「生きるために医療行為を必要とする子ども」は過去10年で2倍に。子育て中のすべての人が知っておきたい医療的ケア児の話

医療的なケアを必要とする子どもたちとその家族を、優しく取り囲む社会を実現するために、日本の製薬会社4社が意義深い活動を展開しています。HugKumもその取り組みに共感し、小児医療を考える協同企画『Healthcare Café』にオンライン参加して、話を聞いてきました。

生きるために医療行為を必要とする子どもは全国に約2万人、10年で2倍に増えている

「医療的ケア児」という言葉をご存じですか?  ちょっと聞き慣れない言葉だと思います。今回の取材を機に、筆者も初めて知りました。小学館『大辞泉』によると、

<日常生活を送るために、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子供のこと>(『大辞泉』より引用)

とあります。小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』にはもっと詳しく、生きるために継続的に医療行為を必要とする子どもを医療的ケア児と呼ぶと書かれています。

街中で、酸素ボンベや人工呼吸器、各種の荷物を積んだ大きなバギーに、わが子を乗せて移動している保護者を時々、見かけませんか?

厚生労働省によると、医療的ケア児は全国に、推定2万人近く存在し、過去10年ほどで約2倍に増えているのだとか。その理由としては、日本における新生児医療・小児医療の発展があり、救われる子どもの命が増えたからだと『日本大百科全書(ニッポニカ)』にも記述があります。

しかし、医療的ケア児が増えているのにもかかわらず、その子どもと家族を取り巻く社会の側に、十分な知識があるとは言えないかもしれません。

反省と共に考える同業者の学びの機会

現に、医療的ケア児の命をつなぐ各種の薬をつくる製薬会社の人たちですら、医療的ケア児の実態を数字や文献では把握しながらも、リアルな接点を持つ機会は少ないといいます。

その状況を少しでも変えようと、患者家族との交流を持ち、どのような問題が家庭内に存在して、どのようにすれば育児の環境を少しでも改善できるのか、反省をもって考える同業者の学びの場が冒頭の『Healthcare Café』です。

2023年6月14日にその第4回が、武田薬品工業・第一三共・参天製薬・協和キリンの4社で開催されました。

「わが子と自分を入れ替えてほしい」

大阪大学大学院医学系研究科の特任教授である酒井規夫先生

第4回『Healthcare Café』の内容は、第1部の講演と第2部のパネルディスカッションに分かれていました。第1部の講演では、大阪大学大学院医学系研究科の特任教授である酒井規夫先生、および医療的ケア児を実際に育てている製薬会社の社員2名が登壇します。

第2部では、1部の登壇者に加えて、各製薬会社の社員が参加し、医療的ケア児を育てる家庭に訪問して撮影したビデオ映像が公開され、パネルディスカッションが行われました。

医療的ケア児を育てる製薬会社の社員からは、新生児のころから「普通」どおりに進まないわが子の成長に不安や疑問を感じる話、両手に乗せられるほど小さなわが子が医療機関で挿管だらけになり心を引き裂かれる様子が、赤裸々に語られました。

「なんで、この子ばかり」「わが子と自分を入れ替えてほしい」と人知を超えた何かに怒り、動かしがたい現実に打ちのめされてもなお、最後には希望が残ったという登壇者の話は特に印象的でした。

その希望の光には、研究開発に取り組む製薬会社の姿や、同じ境遇を乗り越えようとする他の人たちの存在も含まれるそうです。社会の理解が進めば、その理解もまた、患者と家族の希望の光を大きくするのではないでしょうか。

「医療ケア児」のケアの実際

あらためて、医療的ケア児とは具体的に、どのようなケアを必要としているのか、厚生労働省の情報を基に補足したいと思います。

医学の進歩を背景として、本来ならば亡くなっていた子どもたちの命を救えるようになりました。しかし、救われた命を維持するために、その子に応じたさまざまなケアが必要となります。

子どもによっては、呼吸の管理のために気管を切開していたり、人工呼吸器を装着していたり、胃や腸から直接栄養を受けていたりします。

重症の心身障害がある医療的ケア児の場合は、起きる・寝る、衣服を着る・ぬぐ、排せつする、入浴するなどの日常的な動作も介助が必要になります。

福祉や医療のサービスを利用しながら、そうした子どもたちを在宅でケアする家族たちがいます。

子どものたんやつばを吸引したり、胃や腸、鼻にチューブを入れて流動食、および(または)栄養剤を注入したり、うまく呼吸できない時は人工呼吸器を使って酸素を肺に送ったり、気管の切開した部分を生理食塩水でぬらした綿棒でぬぐったり、膀胱にチューブを入れて尿を出したりと、さまざまな世話に追われています。

しかし、医療的ケア児の生活と、その家族のサポートにはまだまだ、発展途上の部分もたくさんあるそうです。例えば、保育施設や教育機関での受け入れ体制も十分ではないことが指摘されています。

患者や家族を優しく取り囲む社会を実現できないか

パネルディスカッションの様子

同じくこの『Healthcare Café』に参加したHugKumの担当編集者は当初、「個々の家庭と障がいのあるお子さんを好奇の目にさらすことなく、この現実を伝える記事がつくれるだろうか」との葛藤を抱えていました。

しかし、自分たちの仕事のあり方を製薬会社の人たちが自ら振り返り、医学研究や臨床試験を患者・市民と共に進めようとしている事実の伝達を手伝えれば、医療的ケア児を育てる保護者たちに、わずかでも希望の光を届けられるのではないか。

健康で健常な子どもを育てる「普通の」パパ・ママたちに、医療的ケア児を育てる家族の存在を伝えられれば、患者や家族を優しく取り囲む社会の実現にちょっとでも貢献できるのではないか。

そんな思いでこの記事を作成しました。この記事が「医療的ケア児」について目を向けるきっかけになればと思います。

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文・坂本正敬 写真・協和キリンPR事務局

【参考】

医療的ケア児について – 厚生労働省

※ 【第4回(協和キリン)】Healthcare Cafe_Newsletter

※ 「小児医療を考える~患者さん・家族や社会にとって価値が大きい薬を共に創薬する第一歩を踏み出すために~」第4回 Healthcare Café・オンライン配信のご案内

患者さんと協働する創薬活動「Healthcare Café」について – 武田薬品工業

一人の人間として感じ、考え、行動するきっかけを。患者さんとの対話イベント「Healthcare Café」を開催 – 第一三共

医療的ケアが必要な子どもと家族が、安心して心地よく暮らすために – 厚生労働省

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