【ジャルジャル・福徳秀介さん】帰国子女だった小学生時代、大先輩芸人の小説に衝撃を受けた思春期を経て「僕なりの面白さがあると信じて」短編集に挑戦!

ジャルジャル・福徳秀介さん

シュールで中毒性のあるコントで、世代を問わず愛され続けているお笑いコンビ、ジャルジャルの福徳秀介さん。最近ではNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に出演するなど様々な活躍を見せています。
そんな彼が新たに発売する短編集『しっぽの殻破り』には、甘酸っぱくてほろ苦い青春が詰まった物語がたっぷり。今作を手掛けた彼が、いったいどんな幼少期を送ってきたのか、教えてもらいました。

文化の違いに戸惑うも、同じ境遇の帰国子女の友人と絆を深めた子ども時代

――福徳さんは、どんな学生さんでしたか?

福徳 友達は少ないけど、絆は強いタイプでしたね。

――小学生の頃からですか?

福徳 僕は小さなころにアメリカに住んでいて、小学校に入学するタイミングで日本に戻ってきたんです。その時に、小さいながらも、アメリカと日本の違いに戸惑うことが多かったんですよね。
そんな時、同じ帰国子女の友達と出会い、すぐに意気投合して、仲良くなることが出来ました。

――どんな違いに戸惑いましたか?

福徳 アメリカではビックスマイルが当たり前だったので、小学校の入学式で集合写真を撮るときに、思いっきり笑ったんです。そしたらカメラマンさんに「ちょっと笑わないでね」と言われ、ビックリして!  でもたしかに、集合写真ってみんな真顔ですよね(笑)。

ジャルジャル・福徳秀介さん

――あはは。その帰国子女のお友達とはどんな子だったのでしょうか。

福徳 映画がものすごく好きで、小さなころから「黒澤(明)を超える」と言っていたんです。さらに、世間に対してずっと不平不満を言っているような子だったので、普段、何も考えずに生きていた僕にとっては、その子が興味深くて仕方がなかったんですよね。
そういえば、小2の時に、彼が一度道路にはみ出して、車に轢かれそうになったことがあったんです。完全にこちらが悪いのに、その友達が、運転手に向かって「どこ見てんだ!」って叫んだんですよ! それを見て、「コイツはすごい」と思ったんです。
それからは彼に対して、尊敬の気持ちも芽生えていたように感じます。彼とは中学に上がってもよく遊んでいました。

――いま、そのお友達は映画関係の仕事につかれているんですか?

福徳 いや、その彼は学校の先生をしています。どんな授業をしているのか、想像がつきません(笑)。

周りのことも自分のことも常に冷静に見ていた青春時代

中立的立場だったからこそ、いろんな人間を描ける

――福徳さんが執筆した『しっぽの殻破り』には、キラキラした青春も描かれていますが、そのような青春を送っていたのでしょうか。

福徳 僕は普通の学生で、キラキラしていなければ、ひねくれたりもしていなかったので、純粋にキラキラした人たちを見て“楽しそうだな”と思っていたんです。もちろん、静かな子たちも見ていましたし、その子たちを観察しては“面白そうだな”と思うことも。僕はその中間の位置にいたからこそ、いろんな主人公を描くことが出来たのかもしれません。

――思春期の女の子目線からのお話もすごく素敵に描かれているなと思いました。

福徳 ありがとうございます。よく、青春は終わってから気づくと言われていますが、僕は思春期の時も、ちゃんと“今が思春期やな”って思いながら過ごしていたんです。なので、むしゃくしゃしたり、イライラしたり、思春期特有の感情の揺れがあった時も、“まぁ思春期やし”と思ってやり過ごしていて(笑)。

ジャルジャル・福徳秀介さん

――何事も客観視できるタイプですか?

福徳 そうですね。いい意味でも悪い意味でも、“あの人はいま、こう思っているんだろうな”って思うことがあるんです。それと同時に“今これを言ったら絶対怒られるんだろうな”という言葉も浮かんでくるので、必死に脳内のもう一人の僕が言わないように押さえつけています(笑)。

ウッチャンの自伝的青春小説に刺激を受けた

――あはは。そんな思春期真っ盛りな時に、読んで影響を受けた本はありましたか?

福徳 中3の時に、内村光良さんの『アキオが走る』を読んだんですが、これが面白すぎて衝撃を受け、“これを超える本はどこにあるんだ⁉”と本を探す旅に出たんです。そこからいろんな本を読み漁ったのですが、いまだにその本を超える本には出会っていないですね。

――ご本人には伝えましたか?

福徳 はい。「恥ずかしいからやめてよ~!」って言っていました(笑)。

ジャルジャル・福徳秀介さん

――最初に衝撃を受けたのが芸人さんの本というのも運命的ですね。となると、芸人となり、小説の執筆依頼が来た時はうれしかったのではないでしょうか。

福徳 嬉しかったですね。ただ、当たり前なんですが、僕がいくら面白いと思いながら書いていても、プロの小説家さんの本を読むと、その重厚な面白さにビックリするんです。そこで自信を無くすことも多いですが、僕なりの面白さがあると信じて、書き続けています。

福徳さんから子どもたちへメッセージ「今を存分に生きて」

――さて、いま福徳さんが子育て世代や、子どもたちに対して思うことはどんなことですか?

福徳 情報量が多いのはすごく羨ましいですね。僕が小さい時に、ドラえもんが喋るおもちゃをCMで見て、その年のサンタさんからは絶対にこれが欲しいと思ったんです。でも、商品名がわからなかったので、その日以降、テレビにかじりついてCMが流れるのを待ったんです。結果として出会えなかったんですが、必死にそのおもちゃの特徴を親に伝えていたので、奇跡的にサンタさんからそのおもちゃをもらうことが出来ました。きっと親も、サンタさんにその特徴を必死に伝えてくれていたんだと思います(笑)。

ジャルジャル・福徳秀介さん

――今を生きる子どもに伝えたいことはありますか?

福徳 今の時代を存分に生きてほしいですね。そこで、僕の本に出会ってくれたらすごく嬉しいですし、親御さんと一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。

お笑いは飽きることがない。今だからこそやりたいネタがたくさんある!

――さて、年末にかけて、単独ライブが開催されますね。

福徳 はい。毎年新ネタコントライブを恒例にやっているんですが、不思議なもので、お笑いに関してはまったく飽きることがないんです。20代の頃は、35歳くらいになったらネタも尽きるんだろうなって思っていたら、今だからこそおもしろいこともたくさん増えてきて。いま、あらためてネタを作るのが楽しいんです。

ジャルジャル・福徳秀介さん

――おふたりの関係性はどう変化しましたか?

福徳 仲は良いんですが、プライベートなことは話さないし、会った時の挨拶もないんですよ。ぬるっと集まって、ネタ作りを始めるので、周りから見たら絶対に変な人達だなって思われると思います。僕たちにとっては普通なんですけどね(笑)。

――お互いの近況はあまり知らないんですか?

福徳 それが、お互いの母親が僕たちが高校時代からのママ友なので、母を通して知るんです(笑)。ライブも基本的に両方の家族それぞれが見に来てくれるんですが、帰りにみんなでご飯を食べて帰るときもあるらしくて。どちらの家族も本当に普通の家族なので、学校の発表会を見る感覚で、いまだに子どもの晴れ舞台を見に来る感覚なのかもしれません(笑)。

――素敵な関係ですね。では最後に、子育て中のママやパパにメッセージをお願いします。

福徳 短編集である『しっぽの殻破り』は、ちょっとずつ読めるので、子育て中の息抜きにちょうどいい本になったんじゃないかなと思っています。たまに思い出して読んでもらえたら嬉しいです。

ジャルジャル・福徳秀介さん

 

Amazon.co.jp: しっぽの殻破り : 福徳 秀介: 本
著 福徳秀介小学館定価 1,650円(税込)

光る感性と絶妙な言葉で青春をえがく短編集
キングオブコント2020優勝のジャルジャルの福徳秀介は、知る人ぞ知る文芸の名手。書籍はこれまでに、自伝的長編小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』や、絵本『まくらのまーくん』『なかよしっぱな』などを発表しているが、今回、短編小説にてその文才を発揮。
ふとした瞬間をユニークな視点で切り取り、小さな感情の波を小気味よく言語化し、物語のゴールは爽快に駆け抜ける、粒選りの短編ばかり。紙カバーの裏には、特典小説も。

◆プロフィール|福徳秀介

1983年生まれ。兵庫県出身。小学校まで5年間ロサンゼルスで過ごし、帰国。同じ高校だった後藤淳平と出会い、2002年にジャルジャルを結成。芸人として活躍をする中、作家としても活動をはじめ、『まくらのまーくん』では、第14回タリーズピクチャーブックアワード 絵本部門で大賞を受賞。2020年に初の長編小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』を発売。

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取材・文/吉田可奈 撮影/田中麻以

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