知ってますか?小さく生まれる赤ちゃんが増えている現状。赤ちゃんの命を救う「母乳バンク」のドナーがいま、求められています

1500g未満で生まれた赤ちゃんに、さまざまな事情でママの母乳が与えられないとき、ドナーのママから寄付された母乳を与える「母乳バンク」。近年は小さく生まれる赤ちゃんが増えていて、母乳バンクのニーズがさらに高まっています。一般社団法人日本母乳バンク協会代表理事を務める、昭和大学医学部小児科教授 水野克己先生に、小さく生まれた赤ちゃんに母乳が必要な理由や母乳バンクの特徴について聞きました。

小さく生まれる赤ちゃんが増えています

近年、小さく生まれる赤ちゃんが増えています。厚生労働省が2021年に発表した「令和3年度出生に関する統計の概況」によると、2019年は1500g未満で生まれた赤ちゃんは5051人、1000g未満で生まれた赤ちゃんは2172人にのぼります。

双子、三つ子などの多胎では、1500g未満で生まれた赤ちゃんは1416人、1000g未満は474人でした。

小さく生まれた赤ちゃんは消化器官が未熟。粉ミルクでは上手に消化吸収できません

小さく生まれた赤ちゃんは、ほかの赤ちゃんよりも皮下脂肪が少なく体温や水分を自力で温存することができない特徴があります。また消化器官が未熟です。粉ミルクだと成分が上手に消化吸収できないため母乳が必要ですが、さまざまな事情でママの母乳が与えられないことあります。

母乳には壊死性腸炎という命にかかわる病気を防ぐ効果も

母乳には、小さく生まれた赤ちゃんの腸を早く成熟させる免疫物質が含まれていて、壊死性腸炎という病気を防ぐ効果があることがわかっています。壊死性腸炎は、腸の血液の流れが悪くなり、細菌感染などを起こして腸が壊死する病気です。悪化すると命にかかわることもあります。とくに妊娠32週以下で生まれた赤ちゃんや1500g未満で生まれた赤ちゃんは注意が必要な病気です。また母乳は、慢性肺疾患や未熟児網膜症などの病気を防ぐ効果があることも知られています。

そのため小さく生まれた赤ちゃんは、個人差はありますが、腸の働きが整う生後1~2カ月ぐらいまでは母乳が必要です。

母乳の品質を守るために、ドナー登録には一定の基準を満たすことが必要です

ドナーからの母乳を与えるというと衛生面や母乳を介した感染症などが気になるママ・パパもいるでしょう。しかしドナー登録をするには、
①指定された医療機関で問診や血液検査を行い、梅毒やB型肝炎、HIV抗体などのスクリーニング検査がすべて陰性であること
②これまで輸血や臓器移植を受けていないこと
③たばこ、アルコール、薬剤、カフェインは規定を満たしていること
などの条件があります。たとえばカフェインの摂取は、1200mgを超えないようにし、一度に50mg以上摂取した場合は、2時間以上経ってから搾乳するなどの決まりがあります。

またドナー登録をしても、急性感染症に疾患したり、乳腺炎などがあるときは母乳の提供ができないなどのルールがあります。

ドナーから届いた母乳は適切に管理されて、母乳が必要な赤ちゃんたちへ

ドナーのママたちから寄付された母乳は、低温殺菌処理、細菌検査、冷凍保管という工程を経て、新生児集中治療室(以下NICU)の要請に応じて、1500g未満で生まれた赤ちゃんやミルクアレルギーなどでミルクが飲めない新生児など母乳が必要な赤ちゃんに届けられます。

ドナーミルクには識別番号がついていて、赤ちゃんにはどのドナーミルクが何ml与えられたかわかるように記録されます。記録は20年間保存します。

母乳バンクは、110年以上前にウィーンで誕生。現在は66ヵ国以上に広がっています

母乳バンクは、日本では2014年、昭和大学江東豊洲病院に設立されたのが始まりです。しかし世界ではもっと歴史が古く、最初の母乳バンクは1909年ウィーンで誕生。今ではオーストラリア、ニュージーランド、ポーランド、トルコ、中国など66ヵ国以上に母乳バンクがあります。

2023年度のドナー登録数は170人。89の医療機関にドナーミルクが届けられています

2023年度の日本の母乳バンクのドナー登録数は341人。提供された母乳量は約195万mlNICUに配送したドナーミルクの量は約89万mlです(49月末の統計)。

NICUがある大学病院、総合病院、こども病院など、89の医療機関にドナーミルクは届けられています(202311月現在)。

自分と同じように不安でつらい思いをしているママを救いたくてドナーに

ドナーになったママからは、次のような声が聞かれます。

・わが子も小さく生まれてNICUに入院していました。赤ちゃんのことを考えると不安だし、昼夜問わず搾乳をするのですが、せっかく搾乳しても、赤ちゃんが飲まなくて処分するときはつらかったです。私と同じような思いをしているママたちの力になりたいと思って、ドナー登録しました

・わが子はNICUで亡くなってしまったのですが、母乳は出ます。母乳を届けて、ほかの赤ちゃんに元気になってほしいと思い、ドナー登録しました

ママが産後すぐにがんで死去。ドナーミルクで命をつないだ赤ちゃん

過去には、末期がんのママが治療のために妊娠24週で528gの赤ちゃんを出産。産後まもなくしてママが亡くなってしまったために、その赤ちゃんにドナーミルクを届けたこともあります。その子はドナーミルクですくすくと育ち、1歳を過ぎたころにニュースにもなって成長した姿を見たときは、とても感慨深いものがありました。

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小さく生まれた赤ちゃんに安定的にミルクを届けるために! クラウドファンディングで協力を呼びかけ中

母乳バンクの課題は、低温殺菌器が1台しかないことです。専用の低温殺菌器は日本では製造しているメーカーがないため、イギリスから輸入しました。以前は11500万円程度でしたが、物価高騰や円高の影響で現在は12300万円ぐらいします。他国の母乳バンクは、低温殺菌器は複数台持っているのですが、日本は1台しかないのが現状です。もし故障した場合は、今のところ国内では修理ができないため、数カ月間にわたり小さく生まれた赤ちゃんに母乳が届けられなくなってしまいます。しかし購入するには予算がありません。

そのため20231229日までクラウドファンディングで、低温殺菌器購入のための支援協力を呼びかけています。

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記事監修

水野克己先生|昭和大学医学部小児科教授

医学博士。専門分野は新生児医療、育児相談、体重増加不良、母乳育児支援(舌小帯短縮、乳房トラブル含む)。一般社団法人日本母乳バンク協会代表理事、一般財団法人日本財団母乳バンク理事長を務める。

取材・構成/麻生珠恵

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