佐藤久美子先生に聞く、小学校の英語教育の現在地は?「うちの子の英語」どこをゴールに設定すべき? 

2020年から英語学習が小学校で取り入れられ、子どもたちにとってグンと身近になった英語。でも、「慣れ親しむ」とまではいかないのが現実ではないでしょうか。どうしたら小学生にとって英語がもっと身近になるのでしょうか? 子どもの英語教育の専門家でNHK「えいごであそぼ」の総合指導を務める佐藤久美子先生に答えていただきました!

学校で英語を学ぶ意義は、英語を使う「土台」をつくること

――小学校の外国語活動が3~4年生に広がってもう3年目です。5~6年生は教科として外国語を習得するようになりました。

自治体によっては外国語活動を12年生から始めているところもありますよ。小学校で英語を学ぶ機会はどんどん広がっています。

――小学校から英語を学ぶことは、子どもたちにとってどういうメリットがあるんですか?

早期に英語教育をすることを目指すというより、「外国語活動」を通して子どもたちの世界が広がることが重要なんですね。小学生の場合は、まず英語とか日本語とかの区別なく、コミュニケーションの力を養うことが重要です。言いたいことを伝えられる。友達の言うことを聞ける力をつける、ということですね。そういう点では、英語はみんなが多少苦手で聞き取りにくいので、一生懸命に友達に話しかけたり聞いたりします。それが友達との交流を助け、いじめの防止などにも役立つのではないかと思っています。

小学校の英語は「楽しい」「好き」がいちばん大事

また、英語教育を通して外国の方との交流も深まります。すると髪や肌の色、ヘアスタイルなどが千差万別だということに気づきます。つまり、多様性を自然に受け入れられる寛容な心が育つのです。孫がインターナショナルの幼稚園に通っていましたが、そこでいろいろな国のお子さんと友達になりました。中にドレッドヘアの子がいましたが、“He’s so cool!” といつも話していました。自分と異なることはイヤなことではなくワクワクすることで、自然に仲良くなれる。もちろん共通言語は英語です。ことばにはそういう力がありますね。

小学校でも英語が日常に入ってくる土壌ができ、子供たちの世界が広がり、「英語って楽しいな!外国の人とも話せるって楽しいな!」という気持ちが芽生えます。英語が話せると外国の人とも友達になれるし、将来もいろいろな仕事につけるらしい、という自覚が出てくると、英語を学ぶことに喜びを感じるようになりますし、小学校3~4年生である程度単語力がつき、小学校56年生で自分の思いを伝えられるのに近いレベルまで話せるようになってくると、中学校での英語の授業にもよいつながりができます。

逆に言いますと、その程度でいいんです。56年生では英語が学校の「教科」になり、成績もつくというので、心配になったり肩に力が入ったりしがちですが、英語を自然に口にできる、興味を持って学ぶという動機付けができれば十分です。

小学校の英語教育は自治体によってかなり違う

――小学校で英語を学んでも、小学校によっては担任の先生もALT(外国籍の外国語指導助手)も英語教育に慣れていなくて、「うちの学校の英語教育、どうなんだろう……」などという声も聞かれます。

地域によって差もありますが、現在の小学校の先生方の多くは、小学校時代に英語を習っていなかった、また、大学で小学校での外国語の指導法について学んだいなかったという理由から、英語を教えることに戸惑っている先生が多いのが現状かもしれません。でも、先生方も研修を受けるなど、一生懸命にがんばっていますよ。

私はこの十数年、小学校の先生方の英語授業研究の研修にも多数関わっていて、指導法についてアドバイスをしたり、先生方の疑問にもお答えしています。そんな中で、先生方の頑張りや、授業の工夫をたくさん見ています。英語を教えることに自信がないとおっしゃる先生方には、「英語力よりも教員力!」と伝えています。子供のことをよく理解して授業運営のお上手な先生方は、英語もあっという間にお上手に教えることができるようになります!そんな風に頑張っている担任を見ていると、子供たちも自然に、「ぼくたちも頑張ろう!私も先生みたいに話せるようになろう!」と頑張るものです。

町田市の放課後英語教室の事例

東京都町田市は、私が長年勤務した玉川大学の所在地なので、20年近く町田市教育委員会と小学生の英語学習に取り組んできました。例えば、2016年から、放課後子どもたちが通う小学校で、希望する児童を対象として、英語が専門の講師によるレッスンを実施しています。全42校の2年生~5年生、各学年16名ずつ、およそ2500名の児童が無料で受けられる。これはすばらしい取り組みですね。

この講師派遣やカリキュラム・教材作成、研修業務も開始当時から2023年度現在まで私が教育委員会の依頼を受けて担当していますが、このほか、FC町田ゼルビアのサッカー選手が協力してくださり、教材に出演してくださっています。サッカーの選手などの英語の指示に従い体を動かしたり、自己紹介したりする動画は子どもたちに人気です。

自治体ごとに英語に対する取り組み方はさまざまなのが現状ですが、独自に工夫をして英語教育を深めているところもありますし、先生方が独自にがんばっているケースも多々ありますので、今後にも期待したいですね。

小学校で英語を学んでも、家での「英語環境」はキープして

――小学校で英語に親しむこともできるし、発音の点でも学校で学べる、となると、家庭でパパママが英語に関わる役割はどうなるのでしょうか。

未就学児の英語について、私は「家庭でもパパママが簡単な英語でお子さまとコミュニケーションしましょう!」と言いましたが、そのスタンスは小学生でも同様にしていただきたいですね。学校で学ぶから家では英語は関係ない、というのではなく、学校でも家でも、自然に英語と親しむ環境づくりはしていただきたいものです。

「今日はどんな英語を習ったの?『好きな食べ物は何?』って、英語で何て言うの?」など、お子さまに聞くのも良いし、一緒に英語の動画や歌など大いに楽しんでください。英語が親子の共通の趣味になれたら、お子さまも嬉しく、積極的に学ぶ動機につながると思います!

ネイティブの先生に学ぶ子に対して親が英語を話すのは気が引ける…

――しかし、子どもが大きくなり、学校でネイティブな英語を学んでいるとなると、英語に苦手意識を持つパパママは、ますます子どもと英語で話すことに躊躇してしまいがちです。

その気持ちはわかります。でも、完璧をご自身に求めることはないんですよ。保護者も子どもも楽しく話せる範囲でいいんです。大人世代は、かつて学習した英語でいえば中学校12年生レベル、それくらいでいいんですよ。「ビジネス英語ができるくらいじゃないと」「ペラペラにしゃべれないと」とすぐ思ってしまいますが、家庭ではそんな必要はありません。学校に出かける子供に向かって”Have a nice day!”(いってらっしゃい) と、気軽に話しかけてください。

パパママが得意な分野で英語を使い、子どもと話そう

たとえばおやつに「何食べたいの?」と聞くときに、ちょっと英語で話しかけてみてください。

What sweets do you want to eat?

子どもが

Cookie!

と答えたら、

How many (cookies do you want to eat) ?

と数を聞いて、何枚食べたいかを英語の数字で答えてもらいます。クッキーの味の種類がいくつかあるなら、どれを選ぶか聞いてもいいですね。

What flavor?

Chocolate.

Chocolate! OK!

それくらいでいいんです。

そのほか、英語の歌をBGMで流したり、それを親子で歌ったり、歌いながらダンスしたり。パパママが好きなことに英語を取り入れ、英語が日常の中にある、という環境を作るといいですね。「英語の日常化」です!そして町を歩いているときに外国人に道を聞かれたら、親子とも英語で教えてあげられるくらいになれるといいな、と思います。

他の習い事や中学受験とも折り合いながら英語に親しもう

――習い事として英会話教室などに通うことについては、どう思いますか?

英語により親しむことができますし、話す機会も増えますし、学校とは違う友達もできるので、悪いことではありません。でも、無理強いはしないほうがいいです。小学校の時期に子どもがやりたい習い事はいろいろあるでしょう。サッカーがやりたい、バレエをやってみたいというのであれば、そちらを優先すればいいと思います。お子さまと相談することも大切ですね。

――また、中学受験の勉強が始まると、受験勉強以外の学習の時間がとりにくくなり、英語からも遠ざかってしまいがちではないでしょうか。

でも、日常会話でちょっと話したり歌を歌ったり、英語の絵本を読む、好きな動画を見るなどは時間もかからないですし楽しいことなので、子どもがいやがらなければ継続できれば良いと思います。子どもが好きなこと、自然に受け止められることを題材にすればいいのではないでしょうか。

それに、英語は「言葉」ですから、発音など全く抜けてしまうものでもないですし、中学に行けば授業としてしっかり学べるものですから、ちょっと中断したとしてもそんなに気にすることではありませんよ。

お子さんもパパママも、柔軟に楽しく、英語に関わっていただくといいですね。英語とのお付き合いは長く続くものなので、焦る必要はありません。

 

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記事監修

佐藤久美子|玉川大学大学院名誉教授

玉川大学大学院教育学研究科(教職専攻)名誉教授。(株)Study-plus代表取締役。津田塾大学学芸学部卒、同大学院文学研究科博士課程修了。ロンドン大学大学院博士課程留学。
NHKラジオ「基礎英語」講師。専門は英語教育、言語学。2012年度よりNHK Eテレ「えいごであそぼ」「えいごであそぼwith Orton」「えいごであそぼMeets the World」の総合指導、2017年度よりNHK Eテレ「エイゴビート」、2020年度より「エイゴビート2」の番組委員もつとめる。

 

取材・文/三輪 泉

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