん)
夏斗くんは、4月から特別支援学校へ
由子さんも夏斗くんの病気をオープンにすることに賛成です。
「夏斗の病気のことは、下の子のママ友たちにもオープンに伝えています。みんなで遊ぶときは、夏斗も一緒です。近所の人たちに理解してもらえることは、本当に心強いです。」(由子さん)
夏斗くんは、この春から1年生。特別支援学校に通いはじめました。
「初めての特別支援学校なので私も不安はありますが、一歩ずつ夏斗のペースで前に進んで行きたいと思います」(由子さん)
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島村さんの配信する、家族との暮らし
撮影/五十嵐美弥 取材・文/麻生珠恵