野菜を食べると虫歯になりにくい
1992年に武庫川女子大学の森下敏子氏が報告した研究では、457名の5・6歳の子どもを対象として、幼児の虫歯発生と食生活、特に野菜摂取との関連について調査するため、父母に対してアンケートを行いました。
その結果、野菜の好きな子どもの虫歯発生率が有意に少ないことが明らかになりました。
さらに、両親の食べ物の嗜好で野菜を好む家庭でも、子どもの虫歯が有意に減少しました。
野菜の種類では、ジャガイモ、キャベツ、キュウリ、ニンジン、トマトを好む子どもに虫歯が少なく、調理法では野菜ジュースやサラダなど、生の野菜を食べる習慣のある子どもに虫歯が少ないことも判明しました。
では、どうして野菜を食べることが虫歯予防につながったのでしょうか?
「清掃性食品」と「停滞性食品」
そこで考えられるのが、“食品と歯の馴染み”です。例えば、ビスケット、チョコレートといったお菓子は美味しいけれども、歯にまとわりついて不快な思いをされた方もおられるのではないでしょうか?
このような食品は“停滞性食品”と呼ばれ、歯の表面や歯の間に粘着しやすいだけでなく、砂糖をたくさん含むものも多く、虫歯リスクが上がります。
それとは逆に、食物には「歯をキレイにしてくれる」といううれしい効果が認められる“清掃性食品”があり、2つに大別されます。
・直接清掃性食品
噛むことで歯や粘膜の表面が清掃される。
例:ゴボウ、セロリ、キャベツ、こんにゃく等
・間接清掃性食品
口に含むと唾液分泌が促され、食物を洗い流す。
例:梅干し、レモン、酢の物、ピクルス等
まずは直接清掃性食品ですが、これはゴボウ、セロリ、キャベツ等の食物繊維を豊富に含むような噛み応えがある野菜などで、噛むことにより唾液が多く分泌されるだけでなく、繊維質が歯や粘膜の表面を清掃してキレイにしてくれます。上下の歯がしっかり噛み合うと、さらに直接清掃性が発揮されます。
また、梅干しやレモンなどに代表される酸っぱい食品は口に含むだけで唾液分泌が促進され、食渣や歯垢が口の中に滞るのを防ぎます。これを間接清掃性食品と言います。
唾液にはこのように汚れを洗い流す自浄作用だけでなく、ラクトフェリンや分泌型IgAなどの抗菌物質による抗菌作用があるため(関連記事を参照)、虫歯菌などの病原菌が増えるのを防いでくれます。ですから、「野菜を食べると虫歯になりにくくなるよ」と子どもたちに伝えるのもいいですね。
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子どもはなぜ野菜が嫌い?
2007年に関東学院大学の江田節子氏が報告した研究では、幼児の野菜摂取に関する食習慣と保護者の食意識について、神奈川県の幼稚園児270人とその保護者を対象にアンケート調査を行いました。
その結果、73.3%の子どもに野菜嫌いが認められ、摂取頻度が高いと考えられる13種類の野菜のうち嫌いな子どもが最も多かったのがピーマンであり、次いでナス、ネギなどと続きました(図1-1)。
また、野菜を食べるのが嫌いな理由に味やにおい等がありますが(図1-2)、特にピーマン(味、におい、見た目)やトマト、大根は3つの理由で苦手な子どもが多く、ピーマンとトマトは食べるのが嫌いな野菜(図1-1)でも上位にランクインしました。
一方、偏食に対して74.5%の保護者が調理法の工夫をするなど、大半の保護者が何らかの対応をしていることも明らかになりました。
野菜嫌いを克服するには?
では、野菜の苦手意識に対し、どのような対応が考えられるでしょうか。
1.見た目(色や形)
子どもは、野菜の見た目の第一印象で食べられるかどうかを判断します。特に色の濃い緑黄色野菜は嫌われる傾向にあります。
調理の工夫として、細かくして色を目立たなくしたり、ナスのように火を通して色を和らげたりすることが大切です。
2.におい・香り
初めて見る食べ物は、本能的に安全かどうかを確かめるために匂いを嗅ぎます。その匂いが苦手ならば、食べることなく嫌いになる可能性があります。
匂いを抑えるために茹でたり、スープで煮たりしましょう。
3.食感(歯ごたえ、舌触り)
オクラのように種や粘つきがある野菜やセロリなどの繊維質の多い野菜、カボチャのように皮の厚い野菜は食べにくく、苦手な子どもが少なくありません。
細かく刻む、よく煮込むなど、食べやすくすることが重要です。
4.味・風味
トマトなどの酸味やゴーヤなどの苦味といった刺激性のある味覚は、子どもにとってなかなか馴染めない味です。これらの味は腐敗や毒性を教えるサインとして本能的に避けてしまいます。
調理の工夫としては、スパイスで味や風味を調整する、油でコーティングするなどがあります。
5.食事環境・農業体験
食事の時間を楽しくする心掛けが大切です。家族で楽しく食卓を囲んで「この野菜はおいしいね」といった会話をすると、「これがおいしい味なんだ」と理解を示す子どももいるでしょう。それに何より、親がおいしそうに食べている姿を見せるのが子どもとその野菜の距離を近づけます。
また、各地で開催される野菜のイベントなどに親子で参加して種まきや収穫体験をしたり、野菜についての勉強会で知識を増やしたりするなどして、積極的に野菜自体に興味を抱かせて親近感を与えることも大切です。
野菜と触れ合って野菜を好きになろう
2016年に筑波大学の木田春代氏らが報告した研究では、北海道の5幼稚園の年少児379人を対象として、トマトの栽培・収穫や試食体験がトマトの嗜好にどのように影響するかなどを調査しました。
その結果、トマトの嗜好が栽培前と比べて収穫後および収穫6カ月後で改善し(図2)、多くの子どもで苦手なトマトを食べられるようになる偏食の改善が認められました。
それに加えて、野菜について知っていることを楽しそうに話したり、食べ物を残すことは「もったいない」と言ったりするなど、食に関する興味や意識も向上しました。
また、2017年に順天堂大学の山口琢児氏らによって報告された研究では、農作業が精神面に及ぼす影響について調査しました。
野菜の収穫などの農作業の前後に唾液を採取してホルモン成分を分析した結果、農作業後にはストレスホルモンの一種であるコルチゾールが平均で約3分の1に減少したのに対して、オキシトシンという幸福ホルモンの増加が認められました(図3)。
この結果は、農作業がストレスの軽減や幸福感をもたらすことを示唆しています。
土との触れ合いは野菜に親しみを覚えるだけでなく、心理面でも好影響を与えるのです。自然と触れ合い、子どもたちがすすんで野菜を食べるようになってくれることに期待したいですね。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・森下敏子:幼児の生活習慣および食事歴と虫歯 第1報.食生活総合研究会誌,3(2);36-44,1992.
・島谷浩幸:歯科から見る農作物と健康〔2〕農作物と虫歯予防.農業および園芸(養賢堂),97(7);634-637,2022.
・江田節子:幼児の食生活に関する研究ー幼児の野菜摂取に関する食習慣と保護者の食意識についてー.人間環境学会『紀要』第7号,March 2007.
・木田春代ほか:幼稚園における野菜栽培活動が幼児の偏食に及ぼす影響ートマト栽培に関する検討ー.栄養学雑誌,74(1);20-28,2016.
・山口琢児ほか:農業公園での農作業および自然体験のストレス軽減作用.ストレス科学,32(2);169,2017.