小学生でも起こるスポーツ障害。「やりすぎ」で子どもの成長を阻害していませんか?【スポーツドクター監修】

スポーツの秋。うちの子にも何かスポーツをさせたいと思っている親は多いはず。でも「やらせすぎるのは問題」と話すのは、子どものスポーツに詳しい早稲田大学教授でありスポーツドクターの鳥居 俊先生。やらせすぎると、どんな問題が起こるのでしょうか。子どもの成長を妨げない適正なやり方とは?

子どもの体には骨が伸びる「成長軟骨層」があります

「子どもの体は大人のミニチュアではない」と小児科の教科書に書いてあるように、子どもの体は大人になるための成長中の体であり、大人とは全く違います。

最も大きな違いは「成長軟骨層」の存在です。成長軟骨層とは、成長中の子どもの骨の端にある骨を伸ばす組織であり、成長軟骨層で骨の細胞分裂が行われて骨が伸びると、身長も伸びていきます。

矢印がさしているところにうっすらと見える部分が成長軟骨層。細い線が骨端線。鳥居俊氏提供

成長軟骨層をレントゲンで撮ると、黒い線上の細いすき間が見えます。これが骨端線(成長軟骨板、成長線)と呼ばれるものですが、成長が止まる間際になると、骨端線がなくなります。骨端線がなくなると、骨の長さは変わらなくなり、成長が終わります。

過度な負荷で抑制される「骨の伸び」。利き腕が5cmも短くなった野球少年の例も

骨端線が消滅する時期は、骨ごとに違いがあり、末梢ほど早く、中枢側は遅いといわれます。すねの骨の上部など末梢であれば、男子は15、16歳、女子は13、14歳、骨盤や肩甲骨、鎖骨といった中枢側は、大学生になってから閉じることも少なくありません。

成長中の子どもにスポーツをさせる保護者や指導者の方に、ぜひ知っておいてほしいのは、この成長軟骨層自体はやわらかい組織で、適度な力が加われば骨の伸びが促進されるけれど、過度な負荷がかかると骨の伸びが抑制されるということです。

たとえばテニス選手はラケットを持つ側の腕の骨が、反対側より長くなっていることが報告されている一方、成長軟骨損傷を起こした野球少年の利き腕の骨が反対側より4,5㎝も短くなったという報告もあります。

こうした差は、1,2㎝であれば日常生活への影響はありませんが、3㎝以上になると足なら歩き方がおかしい、片側に負担が大きくなるといわれています。

腕だと、腕立て伏せでバランスがとれない、長袖のシャツの直しが必要になるといった程度で、外見以外の影響は少ないかもしれません。

サッカー少年に多い、膝の成長軟骨層に支障がでる「オスグッド症」

 

また成長軟骨層は、筋肉の収縮によって変形や痛みを起こすことがあります。その典型例が、膝のオスグッド症と呼ばれる骨端症です。

大腿骨やすねの骨の成長が活発な時期には、大腿四頭筋(太ももの前側の筋群)の力が、膝蓋腱(ひざの皿とすねを結ぶ腱)を介して成長軟骨層を引っ張った結果、成長軟骨層が傷つき、運動中や運動後に痛みが出たり、成長軟骨層の上の骨が持ち上がり見た目にも骨が出っ張って見えるようになります。その状態がオスグッド病と呼ばれています。

一度出っ張ったら引っ込みませんので、正座をすると辛い、ひざをついて倒れると痛い、といったことが起こります。

オスグッド症が起こりやすい競技は、大腿四頭筋をよく使うサッカーが圧倒的に多いですね。スプリント走やジャンプ着地、方向転換動作なども大腿四頭筋に働くバスケットボールでもよく見られます。

オスグッド症は、すねの骨の上部の骨端線がなくなる前に発生します。最も発生しやすいのが、男子は12、13歳、女子は10~12歳あたり。その時期をこえると、発生は明らかに減ります。

ですから中学校に入って部活で練習量が増えたり、練習の強度が上がったりしたときに、骨端線が消滅する前で成長軟骨層の強度が上がっていなければ、当然ながら壊れてしまいます。もちろん一撃で壊れてしまうものではなく、日々の練習の結果、少しずつ痛み、知らないうちに盛り上がって痛みがひどくなるといった具合です。

小学校高学年に多いスポーツの「オーバーワーク」。許容量を超えないために週2日の休みを

どんなスポーツであっても、量が多すぎたり強度が高すぎたり、許容量を超えていれば、身体面だけでなく、精神面にもストレスがかかり、成長に悪影響を及ぼします。

特に小学校高学年になると、野球やサッカーなど特定の種目に集中し、学校がある時期はともかく、夏休みなど長期休みになると練習時間が長くなり、そこに試合がはさまれると、子どもは十分に休めず、オーバーワークになる可能性があります。

特に野球は、練習メニューの多さから長時間になりがち。いくら途中で休憩をしても、長時間グラウンドにいること自体、オーバーワークになります。また緊張状態をずっと強いられているため、自律神経系や内分泌系に対してストレスがかかり、それが成長障害につながることは十分に考えられます。

では、どの程度の運動が成長に影響を及ぼすのか、けがやオーバーワークの症状の発生率はどのぐらいか、それは休みの日数から知ることができます。

日本陸上競技連盟の調査によると「週2日」は休まなければ、その発生率は減らないことがわかっています。「週1回休み」と「休みなし」では、あまり変わらない。週2回の休みで初めて明らかな差が出てくるのです。

週2回というと、そんなに休んでいいのだろうか、と思われるかもしれませんが、数字がそう示している限り、それを信じるしかありません。しかしながら実際そこまで休んでいるクラブチームや部活は、ほとんどないのではないでしょうか。

指導者も実践できていない実態がある

私自身、講習会や研修会などで「過剰な運動は成長抑制を引き起こす可能性がある」という話をしますが、それを聞いた指導者の方はそうだなと思っていながら、実際に自分の指導している子どもたちの練習は、過度になっていないと思っているというケースが少なくありません。過度になっていないと疑いを持たずにいると、許容量を超えている可能性は高く、これには危機感を感じています。

運動量の許容量は、子どもの様子をよく観察して親が見極めることが大切です

子どもにとって許容量を超えているかどうかを親が見極めるには、まず子どもの様子を観察することが大切です。帰ってからぐったりして、何もやりたがらない、食欲も落ちておやつも食事もとらないのは、一つのサインです。

また、特定の部位を使いたがらなければ、けがや痛みの可能性があります。利き腕のひじの痛みなら、そちらの腕を使おうとしない、オスグッドが右ひざに起こっていたら、右側から立ち上がるのを避ける、見ていたら、何か動きがおかしいということがわかると思います。本人も無意識にかばうこともあるので、本人が訴える前に親がわかることもあるでしょうね。

わが子が許容量を超えていると親が感じたら、親は学校や指導者に今の子どもの状態について話して、休ませたほうがいいでしょう。

野球やサッカーなど集団競技は、一人だけ休むには休みにくいと子ども自身が休みたがらないことがありますが、親は子どもに対して、ここで休まないともっと痛くなる可能性もあるし、長引く可能性もある、それでも今頑張らなければいけないのかという話をするしかないでしょうね。

親が果たせなかった夢を子どもに託すあまり、子どもに無理をさせてしまうことも

しかしながら、スポーツ外来で診察していると「いつから練習できますか」「トライアルまでに完治させてください」など、子どものけがをいたわるのではなく、競技で活躍することへの期待を口にする親がいて驚かされます。

親自身が果たせなかった夢を子どもに託すあまり、激励のつもりが過度な期待になってしまうことがあるのでしょうね。

よくあるのが、中学校3年生で強豪校に入学するためには、トライアルにパスしなければならないから、それに間に合わせたいというケース。とはいえ、いくら「早く治してくれ」と言われても通常より早く治るようにさせる方法はありません。そのときに治っていなければ無理なわけですから、別の方法を考えてもらったり、その学校に今は治療中で運動ができないと話してもらったりするよう保護者に説明します。

将来性のあるお子さんなら、逆に学校側が1カ月後にどうですか、という提案をしてくれる可能性もあります。ですから。トライアルの日にけがが残っていても、何が何でもやらなくてはいけないと子どもを追い込むことはするべきではない、私のほうではそういった話をしています。

望ましいのは、体のいろいろな部位を使う運動をすること

日本の子どものスポーツは、サッカーはサッカーのクラブ、野球は野球のクラブ、とその種目ごとに練習することが多いですが、あまり同じ種目ばかりやっていると、同じ部位に負担をかけるのみならず、別の部位を使わないことから、そこが発達しないということが起こり得ます。たとえば野球は腕を使うことが多いですが、サッカーはあまり腕を使いません。キーパーかスローインで投げるぐらいです。

スポーツに何を求めるかにもよりますが、体全体をたくましくしたいなら、瞬発的な動きや持久的な動きをすべて織り交ぜて、いろいろな部位にまんべんなく負荷をかけるのがベストです。

小中学校の体力テストで低下し続けている「ボール投げ種目」

ただし今、小・中学校の体力テストで、ずっと低下しているのがボール投げ種目です。野球以外の種目で投げる動作があまりないこと、公園でボール投げが禁止されていることなどから、投げる動作をあまりしないため、投げる能力が養われてこないわけです。

ですから家庭でも、やわらかいボールでも軽いボールでもよいので、意識して親子で投げる動作をしてほしいですね。

どんなスポーツもやりすぎるとマイナスになることを認識してください

 

いずれにしても保護者や指導者の方は「どんなスポーツも、やりすぎるとマイナスになる」と認識してください。楽しく、痛くない範囲でやるのが理想です。疲れた、痛いという思いが続くようなやり方は、心も体も疲れてしまい成長を抑えてしまいます。

成長障害が残るけがをすれば、腕の長さが変わることもありますが、やり切れなかったという挫折感を感じることもあります。スポーツや運動に対してネガティブなイメージができると、運動嫌いになってしまい、運動習慣のないまま一生涯を過ごすこともあり得ます。

その子が健やかな人生を送るためにも、子ども時代にスポーツをやり過ぎて追い込むことのないようなあり方を、保護者も指導者も考えていなければいけないだろうと思います。

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記事監修

鳥居 俊(とりい・すぐる)先生|早稲田大学スポーツ科学学術院教授
東京大学医学部卒業。専門分野は、スポーツ整形外科、発育発達(成長)学。日本臨床スポーツ医学会理事・学術委員長、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本陸上競技連盟医事委員。「子どもたちの健やかな成長を育む」がコンセプトのフットウェア『イフミ―』の開発監修者でもある。

取材・構成/池田純子

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