ダンボール造形作家・玉田多紀さん「えっ、これがダンボール?」と目を見張る作品はどう制作する?アーティストとして、母として、”クリエイティブ”を徹底追及

平塚市美術館で9月10日(日)まで「ダンボール物語」を開催中の、ダンボール造形作家・玉田多紀さん。
ダンボールアートを始めたきっかけや、制作秘話、そしてアーティストならではの子育てについて伺いました。

平塚市美術館で開催中の「ダンボール物語」って?

現在開催中の「ダンボール物語」

神奈川県・平塚市美術館で9月10日(日)まで開催中の「ダンボール物語」は、ダンボール造形作家・玉田多紀さんがダンボールで制作したリアルで迫力ある生き物たちや、ご自身のお子さんをモチーフにした蓮太郎シリーズなど立体作品130点を展示しています。

会場では展示を見ながら生き物の名前や数を当てたりするクイズや、実際に触ることのできる作品などもあり、大人はもちろん、子どもも気楽に楽しめる内容になっています。

そのためか訪れる人の年齢層は実に幅広く、中でも親子連れが多いことに驚きます。

このユニークなダンボールアートがどうやって生まれたのか、今回その秘密を玉田さんに伺いました。

幼少時の習いごとでこれだ!と思ったのが「絵画」だった

玉田多紀(たまだ・たき)さん

――幼少期はどんなことをしていましたか?

幼稚園の頃から習い事をたくさんさせてもらいました。親は選択肢を多くもたせたいと思って、いろいろ通わせてくれたんじゃないかなと。一般的なプールやピアノとかを習い、その中の1つに絵画教室もあったんです。例えばプールだとクリアしていかないといけない級とかがあって、その先にはもっとできる人がいて、自分がそこまで行くには時間がかかるという感じだったんですが、絵は違いました。

自由に楽しんで描いたものが評価される。そこがとても良かった。私は褒められて伸びるタイプなんですよ、確実に(笑)。それでハマったのが絵画教室だったんです。

――じゃあもう幼稚園の頃から美術が好きになったんですね。

そうですね、絵画教室に行き始めた時から好きになりました。やればやるほど上手というか得意になり、11歳頃からは油絵を習い始めました。

――美術系に進学しようと意識したのはいつ頃でしょうか?

絵描きになるにはどうしたらいいのかと、小学生の頃親に聞いたところ、美術系の学校があると知りました。そこで高校に美術科がある中・高校一貫の学校を受験し、入学。そこから美術漬けの毎日を送りました。

――1度も絵が嫌になることはなかったんですか?

浪人して予備校に行ったときに、美大を目指す多くの上手い人たちを見て、高校の美術科なんて狭い世界だ、自分が井の中の蛙だと実感しました。

そこで考え方も少し変わると同時に、好きだけでなく受験用の絵を描くこと、合格するための絵を描かなきゃいけないことを教えられ、初めて絵を描くことが「楽しくない」気持ちになりました。

結果、一浪して合格はしたものの描きたい意欲が消えてしまったんです。ただ大学に入って知った美術の世界はとても楽しくて、絵だけでなく舞台だったり音楽だったり、そういったものを通して人との交流の中から創作が生まれることが面白いと思いました。

――ダンボールアートをはじめたのは、その辺がきっかけですか?

美大に入ってから自分を表現できることを、油絵以外で何かないかと考えていて大学3年生くらいの時に始めたのが、ダンボールで作る造形だったんです。

立体は重いし場所とるし、素材も高かったりと大変なんですが、ダンボールは軽くていくらでもあって失敗できる、そこが制作する上で気持ちが楽でした。

ただ自分がいた科が ”平面” なので、卒業まではダンボールを使って平面的に制作し、卒業後に今のような立体造形を作るようになりました。

――今のダンボールアートはどうやって作っているんですか?

ダンボールを手や全身の力で、揉んで柔らかくしていきます。もうダンボールと格闘するのでプロレスみたいです(笑)   それで形を作っていき、その上に薄く剥がしたダンボールをボンドで貼っていきます。そうすることで強度が出てくるんです。

展示されている、玉田さんの制作の様子。

――この技法はどのように見つけたんですか?

やってみながらですね。はじめた当時(約20年位前)はネット検索とかもなかったし、とにかくやってみて確かめてみるみたいな感じでした。

――あえて立体に色はつけてないんですよね?

「形」を見せたかったんですよね。ダンボールの形とか雰囲気、裏面はまた色が少し違うし、素材によっても赤っぽいダンボールや黄色っぽいダンボールなどがあります。そういった違いが見えてきたときに、やっぱり色はいらないかなって。

――ダンボールアートの一番の魅力を教えてください。

「すぐできる」。これは素材がすぐ手に入る身近なものという意味と、油絵のように乾かして長く待ったりする時間が必要ないからです。よし作るぞってなったときにすぐできる。それって実は結構重要で、作品がたくさんできるし。仕事にするならなおさら、1個に3年とかかけられないですしね(笑)。

今回展示したものだと、だいたいクジラで3か月、オランウータンで1か月くらいの制作期間です。

「絶滅危惧種の物語」。中央がオランウータン。

――作品は生き物が多いですね。

モチーフは基本動物ですね。でも表現しているのは人の生態や性質です。それを直接人間で作ってしまうと生々しいので、動物に代弁してもらっています。

――でも今回の展示のラストにある「蓮太郎」シリーズは珍しく人間なんですよね

蓮太郎は息子がモデルなので、他の生き物では代弁できないので人間と植物にしました。実はこの蓮太郎のような ”キモカワ” が私の本質。「変な人」って言われるのが気持ちいいんです(笑)

ダンボール物語でも展示されている「蓮太郎物語」。お子さんが生まれてからの成長を表現

どの会場も大盛況 玉田さんのワークショップの狙いとは?

――ワークショップに参加したお子さんたちの反応はどうですか?

ワークショップに来るお子さんは比較的工作が好きな子たちが来るんです。でも家でやる工作とは全く違う。私のワークショップで使うのはダンボールとボンドだけ。カッターやテープは使わないということにまず驚きます。2時間は長いって言われますが全然長くない。むしろ足りないくらいなんですよ。

子ども達は夢中になってやってますよ。最後に時間がなくなって完成できずに泣く子もいます。

私の制作と同じ方法を教えるから2時間は必要。私は展示作品と同じ制作方法がどんなものかを知ってほしいんです。作品を作ってほしいと言うよりはむしろ、同じ方法を経験した上で、作品を見てほしいということ。

「これどのくらい時間がかかるの?」と、作品を見る目がガラッと変わるんです。例えば小さなおたまじゃくしなら自分でも作れそう、逆にこれはどうやって作ってるんだろう?そんな制作を体験することで、展示をクリエイティブな目線で見ることができる。それが違う展覧会に行ったときにもいきる。

――作ることだけが目的ではないんですね

造形方法を知って驚いてほしいというのもありますが、作品を鑑賞できる目を養う、そういったところにも重きを置いてやっています。

今回の展示の中で息子さんが一番好きだという「クジラ」。頭と尻尾をどのくらい離すかで、大きさが変わるところが楽しいんだそう。

最近のワークショップって言葉が一人歩きしている感じがあって、講師がいなくてキットを組み立てるだけみたいなものもあったりしますが、講師がいて、目的があって、新しいものを生み出すのがワークショップだと私は思うんです。

最後に子どもたちの作ったものを並べて、1つ1つアーティストの作品を見るように感想を言っていきます。「この歪みは〇〇を表してるね」「この猫は動き出そうとしてるね」など感想を伝えることで、子ども達も作品の見方が変わってくると思います。

自分も本気で楽しむ、クリエイティブな ”玉田流” 子育て

――今6歳のお子さんがいるそうですが、子育てで気をつけていることはありますか?

私の子育ては「いかにクリエイティブか」が基本で、何をするにもそこに軸がないとと思っています。例えばおもちゃにしても、それがクリエイティブかどうかが判断基準。1回で終わるものでなく、何回も試行錯誤できるものを買うようにしました。買わないで作れると思ったおもちゃは、私が手作りしました。

手作りおままごとセット

玉田さん手作りのキッチンセット。ケースにビニールテープを貼ったガス台や、フェルトで作った餃子、ペットボトルの蓋で作ったたこ焼きなど、アイデア満載!

保育園の汚れもの入れが日々の連絡帳に

保育園に持たせる「汚れもの」を入れるビニールに、お子さんの毎日の様子を絵日記風に描いていたという力作! 園の先生も見るのを楽しみにしてくれていたそう。

 

――子育てとアーティスト活動の両立についてはどう考えていますか?

どちらも崩壊させられないものですが、子育てと仕事の両立って後ろめたさが大きいじゃないですか。子どもを保育園に預けてまでやる仕事なのかなって。特に私の仕事は活動って感じで自分のためのことしかやらないし。そのために子どもとの時間を削ってるとも感じました。でも両方やらないとうまくいかないなって思い始めて。

 “蓮太郎” は、子育てをやってなければできなかった作品だと思って、もう子育てが活動の一部だと思いました。もうこの子を面白く育てることが作品みたいになっていて。

だから両方が同時進行になっている、そう思えてから気持ちも楽になってうまく両立できていると思います。

子どもにとっても保育園はいろんなことが経験できるから行かせることにメリットもあると思うし、保育園が子どもにとって楽しい場所にもなっています。

何より子育てを始めてから人生で一番、早寝早起きの規則正しい生活になって、体も頭もスッキリ、ラクになりました!

本気砂遊び

砂遊びも本気で!お子さんと作った超大作。その大きさにびっくり!

子ども部屋にあるご主人がつくったクライミングウォール!

ご主人がつくったクライミングウォール。パーツは好きな位置に変えることが出来る仕組み。

お子さんが生まれてからご主人が作ったダイニングテーブル。お子さんの手形がかわいい。

お子さんの手形をダイニングテーブルに。子どもの成長を感じられる。

玉田さんの子育てとアーティスト活動にはクリエイティブがあふれていました。おうちにも、楽しく過ごすヒントがいっぱい。子育てを楽しむコツをたくさん教えていただきました!

ぜひ平塚美術館に玉田さんの作品を観に行ってみてください。家族で楽しめる展示がたくさんありますよ。

* * * * *

玉田多紀(たまだ・たき)  1983年兵庫県生

https://www.instagram.com/tamadataki/?hl=ja

多摩美術大学造形表現学部造形学科卒業後、古紙ダンボールを使用し、生き物の造形美や性質をユニークに捉えた立体作品を制作。国内外の展覧会やウィンドウディスプレイ、TVメディアや動画配信、ワークショップなど幅広く活動中。

造形作家 玉田多紀 ダンボール物語

  • 会期   2023年6月24日(土曜日)~9月10日(日曜日)
  • 開催日数 68日
  • 休館日  毎週月曜日
  • 開館時間 9時30分~17時(入場は16時30分まで)
  • 主催   平塚市美術館
  • 協賛   神奈川中央交通株式会社
  • 助成   公益財団法人朝日新聞文化財団
  • 会場   平塚市美術館 展示室1
  • 観覧料  一般700円(560円)、高大生500円(400円)
    公式サイト

※( )内は団体料金
※中学生以下、毎週土曜日の高校生は無料
※各種障がい者手帳の交付をうけた方と付添1名は無料
※65歳以上で、平塚市民の方は無料、市外在住者は団体料金

展示会情報はこちらの記事でも紹介しています。

驚愕!これがダンボールで出来てるの⁉ 平塚市美術館「ダンボール物語」にユニーク立体動物が勢ぞろい!
ダンボール造形作家の玉田多紀さんってどんな人? 玉田多紀(たまだたき、1983年兵庫県生) 多摩美術大学造形表現学部造形学科...

取材・文/苗代みほ 撮影/五十嵐美弥

編集部おすすめ

関連記事