「リップ・ヴァン・ウィンクル」はアメリカ版浦島太郎? 200年前のSFともいわれる物語のあらすじをご紹介【親子で学ぶ世界名作】

日本では「アメリカ版浦島太郎」と呼ばれることもある『リップ・ヴァン・ウィンクル』という短編小説をご存じですか? 今回は、200年も前に書かれたお話でありながら、SF的な読みどころがある本作の背景やあらすじ、作者についてを中心に解説していきます。

リップ・ヴァン・ウィンクルとは

まずは、本作が書かれた背景や本作の作者についてを押さえておきましょう。

ワシントン・アーヴィングによる短編小説

ジョン・クィダーによるリップ・ヴァン・ウィンクルの挿絵(1829年)Wikimedia Commons(PD)

『リップ・ヴァン・ウィンクル(Rip Van Winkle)』は、1819年にアメリカの小説家ワシントン・アーヴィング(Washington Irving)によって発表された短編小説です。

1819年から1820年に掛けて、合計2冊の分冊形式で刊行された短編集『スケッチ・ブック』1冊目(1819年6月23日刊行)に収録されました。アメリカ最初期の短編小説のひとつとして知られ、ワシントン・アーヴィングを一躍有名にした作品といわれています。

作者のワシントン・アーヴィングはどんな人?

ワシントン・アーヴィング Wikimedia Commons(PD)

ワシントン・アーヴィング(1783年4月3日 – 1859年11月28日)は、19世紀前半に活躍したアメリカ合衆国の作家です。

古いオランダ市民の生活を風刺的に描写した『ニューヨーク史』で1809年にデビューし、1819年にはスケッチ風の物語や神話伝説風の世界をメインに描いた短編集『スケッチ・ブック』で有名になります。その後はアルハンブラ宮殿に関する旅行記・伝説集『アルハンブラ物語』や、『ジョージ・ワシントンの生涯』など、自身の旅行記や史料に基づいた歴史文化に関する文学作品も執筆しました。

『リップ・ヴァン・ウィンクル』でもまた、アメリカ独立戦争前のニューヨークの暮らしと「かかあ天下」の家庭が重ねられており、ワシントン・アーヴィングの歴史文化への関心と社会風刺的な作風がうかがえます。

「アメリカ版浦島太郎」とも呼ばれるSF的作品

ワシントン・アーヴィングの代表作のひとつとも言える『リップ・ヴァン・ウィンクル』は、眠って目を覚ますと20年もの年月が経っていた……というお話。タイムスリップともいえるような時間のズレを描いていることから、日本では「アメリカ版浦島太郎」とも呼ばれています。

ちなみに、SF作品に頻出する時間がズレる現象を、日本語では『浦島太郎』にちなんで「ウラシマ現象」と呼びますが、英語では『リップ・ヴァン・ウィンクル』にちなんで「リップ・ヴァン・ウィンクル現象」と呼ぶのだとか。

あらすじ

ここからは、さっそく『リップ・ヴァン・ウィンクル』のあらすじを見ていきましょう。

最初の舞台は大英帝国の領土であった時代のニューヨーク

舞台は、現在ではニューヨークになっている、ハドソン河の西方に位置するキャッツキル山脈のふもとの村。この地方が大英帝国の領土であった時代、この村にはオランダ移民たちが住み、建築物もオランダから取り寄せられたレンガで造られた、オランダ風のものが建ち並んでいました。

主人公リップ・ヴァン・ウィンクルは山へ

当時、その一軒に住んでいたのが心優しいリップ・ヴァン・ウィンクルという男。リップは穏やかな人柄から周囲の人々からもよく愛されましたが、横暴な妻に虐げられて窮屈な思いをしながら暮らしていました。

ある日、リップは愛犬のウルフを連れて猟に出ると、いつの間にか山の最も高い峰を登っていました。そこで出会った見ず知らずの老人男性の荷物を運ぶのを手伝って、さらに山の奥へと進んで行くと、不思議な男性たちが集う奇妙な円形劇場に辿り着きます。そこでたらふく酒を飲んでしまったリップは、気がつけば深い眠りについていました。

変わり果てた街

目を覚ますと、リップの前には円形劇場も、愛犬も、持っていた鳥打ち銃もなく、代わりにあるのは緑あふれる小さな丘と火縄銃だけ。奇妙に思ったリップは山を降りて村へと帰ります。しかし、村の様子はすっかり変わり果てていて、オランダ風の街並みには星条旗が飾られ、自分が住んでいた家も朽ち果てていました。

その場にいる人間に聞くと、リップ・ヴァン・ウィンクルという人物は20年前に銃を持って家を出たきり帰ってこないと言います。妻はすでに亡くなり、娘は大人になって子を産んでおり、気づけば自分自身の姿もまた、昨日家を出たときよりもずっと年をとっていました。

そこでようやくリップは、自分が一夜にして、20年もの年月をこえてきてしまったことを悟ります。

リップ・ヴァン・ウィンクルのその後

世の中は、アメリカ独立戦争後の世界。リップはアメリカ独立戦争前の世の中を知る存在として、周りから慕われるようになりました。

アメリカ合衆国の自由を保障された一市民となったリップは、同時に専制政治の脅威のような存在であった妻からも解放され、自らに訪れた自由に歓喜して暮らしました。

登場人物

ニューヨーク州アービントンにあるリップ・ヴァン・ウィンクルの像  Photo by Daryl Samuel, CC BY-SA 3.0, Wikimedia Commons

本作に登場する主なキャラクターたちも簡単にご紹介します。

リップ・ヴァン・ウィンクル

本作の主人公。穏やかで周囲からも愛され慕われるが、横暴な妻に虐げられて暮らしている。

リップ・ヴァン・ウィンクルの妻。横暴で、リップ・ヴァン・ウィンクルの自由を奪う。

ウルフ

リップ・ヴァン・ウィンクルの愛犬。

見知らぬ老人

リップ・ヴァン・ウィンクルが山で出会う不思議な老人。大きな樽を運ぶのを手伝ってほしいとリップに頼む。

リップ・ヴァン・ウィンクルの娘。20年の年月が経ち、母となる。

リップ・ヴァン・ウィンクルを読むなら

最後に、『リップ・ヴァン・ウィンクル』を読む際におすすめの書籍をご紹介いたします。原作の雰囲気がそのまま味わえる短編集から、お子さんと楽しめる絵本まで計3種類のバージョンを集めました。

スケッチ・ブック(上) (岩波文庫)

『リップ・ヴァン・ウィンクル』が収録された短編集『スケッチ・ブック』の完訳本。ほか、英国の風俗習慣をスケッチ的に描いた、短編小説あり、エッセイありの「スケッチブック(雑記帳)」的な作品です。
上巻には19篇、上下巻合わせて34篇が収録されています。ワシントン・アーヴィングのさまざまな文章が読みたい方にぴったり。

リップ・ヴァン・ウィンクル (望林堂完訳文庫)

短編集の中から『リップ・ヴァン・ウィンクル』だけを抜粋した新訳&完訳のkindle本。ルビ付き、注付きで読みやすいほか、イギリスの挿絵画家であるアーサー・ラッカムのカラー&モノクロ図版52点を見ることができます。とりあえず『リップ・ヴァン・ウィンクル』だけ読みたい、という方におすすめです。

ワシントン・アーヴィングのリップ・ヴァン・ウィンクル(小鳥遊書房)

『リップ・ヴァン・ウィンクル』のオールカラーイラスト&総ルビによる絵本版。美しい大判のイラストとともに、『リップ・ヴァン・ウィンクル』の大筋を知ることができます。日本の浦島太郎の話を知ってるお子さんなら、外国にも似た話があることを面白がれるはず。

“Rip Van Winkle”は「時代遅れの人」「眠ってばかりいる人」の米英語として使われることも

今回は、ワシントン・アーヴィングによる短編作品『リップ・ヴァン・ウィンクル』が書かれた背景やあらすじ、作家についてを中心にお伝えしてきました。

アメリカでは、”Rip Van Winkle(リップ・ヴァン・ウィンクル)”という単語が「時代遅れの人」「眠ってばかりいる人」の意味で使われるほど、広く浸透している作品です。ストーリーも面白く、教養としても知っておいて損はありません。ぜひ絵本版などを手に取って、お子さんと一緒に読んでみては。

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文・構成/羽吹理美

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