ハンガーまで紙に!?「大王製紙」の考えるSDGs、プラスチック代替素材の現在地

2022年10月にECサイト限定で販売がスタートした『大王製紙』の新商品「グーンプラス 肌快適設計パンツ Mサイズ 紙パッケージ」、この商品の開発エピソードを中心に、前編では「SDGs」につながる『大王製紙』グループの人や環境にやさしい商品づくりの背景や、経営理念についてご紹介しました。後編では、前半でお聞きした経営理念が具体的な事業活動として実現していく原動力について詳しくお話を伺います。

 

取材にご協力いただいたのは、前編同様、『大王製紙』経営企画本部サステナビリティ推進部の飯島恵一さんと、実際に商品開発に携わったマーケティング本部ベビーケア・ブランドマーケティング部の成塚達哉さんです。

 会社の存在意義から考えて達成目標を明確にすることで「SDGs」に取り組む

 ――『大王製紙』の経営理念は、「衛生」「人生」「再生」という観点で3つのビジョンを掲げて、それを誠意と熱意をもって成し遂げ「やさしい未来」を実現すること。しかし、その理想を現実にするのは、なかなか大変ですよね。

 飯島:ええ、そう思います。ですが当社では、そうした理想を実現するために、なぜその目標を私たちが掲げているのかという私たちの存在意義までしっかり考え、その上で、それぞれの分野においてより具体的な達成目標値を掲げて、事業活動に取り組んでいます。 

例えば、「SDGs」に取り組む上では、2021年5月に「大王グループ サステナビリティ・ビジョン」を公表して、サステナビリティ(SDGs)を戦略として経営に織り込んで取り組んでいます。

 具体的には、環境を維持していく上で大事な課題を、「気候変動への対応」「循環型社会の実現」「森林保全と生物多様性の維持」と考え、その課題において当社が貢献できるリアルな目標を掲げて、全社を挙げて取り組んでいるんです。

 その目標とは、「2030年度の化石燃料由来CO2排出量46%削減」(2013年度比)、「2050年カーボンニュートラルの達成」です。

 ――目標がとても具体的で、明確ですね。

 飯島:はい。このように明確にすることで、サステナビリティへの取り組みが途切れることなく続き、少しずつでも目標に近づいていくと考えているからです。「SDGsをやってます」と宣言しても、一過性のもので終わってしまっては意味がありませんから。

 ちなみに、当社は2015年に「SDGs」が世界共通目標として採択される以前から、地球再生の視点から1993年に「DAIO地球環境憲章」を制定。製紙業界で最も早く環境に関する取り組みをすることを宣言しています。具体的には、「植林」や「古紙の高度利用」「廃棄物の再利用」などに積極的に取り組んでいます。

 また、その一方で、前編で紹介させていただいた「キレキラ!トイレクリーナー」や「エリス ナチュラルシリーズ」「エルヴェール ペーパータオル」のように、商品を含む素材までも「天然素材」で環境にやさしい‶紙〟にするという取り組みも進めています。

 「持続可能な森林経営」や「古紙再生のための分別技術」は『大王製紙』ならではのもの

――たくさんの取り組みがなされていることが、とてもよくわかりました。サステナビリティへの取り組みで、代表的な事例を他にも教えていただけないでしょうか。

画像提供:大王製紙

 飯島:紙は天然素材であり、その原料は木材です。そのため「植林」に関しては、南米チリ共和国に約5万9000ヘクタールの山林を保有して、【収穫→植栽→育成→収穫→植栽→育成→収穫】というサイクルを繰り返す持続可能な森林経営を行っています。

 木を切ったあとに植林をすることで、「土砂災害の防止」や「森林が水資源を蓄え、育み、守っている機能」など、従来、森林がもつ役割に加えて、「資源としての樹木の活用」、さらには「その地域の雇用の創出」なども生み出しています。また、この森林の約半分は天然林として維持していますが、ここでは絶滅危惧種で天然記念物に指定されている樹木・アレルセの保護や、チリの固有種でシカ科のプーズ―や、カワウソの一種のウイジンなども保護して、生物多様性にも配慮しています。 

また、当社が製造する新聞紙やダンボ―ルは、回収して再生紙として生まれ変わるようにしています。とくに難処理古紙と呼ばれている、フィルムやDVDなど紙以外のものが混ざっている古紙を処理する技術は、当社が誇るものです。これも、持続可能な資源循環であると考えています。

 こうした循環型社会の実現に取り組むと同時に、当社では「環境にやさしい素材の開発」も進めています。

 注目のプラスチック代替素材は紙素材を熟知しているからこそ生まれた新素材

 ――それにはどういった素材があるのでしょうか。

 飯島:まず、お伝えしたいのが、プラスチックの代替素材として、マドラーやフォークなどのカトラリー製品をイメージして開発した『エリプラシリーズ』です。今年2月に環境省が主催する「プラスチック・スマート優良事例アワード」を受賞した当社が誇る新素材です。

画像提供:大王製紙

プラスチック・フィルムとの代替が可能な高密度厚紙に耐水性と耐油性を付与した素材で、自然の中で分解される生分解性にも優れていて、すでに大手コーヒーチェーン『ドトールコーヒー』のマドラーなど、多くの商品に採用されています。

靴下など、紙のハンガーを見かけると思いますが、あの商品です。

 当初は2030年までに30アイテムでの採用を目標に取り組んでいたのですが、現時点ですでに25アイテムでの採用が実現していまして、目標の上方修正を検討しています。

 また、『セルロースナノファイバー』もプラスチック代替素材として有望な素材です。

セルロースナノファイバーは、パルプが原料なのに、鉄の5倍強く、鉄の5分の1の重さ

セルロースナノファイバー 乾燥体 /画像提供:大王製紙
セルロースナノファイバーを成形したもの /画像提供:大王製紙

飯島:パルプをナノレベルに細分化したものなのですが、鉄の5倍強く、鉄の5分の1の重さといわれています。さらには保湿性や透明性など他にも多くの機能があって、幅広い分野での採用が期待できます。現在は愛媛県松山の道後温泉の、ホテルのツアーバスバンパーや、レースカーのボディ、卓球のラケットなどにも採用されております。

道後温泉のホテルのバスのバンパーにも! /画像提供:大王製紙

――鉄より強くて、しかも軽いとは、画期的な素材ですね。

 飯島:ええ、今後は医療やヘルスケア、美容、光学部材への用途開発も期待できると考えています。

 ゴミを減らす新たなシステムを構築。やさしい未来を目指しています

――他にはどんな取り組みがあるのでしょうか?

飯島:そのほかに最近のトピックスとしては、もみ殻やコーヒーかすなど、原材料から目的の成分を取り除いたあとに残った製造残渣を紙の原料として再利用する「Rems」(リムス)というシステムを202210月に立ち上げ、活動をスタートしました。

原料となるもみ殻 /画像提供:大王製紙
もみ殻を粉砕するとこんなに細かく! /画像提供:大王製紙

 「Rems」とは「Re material system」の頭文字から由来している名称です。

 企業や団体において製造過程で出る残渣を提供してもらい、それをパルプに混ぜ合わせて、新たな紙として再利用するというシステムなのですが、すでに大手の菓子メーカー様などからお問い合わせを受けておりまして、実現すれば資源の有効活用によって、持続可能な社会に貢献できるのではないかと考えています。

Rems コーヒーのかすを活かして紙にするなど、様々な可能性が /画像提供:大王製紙

 ――お話をお聞きして、なんだか「やさしい未来」が身近になった気がします。最後に次世代の子どもたちを育むファミリーに向けて、メッセージをお願いします。

 飯島:これまでお話してきましたように、私たち『大王』グループは生まれたときから老後まで人の一生において、心豊かで快適な暮らしができるような価値(やさしさ)を創造し、生活に必要な商品やサービスを提供し続けることで、世界中が「やさしさ」で満たされることを願っています。

 この考えのもと、子育てファミリー様向けの商品には、大切なお子様がすくすく育っていくことを願い、‶やわらかさ〟で「赤ちゃんの肌に対するやさしさ」を、‶使いやすさ〟で「子育ての負担を軽減するやさしさ」を、そして‶楽しさ〟で「成長が楽しくなり、子育てが楽しくなるというやさしさ」をご提供できるよう日々商品開発に努めております。そのやさしさが少しでもお客様に伝わることを願っています。

 成塚:「グーン」では、赤ちゃんのことを最優先に考えて商品の開発を行なっています。赤ちゃんが気持ちよく過ごせるように、そして、それによってママもパパも子育てが楽しい時間になるようにと願っています。これからも、当社製品をどうぞよろしくお願いします。

前半の記事はこちら

脱プラ紙おむつで約33%の脱プラを実現!「大王製紙」が本気で取り組むSDGsの話を聞いた
『大王製紙』が取り組む「SDGs」 身近な紙おむつを紙パッケージに 2030年に向けて持続可能な開発を地球規模で行うための共通目標、「...

大王製紙について詳しくはHPへ

文・構成/山津京子

撮影/五十嵐美弥

SDGsとは?

編集部おすすめ

関連記事