「ユダヤ人迫害」について子どもに聞かれたら。ホロコーストの歴史と現代へのつながりをやさしく解説【歴史から見えてくる現代社会】

ナチスドイツによる虐殺をはじめ、ユダヤ人はこれまで迫害されてきた歴史があります。ホロコーストのようなユダヤ人にまつわる言葉の意味を学びながら、現在のイスラエルやパラスチナの問題にどうつながっているのか、ユダヤ人迫害について解説します。

ユダヤ人迫害の歴史を知ろう

ユダヤ人が迫害されてきたのは、近年のことではなく、古代から始まっていました。

古代から中世へ:ユダヤ人迫害の始まり

ユダヤ人は、「ユダヤ教」を信仰する人やその子孫といわれています。ユダヤ教は「キリスト教」のルーツとなった宗教ですが、キリスト教は世界中に広まっていったのに対して、ユダヤ教を信仰する人はそれより少ないのが現状です。

そのためキリスト教とユダヤ教の思想の違いから、キリスト教が広まったヨーロッパでは、ユダヤ人が迫害を受けることが多かったのです。古代や中世でも、ユダヤ人は暴行・略奪といった差別的な行為を受けていました。

ユダヤ人コミュニティの影響と貢献

世界各地に、ユダヤ人のコミュニティがあります。よく知られているユダヤ人には、映画監督のスティーブン・スピルバーグ、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグ、ミュージシャンのボブ・ディランなどがいて、世界的に活躍する著名人もたくさんいるのです。

また、世界的金融業にもユダヤ人の貢献が大きいとされ、その影響力についてもよく取り沙汰されます。それが陰謀論となってユダヤ人差別を助長する一因にもなっています。

ユダヤ人とは何か? -起源から文化まで

ユダヤ人迫害

では、ユダヤ人とは何なのか、まず確認してみましょう。

ユダヤ教の基本

ユダヤ人は、ユダヤ教を信仰する人とその子孫です。ユダヤ教は「古代イスラエル」で発祥し「ヤハウェ」と呼ばれる唯一神を信じています。ユダヤ人は現在、イスラエル、アメリカ、ロシアなど、世界各国に住んでいます。

ユダヤ文化と伝統

ユダヤ教では「カシュルート」と呼ばれる厳格な食事の規定があり、食べていいものと食べてはいけないものが分かれています。また年に6回、断食(だんじき)日が存在して、この日は一切の飲食が禁じられています。

ポグロムからホロコーストへ:暗い時代の出来事

古くからあったユダヤ人に対する迫害ですが、たくさんのユダヤ人が命を落とすことになったのは、第二次世界大戦中のナチスドイツによる「ホロコースト」です。

ポグロムとホロコースト:ユダヤ人に対する暴力の波

「ポグロム」とは、ロシア語で「破滅」「破壊」を意味する言葉で、主に19世紀の帝政ロシアとその周辺で行われたユダヤ人に対する迫害行為です。19世紀後半にはウクライナとロシア南部で広範囲に反ユダヤ暴動がおこり、ポグロムという語が流布するようになりました。

一方「ホロコースト」とは、ナチスドイツによってユダヤ人が大量に虐殺されたことをいいます。ナチス党はドイツの政党のひとつで、アドルフ・ヒトラーは1921年にナチス党の党首に就任しました。そして1932年のドイツの選挙で、ドイツ議会の最大の党になると、ドイツ政府のトップとなる首相に任命されたのです。これが、ナチスドイツの始まりです。当時、経済不況に見舞われていたドイツについて、ヒトラーは「すべてはユダヤ人が原因である」とし、ユダヤ人を追いやる政策を打ち出したのです。

ナチスによるユダヤ人の絶滅計画

ナチスドイツは、ユダヤ人からドイツの市民権をはく奪し、ユダヤ人がドイツ人と結婚することを禁止する法律も作り、ユダヤ人をドイツ社会から締め出していきました。さらに、ドイツやドイツの領土内にあった療養施設にいるユダヤ人の患者を「安楽死」させるプログラムも行ったのです。これは、ユダヤ人を大量殺りくした「ホロコースト」の前段階といえるものでした。

そして多くのユダヤ人をアウシュヴィッツなどの強制労働収容所に連行し、そこで強制的に劣悪な環境下で労働を行わせたり、ガス室で殺害を行ったりしていったのです。ホロコーストで命を失ったユダヤ人は、約600万人にものぼったといわれています。

アウシュヴィッツ第二強制収容所の鉄道引き込み線と「死の門」(ポーランド・ビルケナウ)。ユネスコは二度と同じ過ちが起こらないよう願いを込め、1979年に世界遺産に登録した。日本では、いわゆる「負の世界遺産」に分類される。収容者の90%がユダヤ人だった。

ホロコーストの影響

ホロコーストは、第二次世界大戦でドイツが連合国側に負けたことで終わりを迎えました(1945)。多くの人が命を失ったものの、そこで生き延びたユダヤ人にとっては、強制収容所から解放された後も厳しい現実が待ち構えていたと考えられます。家族や知人を失い、仕事を失い、さらにユダヤ人であるというだけで多くの人が命を奪われたことから、生き延びたユダヤ人にとっては、その恐怖はずっとつきまとっていたのです。

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イスラエル建国-ユダヤ人にとっての希望の地

長い間、迫害を受けてきたユダヤ人にとって、希望の地となったのがイスラエルです。

イスラエル建国への道のり

厳しい歴史のなかで生き延びたユダヤ人たちの間には、19世紀後半に入ると「ユダヤ人の国を作ろう」という考え方(シオニズム)が力を持つようになっていきました。

ドイツやヨーロッパでホロコーストが起き、さらにロシアでも迫害されたことから、ユダヤ人はパレスチナに多く移住するようになります。そして、第二次世界大戦後、イギリスや国連の後押しもあって、1948年に建国されたのが「イスラエル」です。

国家としてのイスラエル

しかしイスラエル建国の陰では、もともとその地域に居住していたアラブ系のパレスチナ人が住む場所を追われました。それらのアラブ系住民が、現在の「ヨルダン川西岸地区」と「ガザ地区」などに逃れているのです。

パレスチナ自治区は、ヨルダンとイスラエルの間の「ヨルダン川西岸地区」と、地中海東岸でエジプトに接する「ガザ地区」とがある

またイスラエル建国にはアラブ系の人々が反発していたことから、イスラエルが建国を宣言した翌日には、周辺のアラブ諸国がイスラエルに攻め込み、「第一次中東戦争」(1948~49)が勃発(ぼっぱつ)することとなったのです。

以来、数次にわたる中東戦争を経ることとなり、中東紛争として周辺各国を巻き込む国際問題として現在に至ります。

現代のユダヤ人-世界とイスラエルでの生活

ユダヤ人

複雑な歴史的な背景があって生まれたイスラエル。そこで暮らすユダヤ人は今、どのような生活を送っているのでしょうか?

現代におけるユダヤ人の状況

現在、ユダヤ人が多く暮らすのはイスラエルやアメリカです。アメリカでは、750万人ほどのユダヤ人が生活していると推測されています。その多くはかつて迫害されてきましたが、さまざまな人種間で結婚や養子縁組が行われ、改宗した人もいたと考えられます。

イスラエルの現代社会

イスラエルは、2.2万平方㎞と四国ほどの大きさの領土に、約950万人が暮らす国です。主な民族はユダヤ人で、国民のおよそ74%を占めています。現在はハイテク産業や観光業を中心に、中東地方で最も発展している国のひとつです。日本はイスラエルと国交を結び、イスラエルに進出している日系企業もあります。

ただ、イスラエル建国をきっかけに始まった第一次中東戦争をはじめ、この地方では第四次中東戦争まで、たびたび紛争が起きています。そのため外務省の海外安全ホームページによると、イスラエルの危険レベルは「不要不急の渡航中止」を求めるレベル2です。地域により、それ以上に危険なレベル3やレベル4の地域もあります(2023年11月時点)。

嘆きの壁(エルサレム)。紀元前20年頃、ヘロデ大王によって完全改築に近い形で大拡張されたエルサレム神殿を取り巻く外壁の西側になる。ユダヤ教徒が壁に手を触れ祈りを捧げている。広場の前の壁は高さ約19m、地下に埋まっている部分も含めると32mもあるという。

パレスチナとの間に紛争が勃発

2023年10月に始まったのは、パレスチナ自治区であるガザを実効支配しているイスラム組織「ハマス」によるイスラエルへの襲撃です。これにより、イスラエルとガザでは武力衝突が起こり、多くの民間人が巻き込まれる事態に発展しています。

イスラエルとハマスの紛争

現在行われているイスラエルとハマスの紛争は、ユダヤ人とアラブ人による紛争ともいえます。そして、その背景には、これまで迫害を受けてきたユダヤ人と、アラブ人との問題が複雑に絡んでいるのです。

日本から遠く離れた地で起きていることとはいえ、ユダヤ人というだけで迫害を受けてきた人々がいて、紛争によって家族を失ったりケガをしたりする人が絶えない現状は、痛ましいものとしかいいようがありません。

ユダヤ人の歴史を知ろう

ユダヤ人は、何世代にもわたって差別、抑圧などを受けてきました。それが、現在の問題にもつながって深く根を張っているのです。そんな彼らの歴史を知り、そのような人々がいると知ることから、まずは始めてみませんか。

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文・構成/HugKum編集部

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