「あさひやま行動展示」見学記 動物園は何を伝えられるのか?

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ところで旭山動物園の行動展示というと、なんとなく「人工物の活用」というイメージがあるかもしれません。確かに旭山動物園は、擬岩(展示用の人工岩石)や植栽などを駆使して見た目の景観を整える代わりに動物が遠くなったり隠れたりしてしまう……といったありようとは、まったく別の方向性を持っています。

「北地・旭川」で十数メートルの熱帯雨林の樹冠を枝渡りするオランウータンの行動の再現を可能にした「空中散歩」などは、人工物の活用の典型と言えるでしょう。見た目は鉄柱やロープでも、それはそびえたつ木や広がる枝の構造や機能を持っているのです。
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さきほどの写真で見事な空中散歩を披露してくれたのは右端の個体。2007/7/30生まれのモリト(オス)です。現在は母親のリアン、2015/2/5生まれの妹モカと一緒に暮らしています(※)。
※オランウータンのおとな個体は単独性なので、父親に当たるジャックは普段、母子とは別に過ごしています。
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2013/11/21に「きりん舎」とともに開設された「かば館」も、出逢いや観察の場をつくることに集中した、ある種シンプルな体裁の広々としたプールで、カバの足の裏まで見ながら、半水生のかれらの生活を実感することが出来ます。
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屋外プールではこんな場面に出会うこともあります。ちょっとした「遊び道具」が動物たちの退屈を減らしつつ、口を開け水しぶきを上げるカバの迫力を引き出したりもしてくれます。

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しかし、旭山動物園は必要があれば「自然物」を取り入れることを拒んでいるわけではありません。「オオカミの森」はいまは絶滅したものの、かつては北海道の山野を駆け回っていたエゾオオカミたちを思い起こすことを目指した施設です(※)。

ほかならぬ御当地の動物と自然をテーマとした施設なので、御覧の通り、植栽・地形、さらにせせらぎなども再現されています。

※飼育されているのは北アメリカ産のシンリンオオカミです。なお、ここでは詳しく述べませんが、「オオカミの森」は「エゾシカの森」と隣接しており、食うもの・食われるもののバランスで成り立っていた過去の生態系と、それが人の手で壊された(オオカミが絶滅した)ために生じているエゾシカの増えすぎによる害についても、わたしたち人間の反省のきっかけを与えてくれています。

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野生と同様にオオカミたちの群れでの行動も、さまざまなかたちで引き出されています。
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もうひとつ、行動を引き出し「すごさ」を実感させる展示は、珍種や人気動物と直接には関係ありません。動物園の「ふれあいコーナー」などでよく見かけるヤギですが、かれらはしっかりと岩肌を踏んで体を支える蹄や、すぐれたバランス能力・運動能力の持ち主です。

「こども牧場」で展開される、この展示では、通りかかる人たちが、思いもかけぬヤギの能力を見せつけられて、口々に「すごい」ということばを発します。これもまた、いかにも旭山動物園らしい行動展示であると思います。
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では、ささやかながらここまでのことを踏まえつつ、最後にもう一度「あざらし館」に戻ってみましょう。

「日本最北の動物園」では、冬には園内の雪を集めて投入することで屋外プールを「流氷の海」に変えることが出来ます(2013/1/22撮影)。これは見事な景観の再現であり、同時に氷の割れ目から息継ぎに顔を出すアザラシの「行動」の展示となっています。
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こちらはマリンウェイのある屋内から屋外プールを見上げた構図です。アザラシが抱え込もうとしている袋の中に何かが泳いでいます。ワカサギです。

アザラシはアシカ類とともにイヌやネコと同様の肉食動物の系統に属します。かれらは四本の足をヒレに変えることで、優れた「漁師」(魚食者)となりました。ここでの試みは、そんなアザラシがあれこれ工夫してワカサギを捕らえようとすることで、飼育下でのかれらの生活にリズムを与え、わたしたちにかれらの漁師としての本領を思い起こさせてくれるのです(※)。

※このようにしてワカサギを与える試みは、取材時(2016/9/9~11)には毎日行われていました。今後の継続については、アザラシたちの様子も見ながら検討していくとのことです。
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時にはマリンウェイの中まで「テイクアウト」です。

そして、この写真や記事の冒頭の写真を見ながら、わたしはあらためて考えます。動物園の展示では、限られたスペースや個々の動物種の本来の生息地とは異なる気候などから、やむを得ず人工物で環境を補うこともあるでしょう。

しかし、このマリンウェイのように、単なる「大きな水槽」以上にクリアにアザラシの垂直の動きを取り出して見せるものもあります。アザラシが自ら好んでマリンウェイを行き来するのですから、これは動物たちの本性にも適っているのでしょう。

そう考えると、旭山動物園の行動展示の魅力の核心は、生きた飼育個体とじっくりと向き合い、そこから見極めたかれら本来のありようを端的に示す行動を、動物たち自身にも快適なかたちでくっきりと切り出してみせた、そのエレガントさにあるのではないかと思われます。

そうやって、旭山動物園は「動物園は、生きた動物たちの展示において何が出来るのか・伝えられるのか」について、可能性に満ちた解答例を示してくれているのではないかと思うのです。

動物園に行きましょう。

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森由民:
もり・ゆうみん。日本で唯一の動物園ライター。千葉市動物公園勤務のかたわら全国の動物園を飛び回り、飼育員さんたちとの交流を図る。 著書に『ASAHIYAMA 動物園物語』(カドカワデジタルコミックス 本庄 敬・画)、『動物園のひみつ 展示の工夫から飼育員の仕事まで~楽しい調べ学習シリーズ』(PHP研究所)、『ひめちゃんとふたりのおかあさん~人間に育てられた子ゾウ』(フレーベル館)などがある。

※「行動展示」の理念については、下記のインタビューを参考にしました。
TALK ASAHIKAWA 旭川市旭山動物園 園長 坂東 元さんに聞く

旭川市旭山動物園
写真提供:森由民

初出:子育てカフェLogo

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