【簡単要約】5人のお子さんがいるママ先生が解雇された事件
小中学校で起きた事件です。裁判となり、結果、ママの勝訴です。
事件はザックリ以下のとおりです。ママは学校に以下の要望を出しました。
ママの要望
「育児休業を延長してくれませんか」
「第6子を妊娠したので軽い仕事に変えてくれませんか」
「コロナ感染が怖いので休ませてもらえませんか」
学校の対応
学校はすべて認めてくれたのですが、最後の休業後、突如です・・・。学校はママに解雇を通告しました。
裁判所の判決
「解雇はダメ!ママに1,015万円払いなさい」
以下、分かりやすくお届けします(学校法人横浜山手中華学園事件:横浜地裁 R5.1.17)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
登場人物
会社
・学校法人
・小中学校が設置されている
ママ(以下「Xさん」)
・教員
・小学生の中国語会話などを担当
どんな事件か?
H21.4、Xさんが学校で働き始めます。第3子の出産〜第6子!!妊娠までの経緯は以下のとおりです。
▼第3子~第6子出産
■H23 第3子を出産
産前産後休業
育児休業
■H26 第4子を出産
産前産後休業
育児休業
■H28 第5子を出産
産前産後休業
育児休業(H28.10.19〜H29.8.22)
▼ 育児休業の延長を申し出る
Xさんは、第5子の育児休業が終わる1ヶ月以上前に育児休業の延長を申し出ました。これはOK、適法です(育児介護休業法 5条3項・4項・6条3項)。学校側は〜H30.2.22までの延長を認めました。
▼ 再度の延長を申し出る
XさんはH30.1.27、育児休業の再度の延長を申し出ました。その結果、〜8.22まで延長されました。
ーーー 学校さん、これらの延長の申し出を解雇事由の1つとしたんですよね?
【学校側】
「はい。人事配置などに混乱が生じましたので」
【裁判所】
「(・・・無理。解雇事由にはならないね)」
詳細はのちほど。
▼ 復職
Xさんは育児休業を終えて復職します。
▼ 第6子を妊娠
復職から約2年後、Xさんは第6子を妊娠します(R2.8)。
Xさんは学校側に「体調がすぐれないので1年生のクラス担任から外してほしい」とお願いしました。以下の条文に基づく請求です。
労働基準法 65条3項
使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
Xさんの要望は聞き入れられました。
ーーー けど、学校さんはこのXさんの要望にも不服だったんですよね?
【学校】
「はい。Xさんが要望してきたのは2学期に入る直前だったんです。なので人事配置に混乱が生じました。なのでこれも解雇事由の1つに挙げました」
【裁判所】
「(・・・これも無理だね)」
詳細はのちほど。
▼ コロナ感染が怖い・・・
この時期は新型コロナが蔓延しており(R2.10)、感染を恐れたXさんは休業を申し出ました。
母子健康管理措置による休業の申し出です。
雇用機会均等法
12条
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。
13条1項
事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。
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ーーー 学校さんは、これにも不服があると?
【学校】
「はい。我々に相談なく突如、申し出があったので」
【裁判所】
「・・・(突如の申し出でもOKなのよ)」
詳細はのちほど。
▼ 解雇通知
学校側の不満が爆発したのでしょう。およそ1ヶ月後、Xさんは解雇を言い渡されます。解雇通知書には以下の理由が記載されていました。
・自己都合による幾多の行為により業務全体の遂行に甚だしく支障があること
・業務に対する責任感、勤務態度および職務遂行能力が著しく劣り、また向上の見込みがないこと
Xさんは解雇無効を求めて提訴。
ジャッジ
Xさんの勝訴です。
【裁判所】
「解雇はダメです」
「Xさんに給料1,015万円払いなさい(2年分)」
「あと慰謝料30万円もね」
順番にご説明します。
育児休業の延長の申し出
ーーー 学校さんの言い分をどうぞ
【学校】
「終了直前になって育児休業の延長の申し出があったんです。人事配置などに混乱が生じました。これは解雇事由である〈職務遂行能力または能率が著しく劣り、また向上の見込みがない〉に該当します」
【裁判所】
「いや、解雇事由にあたりません。Xさんが行った育児休業延長の申し出は適法です。育児休業の申し出を理由として労働者を不利益に取り扱うことは育児介護休業法10条に違反し許されません」
育児介護休業法 10条(不利益取り扱いの禁止)
事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
担任を外してほしい
ーーー 学校さんの言い分をどうぞ
【学校】
「これを要望してきたのは2学期に入る直前ですよ。人事配置に混乱が生じました。なので解雇事由としました」
【裁判所】
「ダメです。「軽易な業務に変えてほしい」とXさんが請求したことを理由として不利益に取り扱うことは、雇用機会均等法9条3項で禁止されてます。解雇事由にできません」
コロナ感染が怖い・・・
ーーー 学校さんの言い分をどうぞ
【学校】
「Xさんは私どもに事前に相談することなく母性健康管理措置として休業の申し出をしてきたんですよ。突如。この申し出によって人事配置に混乱が生じたんです」
【裁判所】
「別に相談しなくていいのよ。申し出時期もいつでもいい。突如でもいい。これを解雇事由とすることは雇用機会均等法9条3項に違反しています」
というわけで解雇は無効になりました。
Xさんが得た金額
約1,015万円です。内訳は以下のとおりです。
給料(R2.12〜R5.1) 792万円(月額33万円×約2年)
冬のボーナス 3回 159万円(53万円×3回)
夏のボーナス 2回 64万円(32万円×2回)
これはバックペイと呼ばれています。解雇の裁判に勝てば、過去にさかのぼって給料がもらえるんです。具体的には【解雇された日から → 訴訟になって → 判決が確定する日までの給料】をもらえます(民法536条2項)。 今回のケースでは裁判が約2年続いたので2年分の給料です。
慰謝料 30万円
さらに裁判所は慰謝料30万円も認めました。慰謝料まで認めるのはレアケースですね。
ーーー なぜ、慰謝料も認めたのでしょうか?
【裁判所】
「Xさんが適法に権利を行使して学校側と一般的な協議をしたにもかかわらず、突如として解雇を通知しているし、今回の解雇は雇用機会均等法に違反する妊娠中の解雇であることからすれば違法性は大きいからです。上記の1000万円でXさんの精神的苦痛が回復したとはいえないと判断しました」
さいごに
今回は、妊娠出産した女性が適法に権利行使したにも関わらず解雇された事件をご紹介しました。
文字数の関係で法律の詳細は書けませんでしたが、今後もママパパに向けて権利をお伝えする記事を書いていきたいと思います。
「こんな解説してほしいな〜」があれば下記URLからポストして下さい。また次の記事でお会いしましょう!